2024/4/1 遠い太鼓① | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、作家・村上春樹の紀行エッセイ『遠い太鼓』の中から、「まえがき」と「ローマについて書かれた章」を、番組用に編集してお届けします。


今夜はその第1夜。



本のエピグラフには、トルコの古い歌の一節が掲げられている。


「遠い太鼓に誘われて


私は長い旅に出た


古い外套に身を包み


全てを後に残して」


そして、作家はこう書き始める。


「ある朝目が覚めて、ふと耳をすませると、どこか遠くから、太鼓の音が聞こえてきた」


こうして、村上春樹は1980年代半ば、イタリアとギリシャへの長い旅に出た。


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そう。


ある日突然、僕はどうしても、長い旅に出たくなったのだ。


それは、旅に出る理由としては、理想的であるように、僕には思える。


シンプルで、説得力を持っている。


ある朝目が覚めて、ふと耳をすませると、どこか遠くから太鼓の音が、聞こえてきた。


ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の音は響いてきた。


とても微かに、そしてその音を聞いているうちに、僕はどうしても、長い旅に出たくなったのだ。


それでいいではないか。


遠い太鼓が聞こえたのだ。


今となっては、それが僕を旅行に駆り立てた、唯一の真っ当な理由であるように、思える。


その3年間に、僕は2冊の長編小説を書いた。


1つは、『ノルウェイの森』であり、もう一つは『ダンス・ダンス・ダンス』である。


それから、『TVピープル』という短編集も、書き上げた。


その他にも何冊かの翻訳をした。


でも、この2冊の長編小説は、僕にとって3年間の海外生活における、一番大事な仕事だった。


小説のあとがきにも書いた事だけれど、僕は『ノルウェイの森』をギリシャで書き始め、シシリーに移り、それからローマで完成した。


『ダンス・ダンス・ダンス』は、大半をローマで書いて、ロンドンで仕上げた。


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ローマは、今回の長い旅の入り口であると同時に、海外滞在中の僕の基本的なアドレスでもあった。


[ローマ]


我々がベースキャンプを据える地として、色々考えた後にローマを選んだのには、いくつか理由がある。


まず第一に、気候が穏やかな事。


せっかくのんびりと、南ヨーロッパに住もうと決めたのだから、寒い冬なんて送りたくない。


そういう点では、ローマはまず理想的な土地である。


ローマを選んだもう一つの理由は、そこに古くからの友人が1人住んでいた事である。


僕はどこでも結構厚かましく生きてしまう方だけれど、これだけ長く生活するとなると、1人くらいは頼る事のできる人間が、必要である。


そんな訳で、ローマが我々の本拠地となった。


ローマには、それまで1度も行った事は無かったけれど、まあそれほど酷い所でもあるまい、と我々は思ったのだ。


映画で見る限り、随分綺麗そうな街じゃないか、と。


しかし、これについては、後で色々と後悔する事になる。


我々は、引越しをするような気分で、日本を後にした。


【画像出典】