南アメリカ鉄道旅行で視力回復 1991年

1 ロサンゼルスのライトレール

現地時間の12時ちょうど、ロサンゼルス国際空港に着いた飛行機のドアが開くと、冷たく乾いた空気が流れ込んでくる。Tシャツ姿の女の子が「しまった!」と叫ぶ。羽織るものも持って来なかったようだ。

空気は爽やかでも、この空港での乗り継ぎを考えると気分は重い。パスポートに押されているビザはC-1とかで、トランジットビザに相当するものらしい。そのせいか、前回来た時には入国審査官にいちゃもんをつけられて、危うく乗り継ぎ損ねるところだったのだ。そもそも入国の意思のないものにまで入国審査を義務付けているのだから、大国意識丸出しの嫌なところという印象しか残っていない。

ところが今回は、拍子抜けするほどあっさりと審査を通過した。前回と違って入国するつもりなのが良かったのかもしれない。ブエノスアイレス行きへの乗り継ぎ時間を利用して、去年開業したライトレールに乗ってみようと思うのだ。

ライトレールは空港から10キロメートルほども東を走っているので、路線バスに乗ることになる。しかし、ターミナル前の車寄せにバスが来るわけではない。まずシャトルバスに乗ってロットCなる場所へ行き、そこからRTDという経営体の路線バスに乗らなければならないのだ。到着ロビーにはもちろん案内所があるのだが、木で鼻をくくったような対応な事は分かっているので立ち寄らない。

そのロットCというのも駐車場の片隅にポールが立っているだけの停留所で、大空港のバスターミナルとしてはお粗末この上ない。

 

 

 

 

さて、そのRTDバスに乗って、ライトレールの103番街停留所になんとかたどり着いた。サザンパシフィック鉄道の線路が並行しており、貨物列車が通過する。コンテナを2段に積んだ長大な編成である。傍らにはかつての鉄道駅も残されている。写真を撮っていると通りかかったおばあさんが「日本から来たのかい。日本の電車だよ。」と声をかける。空港の職員とは違い、普通の市民は人がいいのだなと思う。

停留所には券売機が備えられている。黒人の青年が使い方を訊ねてくる。なにも旅行者然とした奴に訊かなくてもいいじゃないかと思うけれども、実際、この券売機はわかりにくい。正面には四角いボタンが5つ並んでいるだけで、Aを押せば片道、Cを押せば往復ということらしい。往復切符でも割引があるわけではない。

 

 

2両編成の電車が来て乗り込む。運転士がサイドスティックの上部を90度回してスタート。おばあさんが言ったとおり、日本車両製の電車で素晴らしい加速性能だ。この技術がなぜ自国の路面電車で活かせないのだろう。最高速度も時速56マイル(90㎞/h)と高い。ただし、徐行区間があちこちにあって、黄色いビニールの旗が立っている。

大きな通りや他の鉄道とクロスするところは立体交差になっている。連続立体交差ではなく、いちいち昇り降りするけれども坂道をものともせず駆け抜けていく。

電車は素晴らしくても、沿線の風景は工場やハイウエイばかりか目立ち、殺伐としている。3面がコンクリートで固められた幅200メートルほどの川を渡るとロングビーチの街に入ったらしい。路面区間に入り、速度が落ち、チンチンと鐘を鳴らしながら走る。遅くなったと言っても時速35マイル(55㎞/h)くらいは出している。

 

 

終端部はいくつかの街区を廻るループ区間になっているので、繁華街が近いと思しき所で電車を降りた。が、目立つのは駐車場ばかり、歩いている人など皆無といってよい。それどころかそばのビルは内部が焼け落ちてがらんどうではないか。この先に行けば海があることはわかっているけれども、そこまで行こうという気力も萎えた。わずかに人の気配がするハンバーガーショップで昼食にする。巨大とはいえ、ハンバーガー1個のセットメニューが6ドル26セント(800円)もする。

 

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