JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、俳優・ユニセフ親善大使の、黒柳徹子のエッセイ集『小さいころに置いてきたもの』の中から、「ヤンキー・スタジアム」の章を、番組用に編集してお届けしています。
今夜は、その最終夜。
テレビ番組『徹子の部屋』でイチローのファンになり、ニューヨークまで応援に出掛ける事になったが、人生初の野球観戦は驚きの連続。
5万人で埋まった、ヤンキースタジアムの熱い雰囲気を体験し、すっかり野球ファンとなって、日本に帰ってきた。
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1度、信じられない速い球が飛んでいって、イチローさんのグローブの中に入った。
「凄い!」
と思った瞬間、やはり相当遠い所から、イチローさんが走って球を捕ったせいか、その球がグローブから落ちて、転がってしまった。
この時、お客さんはなんと総立ちになって、喜んだ。
私は「むっ」としたので、座っていた。
でも、こういう口惜しいけど注目されるところが、イチローさんの人気だな、という事も分かった。
どっちのチームの選手か分からないけど、年俸30億円という契約のバッターが出た。
見てると、なんかピッチャーは投げるのに、萎縮しているように見えたのは、私の気のせいかしら?
ウェーブが来た。
ところがどういう訳か、途中で止めちゃう人たちがいる。
それに、遠くの客席からブーイングが起こる。
8イニング目から、マリナーズのイチローさんは守備に出なかった。
あと1回で10点は取れそうもないからだろうし、明日もあるから、と思ってたら、松井さんも出なくなった。
そんな訳で私たちも、5万人が出る時は、いくら整然としているといっても混むだろうから、と一足お先に失礼した。
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次の朝、ニューヨークを発って日本に帰ってきて、夜テレビをつけたら、翌々日のヤンキースタジアムの昼間の試合で、イチローさんがホームランを打っていました。
良かった!
5万人が、きっと
「ぎゃーーーーー!」
って、叫んでるんだろうな、と面白かった。
ただ、イチローさんが見たくて行った、ヤンキースタジアム。
[ヤンキースタジアム]
野球音痴の私には、猫に小判、豚に真珠、とお思いの方もいらっしゃるだろうけど、私はこれですっかり野球ファンになった。
あんなに広々と気持ちのいい所だとは、テレビを見ている時、想像もしていなかった。
時々どっちのチームが攻撃しているのかとか、守っているのはどっち?とか、分からなくなる事もあったけど、見てる人たちが、誰もが心を一つにして楽しもうとしている事が、嬉しかった。
誰もが、熱くなっていた。
イチローさん、松井さん、ありがとう!
他の選手の皆さんも、きっとあの2時間半は、誰もが苦しさも辛さも忘れて、楽しんだんだろうから。
それにしても、
「ナイターって、暗くてボールが見えるの?」
と思ってたのが、取り越し苦労と分かったのは、私にとっては大収穫だった。
不思議が消えて、見慣れない風景だけれど、野球場の夜は昼より明るい、とこの歳になって知ったのだから。
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