2022/5/10 小川哲書き下ろし② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

「新しい空の旅へ」


毎週、様々な主人公の旅の物語をお送りしている、『JET STREAM』。


今週は、作家・小川哲書き下ろしの旅の物語を、5日間に渡ってお送りしています。


今夜は、第2夜。


舞台は、カンボジアの首都プノンペン。


原因不明の偏頭痛が酷くなり、会社を一時休職した、26歳の彼。


休職中、上司の理解もあり、彼はカンボジアのプノンペン支社で、しばらく研修の仕事に携わっていた。


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休職中に、カンボジアへやってきていた僕は、当初の予定を延長して残った。


職場に復帰する5日前に、帰国した。


帰国後、定期検査の後に、主治医と話をした。


僕は、カンボジアにいた2ヶ月で、一度も偏頭痛にならなかった事を伝えた。


この2〜3年で、2ヶ月間偏頭痛がなかったのは、初めてだった。


「詳しい事は分かりません」


と、主治医は言った。


「薬が効いたのかもしれませんし、ストレスが緩和されたのかもしれません。


気圧や食事など、環境面の変化が左右した可能性もあります。


もちろん、ただの偶然かもしれません」


僕は以前のように、大手町で仕事を始めた。


カンボジアで偏頭痛が改善した事を伝え、出向などの可能性がないか聞いてみたけれど、どうやら難しいようだった。


翌週、僕は偏頭痛になった。


意識を失いかけるほどの激痛だった。



[偏頭痛]


僕は会社を、2日休んだ。


そのまま、退職する事に決めた。


そして僕は、再びカンボジアにやってきた。


仕事の当ては無かった。


ビザが切れるまで、現地を歩き回り、色んな可能性を考えてみるつもりだった。


到着して7日目に、日本人が経営しているプノンペンのラーメン屋で、カンボジアで小さなホテルを経営している男性と知り合った。


カンボジアで、子供の頃から苦しんできた偏頭痛が止んだ事。


日本の仕事を辞めた事。


仕事を探している事。


酒を飲みながら、そんな話をした。


「君は、私と同じだ」


と、彼は言った。


「私も、カンボジアに来てから、アトピーが治ったんだ」


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カンボジアにやってくれば、持病が治る。


そんな、奇跡のような話ではない。


僕はこう考えている。


西洋医学は、日々進歩を続けているけれど、まだ全ての病気の原因を解明した訳ではない。


健康と不健康は、案外紙一重の差でしかなくて、ある人によっては環境を変える事が引き金になる。


僕にとって、カンボジアはそのきっかけだった。


僕は、ホテル経営をしている男性の依頼で、ホームページの改装と予約システムの構築をした。


それまで、紙で管理していたホテルの宿泊記録を、iPadでできるようにした。


ボタンを押すだけで、予約した人物のデータが全て見られるし、各部屋の適切な販売価格も分かる。


僕の仕事を知った別のホテル経営者から、予約システムの導入を依頼された。


そんな事を繰り返しているうちに、プノンペンのかなりの数のホテルで、僕が作った予約システムが利用されるようになった。


僕は日本に何度か帰国して、生活の基盤を完全にプノンペンへ移す準備をした。


アパートの契約をして、新しい家具も揃えた。


半年経って、1年経っても、偏頭痛にはならなかった。


何ヶ月かに一度、日本に帰った時に、主治医のところへ行ったが、彼も


「よく分かりません」


と言っていた。


「んー、よく分かりませんが、治ったのなら素晴らしい事です」


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