烈貴は。

美葉から苦言を呈されたこともあり、莉奈所属のロックバンド H.M.S との定演セッションを諦めることを考えた。

理屈も、もっともだと思ったからである。

幾ら自身の望む演奏を実現したくとも、我を通してばかりもいられない。


だが一方で。

美葉も、自身の烈貴にとった態度を反省していた。

その一環で美葉の中でも変化が起こり、H.M.Sとのセッションについて再考し………相談するだけでもしてみるのは、決して悪くはないと思えた。



「………理解してくれて、ありがとう」


昼休みの屋上で、美葉を"座りバッグハグ”しながら烈貴は耳元で囁く。

美葉も、もう硬い態度はしない。

全身を脱力し烈貴に身を委ねている。


「………キツく言い過ぎちゃって、ゴメンね」


憂いに満ちた眼差しで、口づけを求める美葉。

熱く応える烈貴。

愛おしく互いを愛撫し合う二人。

仲直りのカップルの逢瀬とは、より激しく求め合うものだ。

他に居合わせの激愛リア達と共に、給水施設裏壁の熱量を上げていた。




放課後、烈貴と美葉は揃って音楽教官室を訪れていた。

テーブルには顧問教師の渡辺と、部長の前田も居る。


渡辺は急いだ表情で口を割る。


「どっちにしても、やるんなら(セッションを)今すぐにでも準備始めなきゃダメだ!

前田、相川と連絡つくか?」


「ハイ。

部員名簿のデータはあります」


「じゃ、まず相川に連絡して、向こうさんのバンマス(バンドマスター)さんと協議したいと俺が言ってたと伝えてくれ」


「わかりました。

………部員達には、まだ?」


「ああ、もし仮に向こうさんが加わったとしても。

自分らの練習内容に変わりは無いとだけ伝えてくれればいい」


「わかりました!」


この場合のH.M.Sのバンマスに当たるのは、ベースのマッキーこと真木となろう。


烈貴は………自身の申し出に、これ程協力的に動いてくれることに感激していた。

もし仮にセッションが叶わなかったとしても、決して悔いは無い!そう思う自信があった。

横に座る美葉も、烈貴の手を強く握り締めていた。




「ちょっとぉ。

マッキーさん、いい?」


夜………

H.M.Sのベース、真木に電話する莉奈。


「おやぁ?

珍しく、リーちゃんからデートのお誘いかぁ?

雄馬の許可は貰ったんだろね?

ハハハハハ」


電話の向こうで笑うマッキー。

莉奈も思わず笑い声。


「うん、デートデート!

てか雄馬もアインさんもミタさんも一緒になるけど、いい?」


マッキーは莉奈の、その一言で更に声を高くする。


「マジ楽しそうじゃん!!

………で、何処から来てるの?」


マッキーは。

長年の経験から、それがセッションの誘いであることを見抜いていた。


「あのね………あたしのガッコってか、古巣の吹部!」 


「マジマジッ!?

それってガチでサイコーじゃんかッ!!

で、いつ?」


「んとね、来月アタマだって。

吹部の定演で、みんなと演って欲しいって顧問のワタナベからマッキーさんへ打診来てんだ。

譜面は直ぐ用意出来るって」


「曲は?」


「ん〜〜〜とね、なんてったっけ?

………なんとかホワイトの、愛のテーマ?って曲。

70年代に流行ったらしいよ」


マッキーは曲名を聞き、少し落ち着いた声に変わって言った。


「その曲なぁ………リーちゃん。

譜面なんて要らないよ。

超有名な曲だし、どうアレンジするか?なんてのも俺、わかるしさ」


「えええ〜〜〜ッ!?

マジィ!?

スッゴ〜〜〜いッ!!

マッキーさんッ」


感心する莉奈に、マッキーはへへッと照れ笑いして見せるが。


「少なくとも音楽カジッてる奴で、バリー・ホワイトの愛のテーマ知らねェなんてモグリだよ。

その気になりゃ、当日飛び入りだって演れる!

ま………高校生にオジサン達が、ついていけるか?だけどな」


そう言って、マッキーは笑うのであった。




「………そんなわけで、"愛のテーマ”だけ市内のロックバンドとコラボしようか?って話になってる。

どうかな?」


音楽室で部員一同に、前田が語りかけている。


言い出しっぺの烈貴は、まるで自身の判決を待つか?のような緊張の面持ちだ。


美葉と同学年、一年生のクラリネット女子が一人、手を挙げる。


「あ、あの………ロックバンドって、コワい人達ですか!?」


失笑する前田。


「いやいや、全然普通のオジサン達らしいよ」



続いて二年生の、同じくクラリネット女子が一人挙手する。


「言いにくいことだけど………そこ、相川先輩が居るって。

大丈夫なんですか?

私………あの時のこと、トラウマになってるんです」


そう言って、その二年生クラリネット女子は烈貴と美葉の方に視線をやる。


「また暴力事件とかになるんじゃないかって思うと、なんかコワいんです」



烈貴は、立ち上がった。


「大丈夫だよ!

あの時のことは、相川先輩も反省してる。

みんなにも申し訳無いって、言ってた!

部は辞めたけど、音楽を捨てきれなくて、今はロックバンドに居るんだ。

本当に音楽が好きな人なんだよッ!!」


しかし、その女子は言った。


「高橋君はそう言うけど………あの時対立してた近藤さんとは、違う感情があるんじゃないの?

それが心配だって言うのよ」


美葉も立ち上がる。


「私、あれから相川先輩と会って話もしました………今はもう、わだかまりみたいなのも全然無いですよ」


聞いていた三年生、吉田翡翠も立ち上がる。


「………私も、相川さんを信じたい。

彼女の後を引き継いでみて、どれ程の思いを部に持っていたか………わかった気がするの。

せめて最後だけは、この部と一緒に演奏させてあげたい………私、そう思う」


「………吉田先輩!」


まさに自分の気持ちを代弁したかのような吉田の言葉に感激する烈貴。


隣りの美葉にも向き直る。


「ありがとう………美葉ちゃん」


美葉は、烈貴の瞳に光るものを見た。

莉奈への嫉妬も起きず、美葉も、ただただ頷いていた。


前田が改まって言う。


「………じゃ、いいかな?

みんな。

とりあえず本場までにコラボでやってみる機会を持つ予定だそうだ。

問題点が出たら、その時考えるとのこと。

目標は………聴きに来る人達をアッと言わせる演奏だッ!

コレって、定演でしか出来ないことだと思う!」


前田の言葉に、カノジョである吉田も笑顔で頷いていた。



部活帰り。

真夏と違い、すっかり真っ暗になっている駐輪場で美葉を抱き締める烈貴。


「…………美葉ちゃん。

俺の気持ち、わかってくれて。

ホントありがとう………」


烈貴と頬を合わせながら、背中へ両手を回す美葉。


「………当たり前でしょ?

カノジョなんだから」


笑ってみせる美葉の首すじに、烈貴はキスの雨を降らせる。

瞼を閉じる美葉。


こうして、ほころびの出来る度に。

二人で一つ一つ直していけばいい………

きっと烈貴の両親も、そうして来たんだろう………


美葉は。

口づけで烈貴と舌をからませながら、そう思い起こしていた。



続く


〈コラボ・完〉


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