11月の定期演奏会まで一ヶ月を切っていた。
◯✕高校吹奏楽は例年、この定期演奏会=定演をコンクール出場とはまた別の熱量で取り組んでいる。
コンクールは所謂"競技”と言ってよいものだが、あくまで学校単体で行なわれる定演というのは成績や賞典といった評価から一切解放され。
身近な人達へ演奏を披露する、ある意味"純粋な”音楽の場である。
夏休み終了から数えて僅か二ヶ月余りという短さの中で、部員達は丹精込めた準備を続ける。
烈貴の提案した定演用曲目、バリー・ホワイト作曲・指揮「愛のテーマ」は。
本来オーケストラの為に作られた、近現代のイスントロメンタル曲だ。
顧問の渡辺は取り急ぎロレンツォ・ボッチ版の吹奏楽団アレンジ楽譜を用意、9月の半ばには部員達へ配布し、練習を開始させた。
この曲本来の主旋律のほとんどを司る楽器はバイオリンを中心とした弦楽器であり、そこをブラスバンドで代替するのがクラリネットを中心とした木管楽器セクションであるのだが。
部内で演奏が組み上がっていくにつれ、烈貴には或る思いが交錯していた。
「………セッション?」
いつものように昼休みの屋上で過ごしながら。
まずは美葉に、烈貴は話してみていた。
「うん。
"愛のテーマ”は今の段階で、部単位の演奏でも出来上がりつつあるけど………
正直、メロディラインの小節で木管さん達が苦しそうに聴こえるんだよな。
いや、木管さん達のウデがどうのこうのじゃなくてさ。
今までに無かったトーンの長さとかが、そうしてるんだと思う。
………この曲を上げた俺としてもさ、演るからには演る方も聴く方も、両方満足する演奏にしたいと思うんだ」
「………それで、相川先輩のバンドを呼びたいのね」
烈貴としては。
「愛のテーマ」を可能な限り、オリジナルであるラブ・アンリミテッドというオーケストラの演奏に近付けたいのだが。
現状の部での演奏だと少人数ということもあり、当然ながらパワー不足感は否めない。
そこで考え付いたのが、莉奈の所属するロックバンドH・M・Sの招へいとセッションである。
現在、H・M・Sはストリングスがギタープレイヤーとして雄馬とアインの実質二名と、ベースのマッキーの都合三名。
あとはドラムスのミタ………そしてキーボードの莉奈だ。
どちらにしてもエレクトリック・ストリングスとキーボードのバックアップは一騎当千であり。
また、ミタのドラムスも力強くパーカッションをサポートしてくれる………烈貴は莉奈から訊いていた情報により、そう見込んでいた。
「………で、このことを部長とワタナベに相談してみようと思うんだ。
定演の醍醐味ってさ………コンクールと違って縛りが無い、てかコンクールでは出来ないのをやってのけることだと思うんだけど」
烈貴の提案を聞いた後、美葉は暫く沈黙してから、ポツリと呟いた。
「………私、あんまり気が乗らないなぁ」
「………え?」
烈貴は、思いもよらぬ美葉の反応に動揺し始める。
美葉は続けた。
「………だって。
定演て、私達の演奏会でしょ?
上手いとか下手とか関係無くて、私達だけで作るのに意味があるんじゃない?
OBが出るくらいなら、まだわかるけど。
全然関係無い人達まで呼ぶのって、なんか違うと思う」
烈貴は、美葉の言い分にグゥの字も出なくなりそうになったが。
気を取り直すかのように反論する。
「全然関係無くなんて、ないよ!
あのバンドには、相川先輩が居る。
まあ……あんな事件があって、退部しなくちゃならなくなったけど、元は同じ仲間だろ?
しかも………あの人も、もう卒業だ。
最後に、みんなとの思い出の一つくらい作ってあげても、いいんじゃないかな?」
「………それって!」
美葉は厳しい表情でキッと向いた。
「それって、先輩が言うことなの?
あんな暴力事件まで起こして退部していった人に、そこまで気を使う必要が何処にあるの!?
…………先輩の考えてること、わかんない!」
不機嫌そうにソッポを向く美葉に、烈貴はただただ狼狽える。
「………ま、まぁ、落ち着いて考えようよ、まだまだ、あくまで構想の段階だからさ………てか、今くらいからなら間に合うかな………とか思ってて………」
自分の肩に触れようとする烈貴の手を振り払い、美葉はキツい目で睨む。
「先輩。
まだ相川先輩のことが忘れられないんでしょ?
だから、いつまでも関わろうとするんだね」
「………へ!?」
美葉が突然言い出したことに、烈貴は直ぐに言葉も出ない。
美葉は無言で立ち上がり、戻り支度を始める。
「………ちょ………ちょと待ってくれ、そんなこと、あるわけないだろォ!?」
美葉は背中を見せたまま、振り向こうともしない。
「相川先輩とのセックスが、忘れられないんでしょ?
身体は正直、とか言うもんね。
………勝手にしたら?」
そう言って美葉は、ズンズンと歩き去っていく。
「ちょッ!
ちょッ、待てって」
烈貴は追いかけようとするが、その時、昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
同時にナイスタイミングで烈貴は足元のコンクリートの継ぎ目でつまずき、見事にヘッドスライディング!
「ア………チャー」
うつ伏せに横たわる烈貴の90度回転した視界の、屋上の手摺りに止まるカラスが。
バカにしたように鳴いていた。
放課後の音楽室では、通常通り美葉に会えたが。
美葉は必要最小限の会話に答えるだけで、あとは黙々と楽器を扱い譜面に向かうばかり。
部活が終わりを告げると早々に片付けをし、他の部員達に挨拶をして帰って行った。
烈貴には目もくれず………
慌ててトロンボーンをケースに仕舞いつつ、後を追う烈貴。
廊下に出ても、玄関まで行っても美葉の姿は既に無かった。
烈貴は走って駐輪場まで行き、急いでヘルメットを被りつつRG50Eのエンジンをかける。
グバォーン!
グバォーン!!
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
いつもよりスロットルの開け方も乱暴になる。
アイドリングもそこそこに駐輪場を飛び出した烈貴とRG50E。
ヘッドライトの行く先を、いつもの帰り道ではなく美葉の通学路へと向ける。
パァァァァァァァーン!
パァァァァァァァァァァーン!!
焦る烈貴は思わず回転数をレッドゾーンまで叩き込んでしまうが、それだと美葉を追い抜いてしまうだろう!?と途中で気付き。
これまた慌ててスロットルを絞り、路肩に美葉の姿を探す。
既に暗闇の道路では、ヘッドライトの明かりだけが頼りだ。
ほどなくして、一人、黙々と歩いている美葉の後ろ姿を見つけた。
烈貴はギアダウンする。
バィィーン!
バィィィーン………
対向車の来ないのを確認し、歩く美葉にRG50Eを横付けした。
ヘルメットのシールドを開け、脇目も振らず歩き続ける美葉の横顔に呼びかける。
「………待てよ、止まれよ!
話、聞けよ!!」
それにも構わず歩くのを止めない美葉。
「止まれってッ!!」
烈貴は美葉の行く手にRG50Eの前輪を強引に突っ込ませ、歩みを止めてみせるが。
美葉は無表情のまま回れ右をし、RG50Eの後部を回り、回避してから再び前方へと歩き出す。
烈貴は大きく溜息をつき、RG50Eを路肩に寄せて停め。
徒歩で美葉を追う。
ヘルメットは被ったままだ。
「話、聞いてくれよ、美葉ちゃん!」
後ろから追い付き、横並びに歩きながら烈貴は話しかける。
美葉は前を向いたままだ。
「………相川先輩となんか、もう何にも無いよッ!
美葉ちゃんと、正式に付き合ってから、何も!!」
美葉は、まだ歩いている。
烈貴は息を切らしながら、もう一度言う。
「俺にとって、大事なのは、美葉ちゃんだけだよッ………わかるだろォッ!?
ゴホッ、ゴホッ」
美葉の歩みが、やっと止まる。
が………昼間と変わらぬ、厳しい視線が向けられた。
「じゃ、なんでまだ相川先輩と関わろうとするの!?
オカシイでしょ!?
普通だったら。
昔エッチしたことある女の人と相変わらず関わりたがる彼氏なんて、許せるわけないでしょ!!」
烈貴は、今度こそグゥの音も出なかった。
美葉は続けた。
「それにね。
あと一ヶ月も無い時になって、そんなこと言い出すなんて無茶もイイとこ!
仮に部長や先生や相手に了解とれたとしても、相手のバンドだって短い間にスケジュール組まなきゃだし。
何より途中で割り込まれて、部のみんなだってイイ気持ちなんかしないよ。
幾ら自分が推してる曲だからって、ちょっと勝手過ぎない?」
美葉の言う事は何から何まで、もっとも過ぎる………
烈貴は、自分の浅はかさを改めて思い知り、心が沈んだ。
「………ホント、その通りだ。
ゴメン、ホントに俺、バカだった………」
そう言うのが、やっとで。
烈貴は、肩を落とし立ちすくんだ。
被ったままのヘルメットを、重く感じていた。
美葉は。
言いたいことを全て吐き出したことで少し溜飲が下がった気もしたが、それでも烈貴を許すには足りなかった。
「バンドのセッションのことは諦めるのなら、それでいいけど。
相川先輩の思い出作りに皆で一役買おうなんて台詞には、神経を疑ったわ。
………ちょっと、先輩信じられなくなった」
美葉は踵を返し、再び烈貴を置き去りに去って行った。
烈貴には、既に美葉を追う気力も失せていた。
トボトボとRG50Eまで歩き、力無くキックを下ろすが、なかなかエンジンもかからない。
プラグのカブる寸前にエンジンが息を吹き返したが、スロットルを捻る気になれず。
その場で10分以上もアイドリングで停まっていた…………
美葉は帰宅し、入浴しながら。
ふと、烈貴との今日の出来事を思い出していた。
確かに嫌な気分をしたが、思い起こせば。
莉奈も自主退部だったし、それなりに反省しているのかも知れない。
莉奈も本当は最後まで、皆と一緒に居たかったのかも知れない………
今日の烈貴の台詞が、あくまで、それを慮っただけのことであるならば。
何ら不自然なことではないと美葉は気付いた。
(私ちょっと、キツ過ぎたかな………)
半分以上は、自分の勘ぐり………
自分も無意識に、烈貴の過去に嫉妬していた証拠なんだと。
美葉は自己嫌悪した。
ベッドへ入っても、なかなか寝付けずスマートフォンを見つめる美葉。
「謝らなきゃ」
LINE画面を開こうとした、丁度その時。
チロリン♫
ポップアップが浮き出す。
(発信者;高橋先輩
美葉ちゃん今日は………)
直ぐにLINE画面を開ける。
そこには…………
(美葉ちゃん
今日はイヤな思いさせてゴメン
俺ってホント頭足りなすぎ
けど一つだけハッキリ言えることは
俺には美葉ちゃんだけってこと
オヤスミ)
美葉は、直ぐに返した。
(私こそ
初めてヤキモチしちゃって
そのせいでキツく言い過ぎて
ホントごめんなさい
私も先輩だけだよ♡
おやすみなさい)
美葉はスマートフォンを胸に抱いたまま………眠りについた。

続く
〈仲違い・完〉
弊ブログに素敵な画像を提供頂いている
GEKKO様のブログです♫✨
(人*´∀`)。*゚弊小説の登場人物中心の画像を展開頂いております
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Gemini
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Special Thanks;GEKKO様
