UK & EIRE 周遊 1995年

12 アイルランドからウエールズへ

 

 ダブリン・コノリー駅から、今度は南に向かう列車に乗る。なんとなく田舎じみた列車で、発車の度に車掌が手動の扉を閉めて回っている。向かいに座った姐さんは、鼻をかんだティッシュをセーターの袖口に押し込んだ。そして列車は真っ暗闇のなかを、ごとごとごとごと走ってゆく。終点ロスレアまでの距離はベルファストとほぼ同じなのに、時間は1.5倍もかかるのだ。

 ウェクスフォードという駅では殆どの乗客が降りてしまった。右手に市街を見ながらノロノロと走り、さざなみの立つ入江を渡る。街はずれに大きなタルボットという名のホテルがある。他の街でも同名のホテルをよく見かける。

 

 終点のロスレア・ハーバー駅は周囲に何もない寂しいところであった。前方にはオレンジ色の街灯の中に、白い水銀灯を点けた船体がビル倉庫か工場のように立ちはだかっている。この船でブリテン島のフィッシュガードへ渡るのだ。

 出航は21時50分でフィッシュガード着は1時20分、30分後にロンドン行きの特急が接続するダイヤになっている。昔は宇高連絡船にも深夜接続の便があって大阪からの急行「鷲羽」に連絡していたのを思い出す。

 国際航路なので、船のターミナルには両替所が開いている。なぜか英語の他にフランス語のアナウンスもあり、かなり広い免税店もある。しかしお客はまばらである。ダブリンとロンドンを行き来するならホリーヘッド経由という近道があるし、第一に今どき、たいていのお客は飛行機を選ぶだろう。

 そのせいか、一見小綺麗な船内もシートはどこかしらが壊れているし、フィッシュガード到着は1時間も遅れたうえに、ギャングウエイの不具合とかでさらに15分待たされた。乗り継ぐのはフェリー連絡が使命の列車だからおいて行かれる心配はないものの、どことなくヤル気が感じられない。

 フィッシュガード駅には「リザベーション」の窓口があるのに、切符は車内で買ってくれと言われる。両替所もこちら側にはない。

 

 

 

 闇の中をガラガラの列車は突っ走り、夜明け前のカーディフ・セントラル駅に着いた。まだ5時半を回ったばかりなのに「クイック・スナック」は営業している。チーズバーガーとジャムパンを食べ、街に出る。

 

 

 

 ウエールズの首府であるカーディフにはもちろん城がある。正方形に近い城壁の片隅に建つノルマン時代のキープが載っている。中央駅と城の間がこの街の繁華街で、アーケードがいくつかと、鉄骨屋根に覆われた中央市場とがある。

 中央市場は100年もの歴史があるそうで、一見すると工場か機関庫を思わせる建物も少しはありがたみが感じられる。オレンジ色の照明が暖かい。

 

 

 

 

 カーディフ・セントラル駅からポーツマス行きの列車に乗り込む。ブリテン島の南西部を斜めに横断する列車で、途中のソールズベリで下車するつもりである。

 しばらく走ると「セヴァーン・トンネル・ジャンクション」なる小駅に停まる。その先で列車は河口とも湾奥ともつかないブリストル「海峡」の下をくぐる。トンネルを抜けるのに3分45秒も要したから、やはりかなり幅が広い水面といってよい。

 延々と2階建てのタウンハウスが続くブリストルの市街地を走り、ブリストル・テンプルミーズ駅で方向転換する。ここを出るとまもなく美しい渓谷に沿うように線路が敷かれている。リバーサイド・インなる小さな宿屋があり、そばのドックには沢山のボートが係留されているのが見える。次に停車したのはバース・スパ駅で、4階建ての豪勢なアパート群が街外れまで建ち並んでいた。バースでは川にかかる石橋も趣がある。

 渓谷に沿いトンネルも多い路線というのは英国では珍しいのではないかと思う。

 

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