(………技が効かない!?)

これまでは、危険な事案に遭遇しても
相手は人間だった。
全ては無難に対応出来ていた。
しかし、人間以外の者………
自身と同じ戦闘ロボット=戦闘ヒューマノイドを向こうに回した時に
こんな場面を露呈することになるとは
想像出来ていなかった。
「じゃあ、次はあたしね」
華裏那は鋭い蹴りを麻衣に見舞った。

たまらず麻衣は吹き飛ばされた。
衝撃で立ち上がれない。
「どうしたの?これでおしまい?」
華裏那が麻衣を見下ろして嘲笑う。
さらに………
”電 The End”を放った直後の麻衣の身体は電力の回復に時間がかかり、一時的にパワーを100%発揮できない状態となる。
しかし相手が自分を破壊しようとしている今、麻衣は渾身の力で立ち向かおうとする。
立ち上がって拳を繰り出す麻衣。


今度は強烈な膝蹴りを胸部に見舞い、麻衣は再び地面へ吹き飛んだ。
(ダメだ………力が違い過ぎる)
重なる強いダメージで、体内の電子回路からも警告メッセージを発している。
もはや目に映るモニターにもノイズが入り、華裏那が一歩一歩にじり寄るのが微かに見えるだけだった。
すると……………
「………ん?待てよ?」
華裏那がピタリと歩みを止める。
「フ………まさか
こんな簡単にコマンド完了できる予定じゃなかったから、今日はやめとくわ」
笑みを浮かべた。
呆気にとられている麻衣の電子頭脳でも
相手の戦意・殺意が低下していくのを確認出来た。
華裏那はヒューマノイド形態から人間形態へ戻った。
同時に麻衣も人間形態へと戻る。
華裏那は傷だらけの麻衣を見下ろした。
顔からは笑みが消え、心なしか厳しい表情に見えた。
さっき”自分はコマンドには従わない”とか言ってたわよね?
それがどういうことか、わかってるの?」
華裏那は続けた。
「ロボットが人間の言うことを聞かなくなったら、どうなる?
産業ロボットが、医療ロボットが、
”自分の意志に従う”とか言って動き出したとしたら、どうなる?
………おそらく社会はメチャクチャよ。
もし、それが軍事ロボットならクーデターが起きて国家そのものが危うくなるわ」
麻衣には言い返す言葉が見つからなかった。
確かに、華裏那の言い分にも一理あると感じた。
「あなたが、どんなイキサツでロボットになったのかなんて知らない。
けどね、いくらアタマが良いヒューマノイドだってロボットはロボットでしかないのよ」

フン、思い上がりもたいがいにね。
今のあなたを見なさいよ!」

確かにそうだ。
これから先、華裏那以外の戦闘ヒューマノイドに遭遇する事態とならないとも限らない。
そうした時に、今の自分の戦闘力で太刀打ちできるのか?
麻衣は自分の無力さに、唇を噛んだ。
「一旦受けたコマンドは実行しなきゃならないから、あなたが標的なのは変わらない。
けど、コマンドと無関係な者達にまで
あたしは手を出さない。
…………あなたの大切な人達も含めて、ね」
「え!?」
思いがけない華裏那の言葉に、麻衣は顔を上げた。
「あたしを倒したいなら、もっとマシなアップグレードをエンジニアにやってもらいなさいね」
華裏那は背中を向けて立ち去って行った。
(…………何よ?さっきのあたし。
まるでホントの姉みたいじゃない!)
麻衣に想定外の”説教”を行なった自分自身に、思わず華裏那は苦笑いしていた。
………やっとのことで立ち上がり
疲労と痛みでフラフラと家路を辿る麻衣。
あと一歩で破壊されそうになりながらも助かった安堵感と。
時間が経つに連れて、込み上げてくる
悔しさ。
