バルト三国+ベラルーシの巻 2019年

13 ミンスク 

 ミンスクへ戻る夜行列車に乗るために駅へ行く。来るときの昼行列車は南東のオルシャ経由であったが、今度の列車は北西に位置する古都ポローツクをまわってゆく。切符はA寝台に相当するクペーというクラスにした。奮発というほどの料金差はないし、いずれにしろ格安な料金である。

 待合室には飲食物の売店と並んで花屋の売店もある。この待合室でも始終、何かしら放送していてうるさい。出発案内のボードには、列車ごとに「頭から」「尻尾から」という表示がされている。号車番号がどちらから始まるかを表しているのだ。しかし、列車がホームに入ってこないとどちらが頭なのか、乗客にはわからないのではないだろうか。

 

 予約の車室は片側通路の4人コンパートメントであった。通路側の寝台がないから、行きの車内よりもゆったりしているはずなのに、区切られているせいか広さをあまり感じない。

 それよりも、はじめから2段しか寝台が造られていないので、上段寝台が高い位置にある。しかるにハシゴ段は扉脇に3段が展開するだけだから、昇り降りに難儀する。その上、通路上部に設けられている棚は寝具が占拠しており、荷物の置場もない。元3段寝台のプラッツカルタなら、最上段の寝台が荷物棚になっていて余裕があるのだ。 

 通路に掲げられた時刻表を見ると、この車両はミンスク到着後そのまま西部のフロードノ行きとなるらしい。フロードノ往復後にまたヴィテプスクに戻り、明晩の同じ列車に充当されるという運用だ。 

 定刻に発車。半分ほどの乗車率である。深夜に到着のポローツクまでは小まめに停まり乗客を拾ってゆく。いずれの駅も村とも言えないような集落にあるにもかかわらず、乗客が多い。このコンパートメントにも親子連れが入って、満室になった。

 

*    *    *

 

 目を覚ました時には、もうミンスク到着の直前であった。ひとつ前の停車駅は「ベラルーシ」という名の駅である。地図で見る限り、何の変哲もない所のように思えるところだ。しかるに国名を冠するとはどんな所か見てみたかったけれども、通り過ぎてしまった。

 車掌が飲み物の注文を取って回る。エスプレッソを頼んだら、銀の袴をはいた大きなコップに入り、底に粉の沈んだトルコ式コーヒーが出て来る。そういえば、バチコバ・ハータでもエスプレッソのカップがやけに大きかったのはこれだったのか。

 コーヒーはサービスではなく、2ルーブル32カペイカ(66円)とられる。テーブルの上に置いてあった紙が料金表であった。

 

 

 

 

 定刻ぴったりにミンスクに到着する。ベラルーシ国鉄は非常に時間が正確だ。空港のようにきらびやかな駅からおもてに出ると、例のゲート状のビルが出迎えてくれる。空はまだ真っ暗だ。

 

 

 駅前からトラムに乗る。料金65カペイカを運転士に払い、切符を受け取る。車内にキャンセラーもある。朝早いうえに裏通りを通っているせいか、お客はあまり多くない。

 

 

 

 

 

 

 夜が明け始めたカマロフスキー市場に着くと閑散としている。市場自体が9時から営業開始だから、全体にまだ開店準備中といったところだ。「季節の市場」と名付けられているのが野菜・果物の部門で、商品をきっちり並べて壁のように積み上げるのがここの流儀らしい。大きな市場なのに、どういうわけかお客が使えるトイレが見当たらない。

 

 

 

 市場の周辺は星形の高層アパートが並んでいる。この風景、平壌の光復通りに似ている。

 市場を後にして南へ歩く。トラムの線路を越えると閑静な地区になる。ミンスクといえどもモダンなアパートばかりではないのだ。

 

 

 バレエ・オペラ劇場の前を通り過ぎるとトロイツカエ地区に着いた。古い街並みを復興した場所なのだという。確かにその通りで、路地や階段が入り組んだ中に飲食店や宿屋が並んでいる。

 再建だから致し方ないとは思うものの、いかにも「作りました」という感じではある。しかし、この街の歴史を、表面だけでとらえてはいけないのだろう。スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチというノーベル賞作家の「ボタン穴から見た戦争」という本を読むといい。

 

 

 

 トロイツカエ地区の片側は、市内を流れるスヴィスロチ川に面している。川幅が広くなっていて湖のようになった中に小島があって、橋が架かっている。島には「祖国のために犠牲となった息子たちの紀念聖堂」が建てられている。娘たちはどうしたのだろうか。

 

 

 それはともかく、この周辺には広々とした空間にモダンなビルが配置された、未来都市のような眺めが広がっている。未来都市といっても半世紀前に思い描いた近未来といったところだ。

 

 

 

 

 

 それらのビルのひとつに、ガレリア・ミンスク商業センターなるモールを見つけた。最上階はフードコートになっていて、さきほどのトロイツカエ地区を眺めながら食事ができる。

 高校生のアルバイトなのか、かわいらしくかつテキパキとした店員のいる店で、ペンネ、エスプレッソ、ティラミスを注文する。このティラミスがたいへんにおいしい。〆て13ルーブル10カペイカ(330円)だったが、10カペイカはおまけしてくれた。

 エスカレーターを下りて行くと「ZAKKA」という看板が目に入る。贈り物とアクセサリーの店とある。

 さらに、レオナルドという店もある。みかけは100円ショップのようであるが、手工芸やアートの材料、道具専門店である。ペーパー・クイリングの材料を買って、家人へのお土産にする。(安上がりで助かった。)

 ところで、ベラルーシは完全なカード社会である。ボールペン1本、コーヒー1杯でもカードで支払っている。これなら、街なかに両替所はいらない。

 

 

 

 

 

 

 さいごに、これも歴史的な街区を復元したというニャミガ地区を歩く。この地区でも足元は真新しいブロックが敷き詰められている。これはヴィテプスクでも同様で、歩きやすい反面、風情には少し欠ける。

 

 

 鉄道駅に戻り、隣接するバスターミナルから空港行きのバスに乗る。キエフ、ドーハで乗り継いで羽田までの長い道のりが待っている。

 

[バルト三国+ベラルーシの巻 おわり]

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