バルト三国+ベラルーシの巻 2019年

1 ヘルシンキ 

 

 予てから行きたかったバルト三国に旅行する。日数も限られているので、宿泊は各国の首都だけ、その間の移動もバスになってしまうがやむを得ない。ただ、旅程の前後にヘルシンキとベラルーシをくっつけたので、変化も楽しめそうだ。

 

 11月のある日、夜の羽田空港から出発。カタール航空の最新鋭機材であるA350でシートはゆったりとしていたが、食事は去年よりも数段、貧弱になった感じがする。すでに夜食の時間だから不満はないが、朝食も似たようなレベルだったので期待外れに終わる。

 

 

 砂にまみれたドーハの市街地を望みながら着陸。朝もやのせいか、雪景色のようにも見える。2時間40分待ちと適度な接続時間があり、ヘルシンキ行きに乗り継ぐ。

 ドーハからヘルシンキまでは6時間もかかる。フィンランド航空なら東京を午前中に出て、さして変わらぬ時間帯に着けるのだからばかばかしい気もするけれど、帰りの乗り継ぎを考えるとカタール航空が最良の選択肢だったのだ。

 

 エストニアの牧場なぞを眺め、ヘルシンキのヴァンター空港に降り立った。乗り継ぎで利用したことはあっても、空港から外に出るのは初めてである。この空港もハブ空港として一定の地位を占めてはいるものの、ドーハなどから着くと随分とこじんまりした印象を受ける。

 

 

 空港駅に向かう通路の途中にR-KIOSKというコンビニエンスストアがあったので、乗車券を購入する。都心に向かう電車は環状線になっていて、どちらの方向に行く電車に乗っても中央駅まで行ける。この電車はいわば「国電」であるが、ヴァリデーションの機械は路面電車並みに車内に備え付けてある。

 走り出すとたちまち時速119キロメートルまで加速する。滑らかな乗り心地はさすが北欧と感心する。しかし、まだ15時過ぎだというのに太陽は低く、車内はガラガラ、どの駅にもお客はいない。首都の中央駅に向かうというのに、なんともうら寂しい光景が続く。

 

 

 

 所要30分でガラス屋根に覆われた中央駅に着く。停車している電車が黄緑かフクシア色で感じが良い。エリエル・サーリネン設計で名高い駅舎を背にして、港を目指して歩き出す。

 駅でトイレに行きたかったのだが1ユーロもするので敬遠して、書店の2階にあるのを拝借する。

 

 

 

 港に出ると大きなフェリーが停泊していて、手前にレンガ造りの小さな旧市場がある。既に市場ではなく飲食店街として使われている。小綺麗な空間ではあるものの、あまり賑わっている様子はない。

 

 

 岸壁にはテントの店が出ている。今日はさして寒くはないけれど、吹きっさらしの港で商売とはご苦労なことだと毎度のことながら思う。

 港に接して屋外プールが造られていて、水着姿の女の子たちが飛び込んでいる。サウナがあるらしい。

 

 

 

 丘の上に見えているウスペンスキー寺院に入る。内部は濃密なロシアの雰囲気に満たされている。

 

 

 坂道の多い閑静な地区をぶらぶら歩きながら、別な丘の上に建つ大聖堂まで行く。こちらの内部は先程のウスペンスキー寺院とは対照的にしごくあっさりとしていて、要するに面白みがない。

 

 

 

 表に出るとちょうど正面が夕陽に照らされてオレンジ色に染まっている。階段下の広場には観光バスから降りた人たちが大勢いて、こちらを見上げている。

 

 

 繁華街を西に歩いて行く。あちこちの建物内にモールができているので入り込む。小腹がすいたのでパンでも買おうと思うが、小さな菓子パンでも一つ2.5ユーロはする。眺めている分にはいいけれど、とてもじゃないが暮らせないなと三十数年前、初めてのヨーロッパ旅行で抱いた思いが蘇る。

 

 

 大きな通りを渡るとにわかに新市街というか雑然とした街並みになる。長距離バスターミナル近くの広場には、カンピ礼拝堂なるものが近年建てられた。卵型の小さなお堂で明かりは壁に沿った天窓から取っているだけである。内部は静寂が支配していて、動くのもはばかられる。金沢の21世紀美術館にある「ブルースカイ・プラネット」と共通するものがあるように思う。

 

 礼拝堂の脇から階段を上り、安全地帯のある停留所からトラムに乗車する。乗車券はさっき街なかのR-KIOSKで買っておいた。空港からの切符と同じ、青いカードで見た目の区別がつかない。

 乗車時間は10分とかからず、今晩の宿となるタリンク・シリヤラインのヘルシンキ西ターミナルに到着した。トラムを降りると道の反対側、ターミナルビルの向こうに巨大な船体が聳え立っている。

 

 ターミナルビルに入ると、古びたホールに乗客がひしめいている。混雑しているのは、今日のうちにタリンに着ける高速船の乗客も一緒だからと判明したが、座るところも売店もなく薄暗い場所である。

 自分が乗る夜行便は真夜中にタリンに着きそのまま朝まで停泊するので、宿代わりに使えて運賃はたったの20ユーロである。一番安いクラスだから船室は船底の窓なし4人部屋だが、シーズンオフのこととて他の乗客は入って来ず、悠々と独り占めできる。チェックイン時にカードキーが渡され、予約しておいた朝食もこのキーを見せればよい。

 

 部屋にはトイレ兼シャワールームもついている。今は自分一人だからいいものの、見ず知らずの他人と同室だったら使いにくいなと思う。

 フロアが12層もある船内には免税店、バーは言うに及ばずカジノまである。もっともカジノはスロットマシンしかやっていないし、バーなどがあるアーケードも天井が低くて圧迫感を感じる。この感じ、最近もどこかで経験したぞと思ったら、リーズ・ブラッドフォード空港の出発ターミナルによく似ている。

 免税店に入る。チョコレートが棚にあって、フィンランド・テイストと書いてある。どうしてもサルミアッキを連想してしまい、手が伸びない。

 

 

 夕食はカフェテリアで食べる。肉団子なんかを適当に取ったらそれだけで15.5ユーロになってしまった。他の店ではハンバーガーでも17ユーロくらいするから、これでも安い方なのだろう。黒パンにきゅうりのサワークリームあえをのせて食べている人がいたので真似をする。

 

 大きなボタンのスイッチを押して扉を開け、デッキに出てみる。船内を歩いている分には全く揺れを感じないが、船首ではかなりの波しぶきが上っている。

 

<2 タリン(1) へ続く>

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