東ヨーロッパの巻 1993年

8 チェコ 

 目が覚めるともうプラハの郊外に来ている。「Praha」を冠した駅名票が通り過ぎる。どんよりとした天気。室内は、夜のうちにスチームが入って暖かい。

 プラハ本駅に着く。ドームに覆われたヨーロッパらしい駅である。旧駅舎には装飾が見事なホールがあるのだが、長い通路の先に寂れたレストランがあるくらいで、ホールも通路の穴から垣間見ることしかできない。

 

プラハ本駅

 

 すぐ近くにあるもう一つのターミナルであるマサリコボ駅を見てから旧市街へ向かう。旧のユダヤ人街を通って、ブルタバ川のほとりに出た。天気のせいか朝早い時間帯のせいか、カレル橋を渡る人も少ない。霧にけぶって映画の一シーンのようである。王宮に入ってカテドラルの塔に登ってみる。ブダペストよりも夾雑物が無く、家並みに統一感がある。

 

         マサリコボ駅                     旧ユダヤ人街

 

 

 

 

 地下鉄とトラムに少しずつ乗って、対岸に戻る。さすがにおひざ元だけあって、古い建物を縫って走るタトラ・カーの乗り心地は上々である。

 街並みに溶け込んだ地下鉄駅からホームに降り立てば、地上とは対照的に近未来的な装飾がされている。

 

 

 

地下鉄 マロストランスカ駅

 

 

 プラハ本駅に向かって歩いていくと、本屋の平台に時刻表が山積みになっているのが目に入った。チェコ版、スロバキア版に加えてモラビア版もある。チェコ版を手にとってみると、ずっしりと重い。1キログラム以上はありそうで、購入は見送る。お値段の方も85コルナ(425円)と他の物価に比べて高い。

 プラハの見所は尽きないが、小都市に泊まりたかったので、列車に乗りターボルに移動する。

 

ターボル駅

 

 ターボルでは、旧市街入口にある小さなホテルに宿を取る。部屋には世界地図の描かれた大きなラジオが置いてある。同じものがスタリー・スモコベツのホテルにもあった。トイレットペーパーの軸が南京錠で固定されている。わりかし良い紙を備えているからだろうか?

 

 

 

 ターボルの町は予想通り、こじんまりして歩き回るに手ごろなところであった。特筆すべきは、地下に張り巡らされた通路であろう。旧市庁舎から入って、広場のはす向かいにある家の裏手に出る。

 

 

 

 

 

 ターボルからは近くのベヒーニェという町へ盲腸線が伸びている。所要時間は片道50分弱と手ごろなので往復してみる。

 駅へ行って列車を待つ。発車時刻が迫ってきたのに、ホームには列車がいない。始発駅だからそう遅れるはずもないと思いつつ、他に乗客がいないのも不思議だ。ホームにいた駅員に尋ねると、手を引いて駅舎の中に連れ戻す。切符は既に買ってあるから示すと、なおも強引に手を引いて、駅舎から駅前広場に連れ出す。彼が指さす方を見れば、駅前広場の片隅に別な乗り場があって、凸型の電気機関車と客車2両が停車している。こんなホームがあるとは全く気付いていなかった。

 

 

 

 発車するとしばらくはターボルの市街を望んで走る。市街が離れると急カーブを切って勾配を登り始める。車輪がきしむ。登りきったところは牧草地と小麦畑が広がる丘の上で、青い乳母車に乗った赤ん坊とそのお兄ちゃんが手を振っている。

 

 

 

 

 丘を下ったり森を抜けたりして、時おり待合室だけしかないような停留所に停まる。途中駅での乗り降りも案外多い。地域の足として活用されているのがうれしい。

 終点まであと3分のところで道路併用橋を渡った。向かいに見えている町がベヒーニェなのだろう。橋を渡り終えるとすぐに駅で、2分早着であった。

 

 

 

  ベヒーニェ駅               同駅待合室の時刻表

 

 ベヒーニェの町をひとまわりする。静かな町ではあるが、ホテルやレストランが多くある。名前に「ラーズニェ」とついたホテルもあるから、ここは温泉保養地なのだろう。チェコにはこういう知られざる町がたくさんあるのだなと思う。

 

 ターボル滞在を終えると、今回の旅行も終盤である。ローカル列車でオーストリアに向かって南下して、チェスケー・ブジェヨヴィツェで途中下車する。

 アーケードを伝っていくと街の中心に大きな広場があり、そばにある塔に登って見下ろすことができる。天候が回復したのは良いが暑い。

 

 

 

 

 再び車上の人となり、国境を越える。今度も国境線は不明のままである。ただ、滑るような走り心地になり、耕地が心なしか整然としたようだ。畑の中の道も簡易舗装されているし、車はどれもメタリック塗装だ。

 オーストリアとハンガリーの間では全く違いを感じなかったが、チェコとオーストリアでは随分と差がある。とはいえ、「走り心地」はともかくとして、その他の点は「進歩」なのか、何とも言えない。

 陰気な渓谷を抜け、ドナウ川を渡ると突然に工業地帯になり、リンツ中央駅に着いた。

 

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