フィリピンの巻 1990年
4 マニラ
鉄道の時間があてにならないので、マニラ滞在には余裕を持たせてあった。だから市内観光も一応する。
マニラに行く人は多いが、観光的にはこれと言ったものがない。そこで中心街にあるキンタ・マーケットへ行ってみる。工場のような3連の鉄骨屋根がかけられていて、中央が畜肉市場、左手が魚市場、右手の屋外が野菜市場と分かれている。
市場を出て高架道路をくぐるとゴールデン・モスクがある一角で、急に回々帽をかぶった人が多くなり、看板もアラビア文字になる。
モスクの内部は静寂に包まれていたが、このあたりはマニラの下町で、一歩裏に回ると汚れた川に面して貧民窟があり、その手の男女が昼間から流し目を送ってくる一角もある。
パッシグ川を渡り、イントラムロスという城壁に囲まれた地区に入る。ここは歴史的地区で要塞や大聖堂があり、日本建築の影響を受けたマンティラン様式の建物もある。だが、どれも暑いばかりで、あまりおもしろいところではない。
数年前に開業したライトレールに乗る。ライトレールといっても道路上に造られた高架を走っているので、駅ではかなりの階段を上らなければならない。ボックス型の売場でトークンを買う。ホームには警官がいて、列車が入ってくるとピリピリと笛を吹く。運転間隔が一定していないのが、いかにもフィリピンらしい。
車両はヨーロッパ風路面電車タイプの連接車で、大仰な駅設備の割に輸送量は小さい。しかも、走り出すと騒音、振動共に大きい。確かベルギー資本が建設したはずで、途上国に適当なものを押し付けて、ぼろ儲けしたのではないかと勘繰りたくなるような設計だ。
夕方、中心部のリサール公園に行く。家族連れなどもそぞろ歩いていて、長閑な雰囲気だ。湾ではないけれど、マニラの夕日を眺めて過ごす。
[フィリピンの巻 おわり]