警視庁本部。


通された会議室のテーブルには。

剣持、諸原、そして………

S工業大学助教授の飯塚の姿があった。

美枝と麻衣が入室すると、三人は起立して会釈する。

母娘にとって剣持以外は初対面である。

研究室へ聞き取りに来ていた警察が、まさかの剣持だと知らされた時は思わず激昂しそうになった麻衣であった。

(結局、わたしを捕まえるのが目的でウロついてたんだ)

しかし自分も嘘のアリバイ工作をしたり、しらばっくれる等。

警察に対し虚偽の証言をした事実を考えると、大手を振って非難は出来なかった。


諸原が着座を勧め、挨拶する。


「どうも。

お忙しいところ、お越し願い申し訳ありません。

先日は調査に御協力頂き、ありがとうございました。

剣持の上司の、諸原と言います」


続いて、右隣りに座る飯塚を紹介。

飯塚が美枝に挨拶する。


「初めまして、真行寺博士。

学会名簿でお見受けしております。

S工大の飯塚と申します」


全員が椅子に着くと、いきなり麻衣は拳を握った両腕を諸原に向かって差し出した。


「麻衣!」


美枝が制しようとするのを無視し、麻衣は語り出す。


「わたしを逮捕したいんでしょ?」


麻衣は手錠を掛けろとアピールしたのだった。


「どうせ、わたしの人生なんか。

ロボットに改造された時点で終わってる………早く逮捕して!」


突然の麻衣の態度に、剣持と飯塚は戦慄する。


諸原は。

自分をキッと見つめる、この少女の瞳の奥に17歳という年齢にそぐわない覚悟と………哀しみを見た。



「………お嬢さん、その手を降ろしなさい。

それから、人の話は最後まで聞くものだよ。

学校で習ってないかね?」


諸原の説得にも麻衣は姿勢を崩さなかった。

しかし暫くし、黙って両腕をしまい込んだ。

表情は硬いままだった。


諸原が美枝に向かって話を始める。


「ええ………まず、真行寺さんに最終的な確認事項がございます。

よろしいですか?」


「はい」


諸原は、剣持の聞き取り内容の再確認から始めた。

渋谷区の無差別通り魔事件当時の麻衣の状態………技術的に間に合わなかった事情等。

一つ一つ漏れなく丁寧に確認を取って行く。

時折、剣持が助言を入れる。


それだけで、50分余りの時間を要した。


「………ありがとうございました。

確認は以上です」


老眼鏡を外しながら、メモを付け加えた資料をテーブルに置き。

諸原は美枝と麻衣を見据える。


「お気になされるかと思われますので、結論を先に申し上げます。

娘さん……麻衣さんが罪に問われることは一切ありません。

真行寺さんも同様、罪には問われません。

責任の所在の有り得るのは麻衣さん御本人の承諾も得ず、また家族であった真行寺さんの承諾も得ないまま強制的に麻衣さんに戦闘ロボットへの改造を行ったイスロという組織と。

それに加担したと見られる日向武雅氏にあります」


美枝は……全身から力が抜けるのを感じた。

麻衣は、目を見開いて話を聞いている。


「懸念のあった過剰防衛についてですが。

麻衣さんは現在も人間としての自我を保持しておられるようですが、事件現場に向かった経緯と現場で当たった行動当時はそうでは無く。

完全にロボットの状態でした。

現法は、あくまで人間のみに対し執行されるものであり。

ロボットは対象となりません」


剣持も、大きく頷く。


美枝の瞳から涙が溢れ出て来た。


「………ありがとうございます」


言葉が自然に口をついて出る。


麻衣は………複雑な心境の中に居た。

過剰防衛の罪を免れたこと自体が、自分がロボットであり人間ではないと確定されたのと同じだと。

決して母親のように喜ぶことは出来なかった。


剣持は、それまで話に加わらずにいた飯塚について語った。


「こちらにおられる、飯塚助教授からも。

ロボット研究者としての助言を多く頂きました。

飯塚先生、改めて。

ありがとうございます」


飯塚は照れ笑いをしながらも、硬い表情のままの麻衣に話しかけた。


「真行寺麻衣さん。

剣持さんは、あなたのことを理解する為に本当に一生懸命、私の所へ通って来てたんですよ。

自分が刑事であることも忘れてるんじゃないか?ってくらいにね」


「やめて下さいよ、先生」


顔を赤くする剣持。


そうした剣持と飯塚のやりとり、泣き笑いの顔の母親を見ていると。

荒んでいた麻衣の気持ちも、少しずつほぐれていった。

わたしがロボットにさせられたのは大人達の勝手な都合だ………でも、今ここに居る人達は。

そんな、わたしを守ろうと今まで一生懸命になってくれていた。

この人達を恨むのは筋違いだ、と。


しかし。

やはり、父………

日向だけは許せない。

その気持ちだけは譲れない、麻衣であった。


「ええ、実は。

この度は重要な話が、もう一つあります」


諸原が再び口火を切った。


「その、イスロという組織。

真行寺さんは御存知かと思われますが、実質国際テロ組織です。

この度の猫ロボット事件は序章であり、今後ロボットを使った何らかのテロを企てる恐れがあります。

我々警察も、そうした新手のテロ対策にも取り組む必要があります。

真行寺さん、飯塚さん始め、ロボット研究者皆さんの御協力も必要になるかと思われます。

どうか、よろしくお願いいたします」


諸原が頭を下げると、突然麻衣が声を張り上げる。


「わたしも闘うわ!

これって………わたしの問題でもあるの。

警察の皆さんに、任せっきりにするわけに行かないよ!!」


驚きの表情の大人達を前に、麻衣は毅然と言い放った。

それを見た諸原。


「………麻衣さん。

あなたの勇敢さと正義感は見上げたものだ。

しかし相手はテロ組織、幾らあなたが戦闘ロボットであっても、余りに危険過ぎる。

ここは我々に任せておきなさい」


「大丈夫!

こないだのネコ型ロボットだって、倒したし。

それだけじゃなくて人型の、戦闘ヒューマノイド相手のトレーニングだって数え切れないくらいしてるし!!」


「麻衣!!」


つい、ここで言うべきでない秘密まで口走りそうな麻衣を美枝が制する。


麻衣は、猫型戦闘アニマロイドのシュワルツ・カッツを倒した手柄を独り占めするつもりは勿論無かった。

華裏那、エリック=ティーチャーといった"仲間”あってこそと思い。

その存在を知らない人達に、ここで知らしめたくも思っていた。


事件に取り組んでいた剣持が感慨深げに言う。


「やはり……あの猫ロボットを破壊してくれていたのは、君だったか。

いつの間にか事件が収束してしまったかに思っていたが………

さもなければ、まだまだ犠牲が増えていたかも知れない」


飯塚が付け加える。


「私も、その残骸を剣持さんから提供頂き検証しましたが、相当な破壊力の加わった形跡が見られました。

ライフルで撃ち落とすといったレベルとは明らかに違いますね。

逆に考えると………対戦闘ロボット相手では現状の小銃等での対応だと難しい可能性もあります」


飯塚に、諸原が尋ねる。


「飯塚さん。

世界的に見て、現状で対テロ対策のロボット部隊を立ち上げている国等は御存知ですか?」


「はい。

有るには有りますが、対地雷除去や戦車の変形型等のロボットのみで。

ドローンといった空戦、海上戦以外の対戦闘ロボット向け……すなわち

戦闘ヒューマノイドやアニマロイドの情報は私の知るレベルで最近ようやく出て来たばかりです。

ただし、それは国単位ではなく独立法人や開発機構が行っている状況ですね」


「そうしたロボットの開発には、やはり時間がかかりそうでしょうか」


「そうですね。

ゼロから立ち上げるには、少なくとも数年かかるかと思われます」


腕を組み、考え込む諸原。

剣持が進言する。


「諸原さん。

ここは当面、ロボット・テロの対策については真行寺麻衣さんと真行寺さんの研究室とも連携を取りながら警戒に当たるべきかと思われますが。

いかがでしょう。

事態は待った無しかと」


「しかしだな………」


大人達のやり取りを聞きながら、麻衣はじれったくなっていた。


「もう!

何にも知らない人達より、わたしみたいに戦闘ヒューマノイドになっちゃってる奴の方が当てになるはずよ!

そんなに、わたし頼りがい無く見える?

見てなさい!!」


「麻衣!」
美枝は麻衣が何をしようとしてるのか、気が付いた。
まさか………ここで!?

「einschalten!!」
 (アインサイルトゥン!!)
「Eins!!」 「zwei!!」
  (アインス) !! (ツヴァイ) !!
「drei!!」
  (ドゥファイ)!!
初めて戦闘ヒューマノイド形態の麻衣を目の当たりにする剣持。
(あの写真そのものだ……)
飯塚は感涙を禁じ得なかった。
「へ……変身だ……
本物の変身技術だ!
…………素晴らしいッ!!
やはり日向博士は不可能を可能にする人だ………極東のナポレオンだッ!!!」

諸原は、麻衣を止める理由が見つからなくなっていた。
「どうしても………
イスロと闘うつもりかね?」

「わたしの身体が、闘えと言ってるの。
みんなを守れと言ってるの!!」

麻衣!
正義の火を灯せ!!
チェインジだッ!!!

〈正義の火を灯せ・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は

実在するものと一切関わりありません

キャラクターアプリ;Picrew.me ChatGTP

Gemini

画像アプリ;You Can Perfect