JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、生物学者 福岡伸一の紀行エッセイ『生命海流 GALAPAGOS』を、番組用に編集してお届けしています。
今夜はその第2夜。
ガラパゴスに、行きたい。
生物学者・福岡伸一は、200年近く前に、ダーウィンの乗っていたビーグル号の航海をなぞりながら、独自に進化した奇妙な生き物を、実際にその目で見てみたいと思っていた。
ガラパゴスには、3つの謎があるという。
1つ目の謎。
奇妙な生き物たちは、この絶海の孤島で進化してきた。
だが、どうやって島に辿り着いたのだろう?
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ビーグル号は、タヒチ、タスマニア、ココス、モーリシャスなど、今から見ると高級リゾート巡りをしているかのような航路を辿って、5年に渡る世界航海を行った。
少なくとも、ガラパゴス諸島の旅に関してだけでも、チャールズ・ダーウィンと同じ航路を辿って、彼が見たであろう光景を、彼が見たはずの順番で訪れてみたい。
一体、ガラパゴスの何が、彼の目を見開かせ、彼の想像力を掻き立てたのだろう?
それを、追体験したかった。
これが、私の贅沢な夢だった。
ガラパゴス諸島には、大きな謎が3つある。
それは、現在でもなお、解決されていない。
その謎に、少しでも近づきたいというのが、今回のこの旅における、私の切なる願いだった。
しばしば"ガラパゴス化"などと言われるように、ガラパゴス諸島は隔絶された環境で、独自の進化を遂げた結果、ある種の袋小路に入り込み、世界から取り残されてしまった場所、という風な揶揄的な言い方で使われる事が多い。
日本の"ガラケー"という言い方が、その好例だ。
ガラケー、つまりガラパゴス携帯電話は、作り込みで多様な機能を搭載し、特別な方式でインターネットにも接続できるようになったが、いずれも日本固有の仕様だったため、世界標準のスマートフォンの上陸と共に、駆逐されてしまった。
今日日、二つ折りのガラケーを操作しているのは、ごく僅かな人たちである。
しかし、本当のガラパゴス諸島は、決して世界から取り残されてしまった場所ではない。
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ガラパゴス諸島は、むしろ世界最先端の進化の前線にあると言っていい。
ガラパゴス諸島は、決して古い場所ではない。
むしろ、地球史的に見ると、極めて若い島々だ。
アジア、アフリカ、北南米などの大陸に比べてずっと後になって、海底火山の隆起によって作られた、ごく新しい環境なのである。
[ガラパゴス諸島]
大陸は何億年も前から成立していたが、ガラパゴス諸島は古い島で、誕生から数百万年、新しい島では数十万年しか、経過していない。
そこにどこからか奇跡的に、限られた生物が辿り着き、何とか生態的な地位を切り開き、生息を開始した。
進化は始まったばかりであり、これからこそが、本番なのである。
それにしても、彼ら彼女らは、どこからやってきたのだろう?
一番近い南米の大陸からでも、海上1000キロも離れているのだ。
翼を持った鳥たちは、辿り着けたかもしれないが、泳げないリクガメたちは、どうやってやってきたのか?
仮に、流木に捕まって流されてきた、稀なケースがあったとしても、この島で繁殖するには、少なくとも1対のつがいが必要となる。
そして何よりも、出来立ての火山島には、植物も土壌も、そして水さえも、ほとんど無かったはずなのだ。
しかも、彼ら彼女らはいかにして、独自の進化を遂げる事ができたのだろう?
【画像出典】

