烈貴の母、高橋明美の現在のパート先は全国展開している某スーパーマーケットである。
明美は、そこの事務職で会計・業務手配など総合的役割に於いて正社員を超える活躍を極め、一目置かれている。
そうした中、明美は総菜などを扱うデリカ部門の係員達とは特に親密に交流を持ちつつ、自らの家庭業務=食事=に役立てている。
明美は、こうしたことでも自らを
"良妻賢母とは、こうでなくてはならない”
と自負していた。
そうした中、デリカのパートさん達から
「たまには"女子会”でもしましょうよ」
との声がかかり、公私にケジメを付けるのが信条の明美は一旦固辞しようとしたが。
こうしたことも職場の潤滑油ともなろう………と、了解した。
「………珍しいねェ!?
お母さん、明日飲み会だって!!」
9月も終わろうとする金曜日の夜。
夫の正和が、目を丸くして我が子達に告げる。
何故か?こころなしか嬉しそうな顔の父親を、娘の茉莉は怪訝そうに見る。
そして兄の烈貴すら、何故か?ホッとした表情なのにも疑問だ。
茉莉は烈貴を睨み付ける。
「お母さんが居ないからって、ハメを外したら後で言いつけるからね!」
「な………なにをだよォ!?」
痛くも無い腹を探られ心外な顔の烈貴をほくそ笑み見つつ、母・明美本人は
「お願いよ、茉莉。
随時報告して頂戴」
と茉莉に命じる。
茉莉は敬礼のポーズ。
このようにして………
随分と涼しくなった9月の夜。
明美と職場の女性職員数名と………
その日はゲスト?として、本社所属の管理栄養士・神原由香(かみはら・ゆか)も同席し、市内のイタリアンレストランに集合した。
「わぁ!!
普段こんなお店来ないから、ワクワクする」
「だね、ウチなんか、いつも旦那と居酒屋だよ」
「ウチなんか外食さえ、もう何年もないよ」
テーブルから聞こえて来る、そうした声を。
由香は、さも得意げな顔で聞いていた。
首都圏にある専門学校在学中に国家資格を得、ストレートに本社入りして来た若手エリートの由香は。
普段各店舗を廻りつつ、現場で企画通りのレシピや手順で調理がなされているかチェックを行ったり、食材の取り扱いについてなどのアドバイスを行うのを任務としている。
ほとんど火事場のような喧騒の調理場の中では、明るい色合いのビジネススーツに身を包み、髪型もメイクも怠りなくナチュラルで爽やかな雰囲気の由香は場違いにも見えたが、その的確なアドバイスやコミュニケーションには現場からも反感を買うことは無かった。
たまに見かける、そんな由香に対し明美は。
自分より歳下でありながらも"ヤリ手”である様子に羨望のような………それでいて嫉妬のような思いを感じていた。
早速………というか、勝手に?場を仕切り出す由香。
「みなさん。
今夜は楽しくやりましょう!
………ワインはお好き?
まあ、このお店でも普通にビールや日本酒も頂けるんだけど。
せっかくだから、イタリアンワインをお配りしました。
ソアヴェって言って、口当たりも爽やかで、ワイン初心者でも大丈夫!
さぁ、お試しに♫」
テーブルの面々は。
自分の前に置かれたワイングラスの中の透明な液体を凝視する者、一気に口へ運び舌鼓を打つ者、様々である。
それを皮切りにカルパッチョなどを混ぜた前菜が運ばれ、それから次々と大盛り皿で料理が続く。
後は………ワイワイガヤガヤと、職場では出ないカテゴリーの話題で盛り上がる。
由香も仕事上では見せない笑顔を見せながら、自分とは遥かに違う年代の女性達を向こうに回し話を合わせ、輪の中心に入っている。
明美は………普段は自分が中心に居ると思い込んでいた、職場の人間関係が。
この"小娘”一人に乗っとられた思いがし、次第に不快感を増して来た。
話題は………子供の話となり、待ってました!とばかりに明美も加わり始める。
由香は、パート女性の息子さんや娘さんの自慢話やら愚痴話の聞き手に回り
"ふ〜ん、そ〜なんだ〜〜”
などと適当に相槌を打っていた。
明美が"攻撃”を仕掛けたのは、そんな時だった。
「神原さん。
あなた、結婚は?」
由香が気付き、作り笑顔を明美に向ける。
「は?」
「あなた、結婚はまだなの?」
由香は、とくだん意に介さず………といった感じで明美に返す。
「まだ?………ていうかぁ〜、今は選択肢に無いですねぇ。
仕事が楽しいし、付き合ってるカレともイイ感じだし」
明美は大げさに驚いてみせる。
「え!?
何!?
お付き合いしてる方とは結婚を考えてないの!?」
「………?
ハイ」
それがどうかした?といった顔で向き合う由香に対し。
これだから今の若い人は!!といった顔で明美は、まくし立てた。
「そんな"無責任”な!
私があなたくらいの時はもう、結婚して長男を産んで育ててましたよ。
仕事熱心なのは感心するけど、イイ歳して、いつまでも遊んでいるのはちょっと………
親御さんも心配するでしょうし、お相手さんにも失礼ですよ!」
それを聞いた由香は一瞬唖然とした後、腹を抱えて笑い出した。
「………そんな、ドラマみたいなこと言う人。
初めて会った!」
由香は、目に涙さえ浮かべながら笑いが止まらない。
その様子が想定外で、顔を引きつらせる明美。
「………ド、ドラマ?」
「ハハハハハ………だってぇ!
ホラ、昔のショーワの、ホームドラマ特集とかって、たまにやるじゃん?
"ヨメシュー”とかの。
そん時出て来たセリフそっくりなんだもん」
明美は顔を真っ赤にする。
「結婚に、昔も今もありませんッ!!
だいたい、その歳で異性と"遊ぶ”など。
幾ら仕事が出来るからといって、決して奨励出来ることではありませんよッ!!」
由香は少し、ぶ然とした表情になった。
「遊ぶ………て、どういうこと?
私、カレとは普通に付き合ってるんだけど」
「そんな結婚する気も無く異性と………なんて、遊び以外の何物でもありません!
第一、お相手の男性の立場はどうなるんですか?
お相手の男性の親御さんから見れば、あなたなんかアバズレな泥棒ネコにしか見えませんよッ!!
せっかく苦労して大事に育てあげた息子が、どこの馬の骨かもわからないアバズレに"遊ばれる”なんて………誰でも許せないことでしょう!?」
それまで各々で盛り上っていたテーブルが静まり返り、二人に注目する。
由香は………
まるで地球外生物でも見るかのような目で明美を見ながら言った。
「高橋さん………なんか、タイムスリップして来たみたいなこと言ってるけど?
大丈夫?
今時、そんなこと言う人なんて居ないよ」
明美は怒りを表しながら、テーブルに座る面々を見渡しながら言った。
「皆さん!
こんなこと言ってますが!?
違いますよね!!」
普段の茶飲み話で、明美が自身の持論・教育論を説く度に
"ウンウン、そうだよね”
と、相槌を打ってくれていた者達。
しかし………その一同も下を向き、黙ったままであった。
明美は、凍りついた。
対して由香は、クスッと笑ってから向き直り、明美に尋ねた。
「高橋さんて、高校生の息子さんが居るって聞いてたけど。
その息子さんのカノジョのことも
"アバズレ”
だの
"泥棒ネコ”
だのっていうの?」
明美は歯ぎしりする。
「バカを言わないで!!
ウチでは、息子が、そんな"遊び”をするなど絶対許していませんッ!!」
「そんなの、親なんか関係無くするものでしょう?
それこそ、イイ歳した高校生なんだから。
付き合うなんて普通だし。
そんなので、いちいち親の顔色伺うなんて聞いたことないわ」
「お宅と我が家では違うんですッ!!」
由香は。
この人には何を言ってもムダだ………と察し、落ち着いた表情でワイングラスに口を付けた。
銘柄はソアヴェからバローロに変わっていた。
「まあ……人の家庭のことやプライベートをとやかく言うのもどうかなんで。
もう、やめましょ高橋さん」
対して明美は未だ収まらず、追い打ちをかける。
「その、お相手の親御さんから苦情は来ないの?
遊び呆けるのが好きな、あなたに」
明美の一言にも、顔色一つ変えず返す由香。
「うん、来ないわ。
たぶん、これからもずっと………」
「まあ………なんてふてぶてしいッ!!
何で、そんなことが言えるのッ!?」
由香は向き直る。
「カレ、私より三十五歳上なの」
言葉を失う明美。
由香は言い聞かせる。
「あのね、高橋さん。
あんまりカタにハマり過ぎて、息苦しくない?
"こうでなきゃいけない”
とか
"ああできゃいけない”
とか。
それから…………
自分で思うのは勝手だけどね、他人に押し付けるのって違うでしょ?
あ………この他人てね、自分の身内含めてだけどね。
人ってね………みんな自由に生きていいんだよ」
明美は、声を震わせながら返す。
「あなたは現代っ子だから、そんなことを言えるのね。
結婚して、子供を産んで育てて見なさい。
自分が間違っていたことを思い知るはずよ」
それとコレとは話が違うんじゃない?………由香は、そう言いたかったが、その一言が相手のギブアップを意味するのを察し。
含み笑いを浮かべ、それ以上は取り合わなかった。
緊迫したムードを打ち消すかのように、テーブルへ山程のデザートが運ばれ。
一同は嬌声を上げた。
女子会は一次会で"お開き”となり、それぞれが家路へと向かって行った。
…………由香は。
店の外で待っていた車の助手席に乗り込んだ。
ハンドルを握る男が囁く。
「楽しかった?」
思い切りの笑顔で応える由香。
「ウン!
メッチャ楽しかったよ!!
タイムマシンに乗ったみたいだった」
「何それ?」
男が笑うと、由香は話題を切り替える。
「それよりさぁ、明日、温泉行こ!」
「え?
明日はラジコン飛行場行こうと思ってたんだけど」
「またぁ~~~!?
もう、オモチャの飛行機なんて、つまんないよぉ!」
「そうは言ってもなぁ………
新しい機体のテストもしたいし………」
「温泉!温泉!!」
三十五年という年齢差を感じさせない、このカップルの楽しい週末が始まっていた。
続く
※Special Thanks;takky2様
〈栄養士の女性・完〉
弊ブログに素敵な画像を提供頂いている
GEKKO様のブログです♫✨
(人*´∀`)。*゚弊小説の登場人物中心の画像を展開頂いています
画像アプリ;
Gemini
YouCanPerfect
Special Thanks;GEKKO様

