『JET STREAM』
作家が描く世界への旅。
今週は、旅行作家、山下マヌーと自然写真家、高砂淳二によるフォトエッセイ『色で旅するハワイ』より、一部編集してお送りしています。
今夜はその第4夜。
海が作った緑の旅へ、お連れします。
番組WEBサイトの、高砂淳二の写真と共に、お楽しみください。
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空の鳥からだけでなく、海から運ばれてきた緑もある。
既に存在していたどこかの島から、海流に乗ってやってきた、ココナッツ。
どんぶらこと、桃太郎の桃状態で海を漂い、ハワイの海岸線に辿り着いた、ココナッツ。
浜に打ち上げられ、根を張り、緑を作っていく。
[ココナッツ]
そしておそらく、ココナッツが流れてきたのと同じ海流に乗ってやってきたのが、ポリネシア人。
およそ、1300年前の事。
既に緑豊かになっていたハワイに、人間たちは多くの豚などの家畜動物と、植物と仲間を連れて、やってきた。
人間がやってくると、自分たちが生きていくための、食物としての緑が必要になる。
新天地ハワイに、ポリネシア人が主に運んできたのは、タロ。
彼らは見事な緑のタロ畑(タロパッチ)を耕し、食物を確保していく。
[タロパッチ]
当初、緑鮮やかなタロパッチでは、上とか下といった身分の差など無く、みんなで力を合わせて、タロ栽培をしていたようだ。
ところがそれは、12世紀途中まで。
身分制度を持つタヒチ人が渡ってくるようになると、今までいなかった特権階級の王が現れ、王族専用の土地を所有するようになる。
そこで、タロを栽培させられていたのは、おそらく階級最下層の奴隷たちだろう。
鳥や自然が運んだ緑は、ハワイの大地を彩っていった。
しかし、人間が運んだ緑。
その本当の色は、何色なのだろう?
欲の色。
それとも、所有の色。
それとも、独占の色なのだろうか?
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不思議な緑が、海岸にはある。
こちらは、自然が運んだ緑ではなく、自然の力が作り上げた緑。
緑の海岸、グリーンサンドビーチ。
場所は、全米最南端。
ハワイ島最南端から、道無き道を歩いていく事、およそ1時間半。
4WDの車で行っても、およそ1時間。
つまり、車を利用しても、歩く速さとほぼ同じ速度しか出せないほどの、でこぼこ道を行く。
小高い丘を登った崖の下という、ちょっとマニアックな場所に、外界からの視線を避けるように存在している。
天気が良ければ、眼下にキラキラと輝く、珍しい緑の海岸が広がっている。
[グリーンサンドビーチ]
が、雲が多いと、緑の神秘さを感じられるかどうかは、正直微妙。
だとしても、行く価値はあると思う。
周りには何も無く、ただ緑のビーチの存在を確かめたくて、ここまでやってきた。
そこには、同じ目的でわざわざやってきた他の旅人たちがいて、
「お互い、よく来たなあ」
と、目と目で交わす。
困難な旅をした者だけの、何とも言えない一体感が、得られるからだ。
でも、どうして緑?
形状から見て、その昔、おそらくここは噴火口の一つだったと考えられる。
そのため、ハワイのマグマ含有物の特徴である、カンラン石が砂に多く含まれ、それが緑色に光る、とそのように言われている。
とすると、緑の海岸の前に広がるのは、海底火山の噴火口に流れ込んで溜まった海?
という事は、噴火口のプールで泳いでいる、という事だろうか?
真偽のほどはぜひ、ご自身で確かめに行ってほしい。
【画像出典】