JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、俳優・ユニセフ親善大使の、黒柳徹子のエッセイ集『小さいころに置いてきたもの』の中から、「ヤンキー・スタジアム」の章を、番組用に編集してお届けしています。
今夜は、その第4夜。
試合は7回。
スタジアムに、『私を野球に連れてって』や、『Y.M.C.A.』の歌が流れ、選手への拍手やブーイングと共に、雰囲気は最高潮。
ヤンキースの松井秀喜選手への観客の大歓声も聞きながら、スタジアムでの野球観戦を楽しんだ。
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私は双眼鏡で、守っているイチローさんをじーっと見ていた。
気がついたら長いイニングで、30分近くも1回のヤンキースの攻撃で、イチローさんは立って守っていた。
ほとんどそっちに球が行かなかったので、イチローさんはあまり走る必要も無く、でも集中して30分も同じ所で守っているのも、大変な事だと感動した。
カールさんは私に、
「よくそうやって、30分もずーっとイチローさんを見て、疲れない?」
とか聞いたけど、
「私は野球やってる訳じゃないので、疲れるはずは無い」
と答えた。
そして、
「テツコは面白いね。
試合を全然見てないもの。
ずっと、外野だけ見ててね」
と言われたけど、私は
「そう」
と言って、外野のイチローさんを見ていた。
そうしてるうちに、確か7回の時、突然全員が立ち上がって、イチローさんのコマーシャルの曲が流れて、歌い始めた。
それは、イチローさんのコマーシャルに使われてるかもしれないけれど、元々は『テイク・ミー・アウト・トゥ・ザ・ボールゲーム(私を野球に連れてって)』と言う古い歌で、昔から野球場で歌われているのだ、とカールさんが説明した。
その後、『Y.M.C.A.』をみんなで歌う場面もあった。
芝刈り機みたいなものを持って、なんかお掃除しているおじさんたちが、お尻を振りながら、『Y.M.C.A.』に合わせて、フィールドで踊っているのも、面白かった。
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場内アナウンスと言うか、解説が実に親切で、しかも興奮を煽りながら説明してくれる。
「フォアボール」と日本で言うのを、あっちでは「ウォーク」と言うのだという事も、知った。
ホームランか何かで、バッターの打った球が客席の中に入ると、トンボかセミを採るような、袋の付いた長い竿を持っているお客がいて、捕ろうとするけど失敗して、転がって下に張った網の上などに落ちると、これまた5万人が「ウォーーーーーー!」と、ブーイング。
本当に、みんな楽しむために、今日のために来ている、という事がよく分かる。
1回なんて、ヤンキースのバッターが、1人で4回もボールを客席の中に打った。
私はサービスなのかと思って、カールさんに聞いたら、そうではなくて、ファールか何からしかった。
でも、お客さんは大喜びだった。
マリナーズの選手が走り込んで、1点と思った時、アウトになった。
この時は、耳がつんざけそうな歓声になった。
それにしても松井さんは、大変な人気。
[松井秀喜]
「マ・ツ・イ!マ・ツ・イ!マ・ツ・イ!」
と、凄い声がかかった。
この日、松井さんは大ヒットの連続であれよあれよという間に、何点も入って、終わりの方では2対13に、なってしまった。
それでもイチローさんは、辛抱強く守っていた。
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