「実はね、俺達………付き合ってるんだ」
私服に着替えた茉莉を含め、四人で舌鼓を打ちつつガトーショコラを食べ終わるタイミングで。
烈貴は、おもむろに告げた。
ティーカップを持つ、母・明美の手が止まる。
茉莉が、烈貴と美葉の顔を見比べている。
少し俯き気味の、美葉。
「………そう」
明美は。
自分自身も、この告知を待っていた気がした。
つい最近、息子の"奔放な性”の現実を知った時も、それはそれで大きなショックではあったが。
"正式に特定の異性と付き合う”息子の現実を突き付けられた時もまた、何か?自分から引き裂かれていくような寂しさ……のようなものを感じるのだと、明美は初めて知る。
例え、相手が"息子の嫁候補”並みに理想的な娘であったとしても。
だが………感情では、そうであろうと。
頭の何処かに、親として子供の成長を受け止めねば!という使命感も同居させなくてはならない。
それが、思春期の子を持つ親というものだ………
そう、明美は自身に言い聞かせていた。
夫からは
「いい加減、息子もデカいんだから距離取れよ。
端から見りゃ立派なマザコンだぞ」
「男にとっちゃ、母親なんざメシ・フロ・ネルさえ用意してくれりゃいいんだよ」
などと言われたものだが。
やはり男親というのは自分で腹を痛めていないものだから、わからないのだろう………そう考えながら明美は聞き流した。
かつて、烈貴と同い年くらいの高校生の息子を持つ母親の、職場の同僚が
"LOVE LOVEだよ〜♡”
と、自慢げに見せた母子ツーショット写真。
あのツーショット写真すらも。
このように息子に彼女が出来るという現実が訪れ、母親から"引き離される”日が来れば過去の物となってしまう。
"LOVE LOVE”だと思い込んでいた夢から醒め、自分だけが取り残される悲劇を味わう………それを思えば。
この若い二人が揃って母親と向き合い、"卒業式”を執り行ってくれることそのものは、むしろ有難いではないだろうか。
明美は、敢えて烈貴から目を背け。
美葉に語りかけた。
「美葉さん。
こんな息子だけど、これからも仲良くしてあげてね」
そう言って笑顔を作る、カレシの母親の心情など。
まだ16歳の小娘には、わからない。
「………ハイ!」
美葉の屈託の無い笑顔に、自分には取り戻せない"若さ”を感じ取る明美であったが。
そうでありながら、親として一段、成長していく自分というものも自覚していた。
烈貴の方は、ホッとしていた。
何時、この母親が豹変し
"この泥棒ネコ〜ッ!!”
などと、美葉に掴みかかるか!?と内心ヒヤヒヤしていたのだった。
「………うんうんッ!
心配しないでよ。
"真面目に”付き合ってるから!」
そういうことではない………
当然ながら、こちらも明美の心情など全く理解は出来ず。
最大のヤマ場をクリア出来、満面の笑みの当の烈貴だったが…………まだ有ったのを思い出す!
妹・茉莉の顔をチラ見すると………
こちらは意外や意外!
両手を合わせ、瞳をキラキラさせている。
「わぁーッ!!
✕中OBの人が、こんなバカ兄と付き合ってくれてるなんて!?
なんか夢みたいッ!!」
「………オマエッ!
バカだけ余計だよ!」
ふと烈貴に向き直り、それこそ"豹変”する茉莉。
「いい?
万が一でも、浮気なんかしたら………わたしが許さないからねッ!!」
背後でゴゴゴゴ………と地鳴りさえ聞こえそうな形相で睨み付ける。
震え上がる烈貴!
笑う美葉。
「頼もしい妹さん!」
途端に茉莉は表情を崩し、喜びに満ちる。
「わたし……美葉さんのこと、お姉ちゃんって呼んでいィい?」
「うん、イイよ。
私も弟しかいなくて、妹が欲しかったの!」
「わぁい!!」
笑顔でハグし合う二人の女子。
放心する烈貴。
そんな子供達の姿を見ていたら………複雑だった明美の胸も、"雪どけ”を迎えて来た気がした。
明美は、自分自身が子供らと同じ頃のことを思い返していた。
理不尽な校則や大人達のエゴで、がんじがらめとなり、まともに呼吸すら出来なかった苦しみの日々。
そんな自分を救い出し、人生に明かりを灯してくれたのは他でもない同年代の異性………現在の夫ではないか。
目の前で笑い合う、烈貴と美葉に………
その頃の自分と正和の姿が重なっていた。
「………美葉さん。
今、こんなこと言うの、ちょっと早過ぎるとは思うんだけど。
大人になってからも、もし、あなたの気が変わらなかったら。
………是非ウチへ、お嫁に来て頂戴!」
「………へ!?」
固まる烈貴。
思わぬ母の言葉に、無邪気に喜ぶのは茉莉だ。
「いいねェ!
ソレ!!
ガチで美葉さんと姉妹じゃんッ!?
ネ?
美葉さん、そうしてッ!
こんな兄だけど、ナントカとハサミは使いようって言うし!?」
「茉莉ッ!!」
烈貴は真っ赤になる。
「オ、オフクロッ!
そんなこと普通イキナリ言われたら、相手ドン引きするじゃんか!!
美葉ちゃんに、そんなプレスかけんなよッ!!」
「………待って!」
美葉は。
真面目な表情で明美に向かった。
「………あの……私……先輩……烈貴さんが初めてなんです、男の子と付き合うの………
だから、まだ、わからないことばかりで……………不安も、あって………」
明美は黙って聞いている。
「………でも、出来れば。
カレと、ずっとお付き合い、出来たらいいな!って………思ってます。
………こんな私でも、いいですか?」
聞き終えた明美は……胸が熱くなっていた。
この娘も、まさに自分と同じ………!
込み上げてくるものをハンカチで堪えながら、明美は告げる。
「大丈夫よ………全然!
私も夫………この子の父親が、初めてで。
それから一筋に生きて、結ばれました。
………あなたとは今日、初めてお会いしたばかりだけど。
私は安心しましたよ。
………烈貴を選んでくれて、ありがとうね」
烈貴は、隣りに座る美葉の横顔を見た。
美葉の瞳もまた、涙を湛えていた。
「………嬉しいです……ありがとう…ございます!」
茉莉が美葉に抱き付いてきて、涙を流す。
「お姉ちゃんッ!!」
ただ一人、烈貴は今ひとつ自信が持てなかった。
美葉への気持ちは確かだったが、まだ高二なのに………
そこまで美葉を将来、支え守れるかどうか?なんて、答える言葉が見つからないでいた。
「男なら、覚悟決めろ!
烈貴!!」
ふと背中越しから聞こえた声に振り返ると。
そこにはいつの間に、ニヤニヤ笑みを浮かべながら柱に寄りかかり立っている父・正和が居た。
「オマエには勿体ねェくらいの、別嬪さんのカノジョじゃねェか?
え?
今"予約”しとかねェと、後でぜってー後悔するゾ!?」
正和は、こうも付け加える。
「オレの頃なんてなァ、高校出てスグ所帯持つなんてのも珍しくもなんともなかったゾ。
シャキッとしろ、シャキッとッ!!」
「まあた、"昭和語り”かよォ!?
…………わかったよ。
美葉ちゃん!
結婚を前提………てか結婚を"目標”にして、お付き合いさせてくださいッ!!
改めてッ!!」
美葉に向かい、深く頭を下げる烈貴。
烈貴の言葉が呼び水となり、溢れた涙が頬をつたう泣き笑いの美葉。
パチパチパチと拍手し、歓声を上げる茉莉。
そして……………
ようやく安堵の涙を見せた、明美であった。
烈貴は美葉を送る為、ともに玄関に出た。
「ここを自宅だと思って、何時でも来なさいね。
次は、ご飯食べに来なさい」
「ありがとうございます!」
見送る明美に、丁寧に御辞儀する美葉。
「お姉ちゃん、待ってるから!
あ、今度、進学の相談乗って欲しいなぁ」
「うん、わかった!
とりあえず、勉強頑張ってね!!」
「ウン!」
茉莉とも、もう一度ハグする。
正和は………整備中のガンマ400の陰から、手を振って見送っていた。
帰り道を並んで歩きながら、烈貴は美葉に提案する。
「ねェ………思ったんだけど、次は俺が美葉ちゃんの家族に会いに行きたいな」
「えぇ?
ウチの家族って変なのばかりだから、ビックリするよ!」
「………さっきの俺と、おんなじこと言ってる」
「………あ!
ホントだ!!」
笑い合う二人を見下ろす空は。
夕焼けと夕闇のグラデーションとなっていた。
続く
〈家族になろうよ・完〉
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