JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。
今夜は、その最終夜。
地球の極北、アラスカの自然の中へ、あなたをお連れします。
番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。
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アラスカでは、海、川、氷、滝、雨、雪、霧、もやなど、水が何種類もの姿となって、一枚の写真に写り込む。
水が自然の中をグルグル回って、沢山の生き物を育んでいるのが、分かる。
特に、生命が活気づくのは夏で、海や川は鮭で溢れ、多い場所では鮭が水面を、覆い尽くしてしまうほど。
みんな、川を遡上して、産卵しようとしているのだ。
[鮭]
ハイイログマとか、アメリカヒグマなどと呼ばれるグリズリーたちは、その鮭が遡上してくる場所に待ち構えていて、ご馳走に預かっていた。
無数の鮭たちが、何とかして滝を越えようとひしめき合っているところを、足で不器用に踏んづけたり、口を水に突っ込んで、そのままくわえたりしながら、食べている。
周りには色んな鳥たちもいて、その贅沢なおこぼれをついばんでいた。
鮭は、産卵した後死んでしまうのだが、この鮭たちが、まるで川という道を通って、海から大量のタンパク源を、自ら運んでいるようにも見えたし、水が命を海から山に運んで、栄養分の循環を作っているようにも、見える。
アラスカには、ご存知のように多様な先住民が、暮らしている。
エスキモーと呼ばれる人たちだ。
グリーンランドからカナダ、アラスカ、ロシアのチュクチ半島にかけての、極北地域に暮らす人々の総称で、元々は「かんじきを編む者」という意味を持つ。
[エスキモー]
後にカナダでは、エスキモーが「生肉を食べる野蛮人」という意味合いで使われるようになり、「人々」という意味の、イヌイットという呼び方に変わった。
クジラやアザラシなどを獲って暮らす、海岸沿いの人々。
カリブーと呼ばれる、トナカイや鮭などを獲って暮らす、内陸の人々など、様々で刺身文化や自然観など、とても親しみが持てる、僕らと同じモンゴロイド仲間だ。
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アラスカに住む多様な先住民たちは、季節ごとに巡ってくる動物の命をありがたくいただき、無駄無く使い切り、糧となってくれた事への感謝を込めて、また来年も戻ってくるように、祈りと供養を捧げる。
宇宙を巡る地球の上で、季節が巡り、動物が巡り、鮭が海と山を巡る。
僕ら動物は、その循環の中で巡ってくるものをいただき、やはり一生という短い循環を生き、子孫を残す。
以前アラスカで、クジラが氷に閉じ込められた時、世界中からマスコミが集まり、色んな保護団体がクジラを救出しようとする様子を、逐一報道した事があった。
後である本で知ったが、あの救出劇の時、地元のイヌイットたちは、
「昔は、こんな事が起こったら、神様からのプレゼントだと言って、ありがたくいただいたものさ」
と語っていたのを知り、僕のDNAが妙に納得したのを、覚えている。
川に集まる鮭も、グリズリーたちへの、神様からの贈り物なのだ。
【画像出典】