JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、自然写真家・高砂淳二によるフォトエッセイ『光と虹と神話』より、一部編集してお送りしています。
今夜は、その第2夜。
コナン・ドイルの小説『失われた世界』の舞台にもなった、南アメリカ・ギアナ高地の巨大なテーブルマウンテン、別名「神の家」と呼ばれる山へ、あなたをお連れします。
番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。
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地球の大陸は、大昔はある時点で、パンゲア大陸1つだけだったと言われる。
ギリシャ語で、「全ての大陸」という意味だ。
ギアナ高地は、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ、ブラジルの6ヶ国と地域にまたがる高地で、パンゲア大陸がゴンドワナ大陸や他のいくつかに分裂していく際、ちょうどその回転軸のような所に位置していたので、移動せずに済み、比較的安定した気候のまま今日に至っているという。
ギアナ高地は、地質学的には20億年ほど前の地殻と言われ、とにかく古い。
頂上が真っ平で、周りが垂直に切り立った、まるで大地に巨大なテーブルを置いたような山を、テーブルマウンテンと言うが、ギアナ高地は、巨大テーブルマウンテンが100ほども存在するユニークな場所で、コナン・ドイルの小説『失われた世界』の舞台になった。
[テーブルマウンテン]
テーブルマウンテンの上は、太古のままの生態系が保たれていて、確認されている植物は4000種にのぼり、さらにその75%は固有種だ。
4000種という数字は、日本全体の植物の種の数の半分を超えていて、さらに、ガラパゴスの固有種率が50%ほどである事を考えても、ギアナ高地が物凄く特殊な場所だという事が、伺える。
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頂上が真っ平で、周りが垂直に切り立った、まるで超巨大なテーブルを、大地に置いたような形のテーブルマウンテンは、ギアナ高地の現地の言葉で「神の家」という意味の、テプイと呼ばれる。
そんなテプイの一つ、アウヤン・テプイの崖に、979メートルという、世界最大の落差を誇る、エンジェルフォールが存在する。
あまりに落差が大きくて、落ちる前に水が霧のように散ってしまう事から、滝壺の無い滝としても有名だ。
[エンジェルフォール]
昼間のエンジェルフォールも迫力満点だが、この滝を月の光が照らす光景を一目見たくて、現地のガイドさんに無理を言って、夜のエンジェルフォールを一望できる場所まで川を渡り、山を登って行ってみた事がある。
三日月が東の空に出てくるのが、午前2時過ぎのはずだったので、それに到着の時間を合わせて、キャンプを出た。
現場に辿り着いて5分ほど経った頃、オレンジ色の美しい三日月が、地平線の上に現れた。
エンジェルフォールが、弱い月光を受けて、上の方から少しずつ赤みを帯びていった。
そしてなんと、30分ほどして、光がやや強さを増してきたと思った時、エンジェルフォールの飛沫に月光が当たって、うっすらと夜の虹が現れたのだった。
天からの、予期せぬ嬉しいプレゼントだった。
6ヶ国にまたがるギアナ高地の中心は、ベネズエラに属するが、今、財政難や貧困に喘ぐベネズエラでは、豊富な鉱物資源の不法採掘が横行しているという。
採掘による山々や川の汚染、木々の伐採、生態系への影響など、数え切れないほどの影響が心配されている。
46億年前に、太陽の周りを回っていたミニ惑星が合体して、地球の素になった事を考えると、20億年という地殻年齢のギアナ高地が、いかに古いかがよく分かる。
宇宙規模で貴重な大地だという事を、みんなで意識していけたらと、思う。
【画像出典】