2024/6/19 光と虹と神話③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。


今夜は、その第3夜。


ペンギンたちの楽園、イギリス領フォークランド諸島へ、あなたをお連れします。


番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。


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1982年、当時イギリスの首相だった「鉄の女」サッチャーが、島々の領有を主張したアルゼンチンから、強行策で奪回した事で有名になった、フォークランド諸島。


南米大陸の南端、ホーン岬の東に位置し、南極半島に近い事から、現在は南極クルーズの立ち寄りポイントとしても、使われている。


冷たい海に囲まれた、寒冷海洋性気候の島々であるにも関わらず、真っ白いビーチがあちこちに点在し、海はまるで南国のようなブルーのグラデーションを湛えている、美しい島々だ。



[フォークランド諸島]


ここは、知る人ぞ知る、ペンギンたちの楽園である。


2つの大きな島と、800近い小さな島々から成る、フォークランド諸島のあちこちに、大小5種類、100万羽を超えるペンギンたちが、賑やかに暮らしているのだ。



[ペンギン]


人間は、離島にはほとんど住んでいない。


何キロにも及ぶ真っ白なビーチには、何万羽ものペンギンたちと、若干の他の鳥やアザラシのみ。


そんなペンギンたちに埋め尽くされたビーチに、僕が立って入っていけば、巨大未確認生物侵入という事になり、当然怖がられるので、撮影の時、最初は匍匐前進で、少しずつ彼らの住処に、お邪魔してみる事にした。


間合いが5メートルほどの所までは近づけたが、そこから先は、こちらの動きに合わせて、その距離を保ちたいようだった。


つまり、腹ばいになっている僕の周り、半径5メートルにだけ、ペンギンがいないという状況になるのだ。


そこで、腹ばいのまま、目も合わせないようにして、しばらくじっと、動かないでいる事にした。


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南米大陸の南端、ホーン岬の東に位置するフォークランド諸島に、ペンギンたちの楽園と言われる島がある。


僕は、その島のビーチを埋め尽くすペンギンたちを、怖がらせないように、真っ白なビーチに腹ばいになって、しばらくじっと動かないでいた。


効果は、てきめんだった。


彼らは少しずつ、少しずつ距離を縮めてきて、さらに静かにしていると、それまで僕の周りにぽっかり空いていた、半径5メートル地帯は徐々に小さくなり、なんとやがて消滅していったのだ。


それだけではない。


僕の足をくちばしでつついてくる者や、僕の前に来て、顔を不思議そうに覗き込んでくる者などが、現れたのだ。


ちょっと離れた所に、置き去りだったカメラバッグが気になり目をやると、数羽のペンギンたちがバッグの周りに集まって、まるで宇宙から降ってきた物でも見るように、くちばしでチェックしているのだった。


そんな、今では平和に暮らしているペンギンたちも、19世紀にはペンギンオイルの搾取や、食用のために大量に捕獲され、生息数が危ぶまれるところまで激減させられたり、フォークランド紛争でも被害を被ったりしてきた。


今でも島々には、紛争当時に仕掛けられた地雷が、多数残っているのだが、実はそれが、体重が軽くてペンギンが歩いても爆発しない事から、結果的に人間の侵入から、ペンギンの大地を守っている事にも繋がっているのだ。


ペンギンの可愛い姿は、癒しだけでなく、大事な知恵を、僕たちに与えてくれようとしているかのようだ。


【画像出典】