JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、撮影コーディネーター・嘉山正太のエッセイ集『マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング』より、「星のない東京から、星だらけのアタカマ砂漠へ_チリ」を、番組用に編集してお届けしています。
今夜はその第4夜。
嘉山は、光をテーマにしたチリでの取材の最後に、重要人物に会う。
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僕は、自分の仕事は、何かを訴えたい人がいて、その声を聞きに行く。
その声は星空みたいに沢山あって、時としてとても小さい。
その小さな声を聞きに行って、多くの人に届ける、という事だと思っている。
少し傲慢かもしれないが、アルマ天文台で研究する人たちも、僕らと同じように、とても小さいけど大切な声を掬おうとしているのではないかと感じた。
星の声はとても小さく、微弱なものだ。
だから、できるだけ空気の澄んだ、できるだけ星に近い場所で、その声を聞こうとしているように、見えた。
僕らは、この撮影の最後に、今回の最重要人物に会いに行った。
チリは当時、チリの空を世界遺産に、という運動を行っていた。
チリの空が天体観測に適しているという事を、国を巻き込んで、大々的にアピールしていたのだ。
そのため、チリ国内では天体観測のツアーが盛んに行われていて、アタカマ砂漠にも、天体観測に来ている人々が沢山いた。
それも、世界各国から。
それだけチリの空が、観測に理想的な場所だという事だ。
[星空]
さて、チリの夜空はとても美しいのだが、企画書にも盛り込んだ通り、実は年々星が見えにくくなっているという。
それはなぜか?
空が、汚染されているからである。
では一体、空の汚染とは何か?
スモッグや大気汚染で、見えにくくなっているのか?
確かに、大都市に行けば行くほど、星は見えなくなっている。
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そんな、チリの星空を保全しようと訴えている団体があって、その代表をしているペドロ・サンウエサさんに、僕らは話を聞きに来た。
「空の汚染。
それはつまり、光の汚染なのです」
と、ペドロさんは言う。
「光の汚染。
光が、汚れているという事ですか?」
と聞くと、
「光の汚染、つまりあまりにも強すぎる人工的な光が、夜空を汚してしまっているんです。
強い光が都市の中にあると、遠くの星は見えなくなってしまうんです」
実は、天体観測の最大の障害は、都市の明かりなのだ。
周りが明るいと、星は消えてしまう。
星自体は消滅せず、そこにある。
ただ、周りが明るくなればなるほど、その姿は見えなくなってしまう。
ペドロさんは、こうした光害の検査のために、光量を測定する機器を持って、夜な夜な出掛けては街の看板などを計測し、市に報告する活動を行っていた。
看板に、短い棒のようなものをかざして、光の強さを測るのである。
人によっては、怪しいおじさんにしか見えないだろう。
だが、彼の活動の甲斐もあって、チリの天体観測所近くの農村では、電球を全て蛍光灯から白熱灯に変えて、夜の光量を減らしている、との事だった。
街が少し暗くなる事で、頭上の星はさらに、輝きを増しているのだ。
【画像出典】