ユーゴスラビア東半分+アルバニアの巻 1996年

9 スコピエ行き普通列車 

 これから乗車するのはビトラ11時50分発スコピエ行きの普通列車である。スコピエまでの所要時間は3時間36分となっている。

 

 

 

 窓周りを石貼りにした感じのいい駅舎を通り抜けると、屋根のないホームに3両の客車が停まっている。トイレが中央部に位置する車両も見られる。

 

 

 

 

 定刻に発車。盆地の中を走り、10分から15分おきくらいに駅に停まる。駅といっても低いホームがあるだけのところもある。ローカル列車なのに車内販売が回ってくる。コーヒー、ジュース、お菓子の類で、カートで巡回するのは珍しい。

 丘を越えると再び畑が広がる。実っているのはキャベツばかりで、市場で見た様々な野菜はいったいどこで栽培されているのかと思う。

 

 

 12時40分プリレプという比較的大きい駅に着く。ホームの水飲み場にキリル文字とラテン文字で「水」と書いてある。

 プリレプからは峠にさしかかる。長いトンネルを抜けると右手に谷が広がり、対岸にも線路が見える。やがて列車はUターンして、対岸を走り始めた。ほどなく、イチョウがすっくと生えているボゴミラという駅に着く。ここからはポプラの多い谷を下ってゆく。但し、山の緑は薄い、はげ山である。モスクのある村と教会のある村が交互に現れる。学校帰りの小学生たちも乗ってくるけれども、ひと駅かふた駅で降りてしまう。

 

 

 

 岩山を抜け、高層アパートと工場のあるチトフ・ヴェレスに着いた。町の規模のわりに乗降客は少ない。チトフ・ヴェレスでは幹線に合流したのだが、車窓の方は岩山の間の水量豊かな渓谷に変わった。対岸の高い所に自動車道路が覗いている。谷川の水は後方、つまりギリシャの側へと流れている。水系と言語や民族の境界が一致していないわけだ。

 

 

 高架のスコピエ駅に定刻到着。階段を降りて行くと、首都の中央駅だというのに閑散としている。それにしても旅情のかけらもない、何とも殺風景な駅である。その上切符売場などの場所もわかりにくく、機能的ですらない。駅を出たら出たで駅前広場もなく、幹線道路にいきなり放り出されるのだ。周囲は新市街で、街の中心がどちらかも見当がつかない。

 この後は夜行列車でベオグラードに戻るのだから、この街では食事さえできればよい。ショッピングセンターにたどり着き、テラス席でハンバーガーを食べる。目の前に架かる橋の向こうは旧市街らしいが、真っ暗で入り込む勇気はない。ショッピングセンターのトイレは20デナリ(56円)もして、他の物価と比較すると随分と高い気がする。そのせいか、ちゃんとレシートをよこした。

 夕飯が足りないのでスーパーマーケットでトマトを買う。匂いもなくまずいトマトだ。

 

 

 駅へ戻り列車を待つ。発車時刻は20時45分のところを30分近く遅れた。50分走っただけでもう国境駅に着く。マケドニア側出国審査は車内で簡単に終わり、30分停まった後、発車する。 

 新ユーゴ側では入国管理事務所まで連れていかれる。けれども、壁の一覧表とパスポートを見比べただけでパス。車室に戻ると、今度は消毒をするからと全員が車外に追い立てられた。

 なんだかんだと慌ただしい列車ではあったが、国境を越えてようやく落ち着いた。

 車内販売も回ってくる。売り子はスコピエから乗っていたオヤジだ。闇の中を揺られて、いつしか眠りに落ちていた。

 

<10 ビィェリィナ行き国際レールバス へ続く>

<うさ鉄ブログ トップページ へ戻る>