最近、ネタにしたくなるような韓国ドラマにあまり当たりません。
なので少々前のドラマを観直しています。
そんな中、協賛自動車メーカの思惑が垣間見えるドラマがありました。
「品位のある彼女」( 2017 JTBC )
お金持ち一家とその周辺を巡る愛憎と陰謀をシニカルに描きます。
ミステリ要素が強いため、ネタバレ無しを心掛けたいと思います。
このドラマは、「ボルボ( VOLVO )」と「シボレー( Chevrolet [韓国 GM ] )」が車両提供。
物語の中心、ヒロインのウ・アジン(キム・ヒソン)の乗る車。
ボルボのフラッグシップセダン「 S90 」。
アジンは中堅紙業会社「デソン(大成)パルプ」創業者の二男、アン・ジェソク専務(チョン・サンフン)の妻。
アジンの夫ジェソクが乗る、ボルボのハイエンド SUV 「 XC90 R-Design 」
お坊ちゃん体質で俗物のジェソクに似合わぬセンスは、おそらくアジンの見立て。
ボルボ S90 がもう一台。
パク・チュミ教授(ソ・ジョンヨン)の車。
パク教授はジェソクの兄で創業者長男、アン・ジェグ(ハン・ジェヨン)の妻。
妻たちがボルボのフラッグシップモデルに乗る理由。
創業者一家よりも配偶者のほうが、社会的地位を確立していることを示唆しています。
特に長男夫妻は政略結婚だったらしき事も暗示します。
素行が悪く会社を追われた長男、ジェグが乗るスポンサー外車両の W ピックアップ。
「サンヨン(双龍) コランドスポーツ [SsangYong Korando Sports] 」
無頼を気取るも、わがままで粗暴なお坊ちゃんに過ぎないことの含意。
デソンパルプ創業者アン・テドン会長(キム・ヨンゴン)専用車。
シボレー「インパラ( Impala )」
劇中で言及されますがデソンパルプは「財閥」ではなく、アン・テドン会長が一代で築いた、いわゆる「成金」系企業。
GM (シボレー)系で「財閥」色を醸すには、やはり上級ブランドの「キャデラック( Cadillac )」
安全性や室内空間の広さに優れた(超)大型 SUV「エスカレード( Escalade )」あたりが、最近の定番。(画像は別ドラマ)
という訳で、アン・テドン会長のシボレー・インパラは、いささか中途半端。
ステータス感重視ならボルボ S90 をあらかじめ配車する筈。
このドラマと同じボルボとシボレー( GM )が車両提供をした週末ドラマ「たった一人の私の味方」( 2018-19 KBS2 )の「財閥」家では、祖母と父が S90、長男が XC90、長男妻が XC40、二男が XC60 とボルボで統一。
意図的にアン・テドン会長に近づく、謎めいたパク・ボクジャ = チヨン(キム・ソナ)が選ぶボルボ「 S60 R-Design 」
こちらも、その存在感からはやや中途半端。
ボクジャは二男妻アジンを密かに模範としていますが、同じ S90 ではあからさま過ぎると感じたようです。
ちょっとした皮肉。
アジンの友人キム・ヒョジュ(イ・ヒジン)の夫が愛人にポンと買い与る S90
ヒョジュの夫ム・ソンタク(キム・ボプレ)は金融業から不動産業に転身したらしい、かなりうさんくさい人物。
そういえばソンタクの車は登場しなかったように思います。
アジンの別の友人、オ・ギョンヒ(チョン・ダヘ)の夫の車がボルボ「 V60 Cross Country 」
ギョンヒの夫キム・ボンシク(チェ・ドンヒョン)は元スポーツ選手。
丈夫で実用的なステーションワゴンが似合う設定です。
ギョンヒの車はシボレー「マリブ( Malibu )」
出過ぎず引き過ぎず、とても無難な選択。
更にアジンの友人、チャ・ギオク(ユ・ソジン)の車もマリブ(手前)。
やはり無難な選択。
ギオクの夫、美容外科医チャン・ソンス(ソン・ヨンギュ)の車がボルボ「 S60 」
開業して裕福になった設定に見合うサイズ感。
登場人物たちは皆羽振りが良く江南(かんなむ)あたりで幅を利かせますが、代々続くお金持ちではなく、たまたま成功組(悪く言えば「成金」)である事を示しています。
唯一登場する「財閥」家「ハウォングループ」の車はスポンサー外車両。
「ヒュンダイ(現代) *1 エクウス [HYUNDAI Equus] 」 2012-15 年モデル。
数多く保有する車の中の一台というイメージ。
しかもこの車、お惣菜配送専用らしい。
*1 「 ヒュンダイ( HYUNDAI )」
日本での読みは「ヒュンダイ」が一般的だったが、2020年、「 HYUNDAI 」は国際呼称を現地音に近い「ヒョンデ」に統一すると発表。
しかし、モータースポーツ放送などでの呼称は今も「ヒュンダイ」のまま。
「ヒョンデ」は定着していないので、「ヒュンダイ」に表記を戻します。
ヒロイン、アジンの「個人アシスタント」を務めるホ・ジニ(チェ・ユンソ)のコンパクトカー。
シボレー「スパーク( Spark )」
「個人アシスタント」としたのは秘書のような公式な上下関係では無く、友人かつ援助者に近い存在のため。
アジンの娘アン・ジフ(イ・チェミ)が、「お姉ちゃんの車で送ってもらうのが一番楽しい」と言うような関係性。
アジンの友人にして援助者がもうひとり。
カン・ギホ弁護士(イ・ギウ)の古い車。
スポンサー外車両、ヒュンダイ「ソナタ( Sonata )」 2001 年頃モデル。
カン弁護士は、このドラマには登場しないボルボ「 XC60 」あたりが似合うポジションですが、庶民派のため実入りが少なく、古い車を大切にしています。
(画像は別ドラマの XC60 )
あっちこちをひっかき回すお騒がせ画家ユン・ソンヒ(イ・テイム)が乗る小型セダンは、シボレー「クルーズ( Cruze )」
「私は芸術家なの」と公言する割には、相当に平凡な選択。
とはいえ、このモデルは GM の車種削減の対象となり、2 年弱で販売終了というレアといえばレアな存在。
登場する車は概ねこんな感じ。
それぞれのキャラクタに合った選択と言えそうです。
ついでに、最近の韓国ドラマでボルボが目立つ訳。
ボルボといえばスウェーデンの有力企業というイメージですが、現在は多国籍。
1999 年、ボルボの乗用車部門を米国系「フォード( Ford )」グループが取得。
2010 年フォードから、中国系自動車メーカー「吉利汽車( Geely Automobile )」を持つ「浙江吉利控股集団( Zhejiang Geely Holding Group )」傘下へと移行。
これに伴い中国国内の生産拠点が増加、韓国からとても近い輸入車となっています。
また、こうした事情から「 WTCR (世界ツーリングカー・カップ - 市販車ベースの4輪レース)」で活躍中の「 Link & Co 03 TCR 」には、ボルボの技術が詰まっています。
(「 Link & Co 」は、吉利汽車とボルボが共同設立した中国国内向けブランド)
話変わって「品位のある彼女」は、実際に起きたふたつの事件を彷彿とさせる仕掛けとなっています。
ひとつめ。
中堅紙業会社の創業者会長が二人の息子を会社から追い出し、35 歳年下の後妻に保有株式の全てを譲渡し、副会長に指名。
経営権を承継した副会長は経営実績に見合わぬ高額配当を続け、財務体質を弱体化させた挙句 PEF (私募ファンド)に保有株式を譲渡して雲隠れ。
ふたつめ。
大手半導体/通信企業会長が、有力家出身で系列の美術財団館長を務める「政略結婚」した正妻を家から閉め出し、15 歳年下の「芸術家」と同居。
企業成長に対する正妻の寄与分を付加した、超高額の慰謝料請求を含む泥沼の離婚訴訟が始まります。
ドラマでは普通の家に育ったアジンが、実は「成金」デソンパルプのアン一家を「財閥」らしく見せるため、いささかアイロニカルに孤軍奮闘します。
そういえば、スポンサに高級化粧品の「ランコム( LANCÔME )」
劇中に登場するのはもちろん、
アジンを演じたキム・ヒソンを広告に起用。
ランコムの広告といえば、有名女優の代名詞。
上手く読み取れなかったのですが、どうやら「キム・ヒソン色」を売り出したようです。
毎度の事ではありますが、一体ドラマの何処を見ているのやら。