建築と空間 イタリアの巻 1994年

24 アルベロベッロ

 

 ヴェネツィアから一気に南イタリアのバーリヘ移動する。今回の旅行で唯一の夜行列車利用である。ヴェネツィア発20時54分、バーリ着が6時36分とちょうどよい時間帯だ。列車番号はE963とあり、急行に相当するのだろう。

 コンパートメントの2等座席車に収まる。他にお客はなく、発車するとたちまち眠りに落ちた。

 

 

 バーリからは南東鉄道のローカル線に乗り換える。ホームは駅裏手のうらぶれた場所にあって、日差しが温かい。朝から9℃もあるのだから当然だ。

 ホームにはブルーブラックとクリームに塗り分けられた古典的なスタイルの客車が待っている。車両の長さも寸詰まりなのに、車室は1等と2等とに分けられている。

 

 

 

 列車は内陸の農村地帯を走っていく。オリーブ園があり、垣根の代わりにウチワサボテンが生えている。やがてアルベロベッロが近づくと、点在する農家の屋根が石積み円錐形のトゥルッロに変わった。今回の旅行ではアルベロベッロを起点に近隣の丘上都市をいくつか訪ねるつもりである。

 

 

 

 

 

 アルベロベッロは近年売り出しはじめた観光地で、団体観光のコースにもよく組み込まれている。北部の街では台湾人や韓国人の団体も多かったが、この街は今のところ日本人専用である。通りを歩けばガイドが「てっぺんを白く塗っていないのが古典的トゥルッリです。」と解説しているし、スーパーマーケットでは爺さんが「このオレンジ甘いかどうか店員に尋ねてくれ」などと言ってくる。(いくら年寄りとはいえ、そんなことぐらい自分ですればいいと思うので、台湾人のふりをして無視してやった。)

 

 

 

 

 

 

 

 町ではちゃんと土産物の準備も心得ていて、毛糸のショールやワインのほかにチョコ味などの甘いリキュールにも力を入れているらしい。もっとも、これらの商品はあまり売れていないように見える。土産物店の中には屋上を開放している店もあって、上がらせてもらう。

 

 

 

 ツアー客はこの街に泊まらないので、朝晩は二つあるトゥルッリ集中地区も落ち着い た表情を見せる。レストランも夜は貸し切り状態で、音楽までかけてもらって何だか悪いような気になる。メイン料理はシェルマカロニのラム肉煮込みがけであった。北部ではプリモ・ピアットにミネストローネスープが必ず付いたが、南部では見かけない。

 

 

 

 

 

 20時過ぎ、トゥルッリのある通りはもう人通りが絶えている。代わって、街の中心ポポロ広場には若者たちが集まっている。高下駄を履いたピエロも登場して、口から火を噴いたり、ガラスの破片の上に乗ったりするパフォーマンスを繰り広げる。特にお金を集めることもしなかったから、趣味でやっているのだろうか。坂を下って退場する彼らを子どもたちが追いかけてゆく。

 

 

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