JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。
今夜は、その第3夜。
ペンギンたちの楽園、イギリス領フォークランド諸島へ、あなたをお連れします。
番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。
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1982年、当時イギリスの首相だった「鉄の女」サッチャーが、島々の領有を主張したアルゼンチンから、強行策で奪回した事で有名になった、フォークランド諸島。
南米大陸の南端、ホーン岬の東に位置し、南極半島に近い事から、現在は南極クルーズの立ち寄りポイントとしても、使われている。
冷たい海に囲まれた、寒冷海洋性気候の島々であるにも関わらず、真っ白いビーチがあちこちに点在し、海はまるで南国のようなブルーのグラデーションを湛えている、美しい島々だ。
[フォークランド諸島]
ここは、知る人ぞ知る、ペンギンたちの楽園である。
2つの大きな島と、800近い小さな島々から成る、フォークランド諸島のあちこちに、大小5種類、100万羽を超えるペンギンたちが、賑やかに暮らしているのだ。
[ペンギン]
人間は、離島にはほとんど住んでいない。
何キロにも及ぶ真っ白なビーチには、何万羽ものペンギンたちと、若干の他の鳥やアザラシのみ。
そんなペンギンたちに埋め尽くされたビーチに、僕が立って入っていけば、巨大未確認生物侵入という事になり、当然怖がられるので、撮影の時、最初は匍匐前進で、少しずつ彼らの住処に、お邪魔してみる事にした。
間合いが5メートルほどの所までは近づけたが、そこから先は、こちらの動きに合わせて、その距離を保ちたいようだった。
つまり、腹ばいになっている僕の周り、半径5メートルにだけ、ペンギンがいないという状況になるのだ。
そこで、腹ばいのまま、目も合わせないようにして、しばらくじっと、動かないでいる事にした。
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南米大陸の南端、ホーン岬の東に位置するフォークランド諸島に、ペンギンたちの楽園と言われる島がある。
僕は、その島のビーチを埋め尽くすペンギンたちを、怖がらせないように、真っ白なビーチに腹ばいになって、しばらくじっと動かないでいた。
効果は、てきめんだった。
彼らは少しずつ、少しずつ距離を縮めてきて、さらに静かにしていると、それまで僕の周りにぽっかり空いていた、半径5メートル地帯は徐々に小さくなり、なんとやがて消滅していったのだ。
それだけではない。
僕の足をくちばしでつついてくる者や、僕の前に来て、顔を不思議そうに覗き込んでくる者などが、現れたのだ。
ちょっと離れた所に、置き去りだったカメラバッグが気になり目をやると、数羽のペンギンたちがバッグの周りに集まって、まるで宇宙から降ってきた物でも見るように、くちばしでチェックしているのだった。
そんな、今では平和に暮らしているペンギンたちも、19世紀にはペンギンオイルの搾取や、食用のために大量に捕獲され、生息数が危ぶまれるところまで激減させられたり、フォークランド紛争でも被害を被ったりしてきた。
今でも島々には、紛争当時に仕掛けられた地雷が、多数残っているのだが、実はそれが、体重が軽くてペンギンが歩いても爆発しない事から、結果的に人間の侵入から、ペンギンの大地を守っている事にも繋がっているのだ。
ペンギンの可愛い姿は、癒しだけでなく、大事な知恵を、僕たちに与えてくれようとしているかのようだ。
【画像出典】