「ケイ、フケようぜ」

いつものように、数名の仲間と午後の授業をフイにする。
玄関から叫ぶ教師の声を背中にモーターサイクルが泳ぎ出す。
その排気音は、さしずめ、あざけり声のようだ。


彼の仲間達。

カズ。
ガキのころから色男。
本当に外人みたいなツラをしている。
だけどヤボな奴で、一人で硬派ぶっている。
カズのモーターサイクル。
カワサキZ400FX。
重厚な車体をしている。

「男はカワサキよぉ」

というカズは、やはりカワサキしか選ばない。
FXにまたがる前も、やはり同じカワサキのAR50に乗っていた。
タバコはショートホープ。
カズには、くされ縁の女のコがいた。
進学校であるL高校のとなりのM女子校に通っている。
みんなは二人をステディだと信じているがカズ自身は否定している。
ただし、他から言いよってくる女のコには目もくれない。
からかうと一番おもしろいのはカズだ。
日本人ばなれの顔をしていても英語はいつも赤点。
かなりゲタをはかされて進級してきたことだろうと、もっぱらのウワサだ。


カツ。
無鉄砲な奴。
二回、死にっぱぐれている。
通算入院約半年。
留年しないのが不思議なくらいだ。
そのうちの一つ。
そのワケは、やはりモーターサイクルにある。
寝坊してしまい、アクセル全開で登校中の悲劇。
イキナリ、ブラインドカーブからダンプ・トラック。
その後は記憶にないらしい。
次に目の覚めたのは、水の音がした時。
まず目に入ったのは白衣の看護婦と白いカベ。
次に目に入ったのは、自分の太腿から飛び出した骨の折れ口と、それを水で洗っている医師の姿。
全治三ヵ月。
今でもカツの右太腿には、えぐれた部分が残っている。
ちなみに、頭の調子は以前のままだ。


パラ。
金髪がシンボル。
小心者だがイキはいい。
ナリは小さい。
家がキノコ栽培をしている農家で、よく手伝いをしていた。
最近、親父さんが亡くなってしまい、キノコ栽培も一人でがんばっているらしい。


他にも仲間はいるのだが、この日ケイといたのは、この三人だった。


「ケイ、ハッカ行こうぜ」

パラが誘う。
ハッカとは、近くにある峠の名だ。
よく走りに行く。

「コーヒー飲まんか」

カズがうながす。

「おう、最近ハッカにL高の野郎どもが来てるらしいぜ」

「ケッ、ナマイキに」

「一回シメんべ」

結局、その日は行きつけの茶店で夕方まで女の話ばかりしていた。



ケイは帰る前に、少し流して走ることにした。
マイルドセブンとコーヒーで苦くなった口を開けると、夕ぐれの冷たい空気が風になってのどをくすぐった。
パープルの空の彼方に沈む夕日を見ながらケイは走った。

ケイのモーターサイクル。
ホンダ・ホークIII(スリー)。
‘79年型の400cc。
オール・ブラックに塗りかえてあるが、これはペンキ屋の友達が二万円でやってくれたものだ。
装着されている集合マフラーからは、太くて小気味よい二気筒独特の声がする。
もともとは彼の兄が乗っていたものだったが。
その兄が3年前仕事で上京すると同時に、ゆずりうけたものだった。

「あいつ、もう帰ったかな」

国道を北へ走り続けて、ケイは自分の彼女が通う高校の近くまで来ていた。
もう、あたりは闇。
時計は六時半。
そろそろ定時制の授業が始まる。

キヨミ。
それが彼女の名前だった。
キヨミは定時制の生徒ではなかったが、部活に入っていた。
運動ではなく、美術部だった。
その部活も、まともにやっていたわけじゃなかった。
遅くまで美術室で友達と菓子を食いながら、しゃべっているのが仕事だった。

高校の横を通った時、美術室のあかりは点いていなかった。

道ばたに定時制の連中のモーターサイクルが並ぶ。
ほとんどが族車、つまり暴走族のものだった。
ピンクのチンチラシートが闇に浮かびあがり、ハンドルに挿しこんだヘアブラシが妙に目立つ。
少なくともケイは、こんな連中とは違った。
彼らはストリートを、ケイはスカイラインを走るのが好きだった。

何よりも、目立つのは嫌いだった。
ケイはガキのころからそうだった。
さらし者になるのがいやで、学芸会をよくサボった。
無口で、はにかみ屋で、照れ屋。
言いたいことも正直に言葉で表わせたことなどなかった。
まじめな話をする時は、いつもフザケてばかりいた。

ただ、負けず嫌いだった。
悔しい時は涙を流して悔しがった。

ケイは、点け忘れたヘッドライトの行く先を家路に向けた。

〈続く〉
 
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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