パァァァァァァァーン!
パァァァァァーン!!
父・正和のアドバイス通り。
RG50Eのパワーバンドである9,000rpm付近のエンジン回転数を維持するシフトチェンジを繰り返し、市街地をくぐり抜ける烈貴。
まるで前方へ吸い込まれるような加速感に酔いしれる。
それは例え50ccという僅かなシリンダー容積のパワーであっても、人間一人を魔空間へと導くのは造作無いことだ。
かつての、いや、つい最近までの烈貴は………その歓び、息遣いを知らずに居た。
父親から押し付けられた昭和の遺物。
完全な"親ガチャ”と嘆いてもいた。
だが………
一人の女との出逢いが、若き血潮に拍車を入れ、目覚めさせた。
美葉だ。
莉奈からは"男として機能する術”の手ほどきを受けた。
そのこと自体に、烈貴は感謝を惜しまない。
そして……美葉で初めて"女を歓ばせる”術を実践出来ている。
二輪車と四輪自動車の違い………そこにあるのは官能性とも言える。
稀代の巨匠、故・東本昌平(はるもと・しょうへい)氏は自身の作中で語る。
"四輪自動車はあたかも、ゆりかご………まさに子宮の如く乗員を包み込むが、対して二輪車=オートバイは剥き出しのファルス(男根)そのものだ”と。
烈貴は幾度となく、父の言葉を思い出す。
(バイクは女のように扱え)
まさに男女の交わりのように一体となり、その官能の世界へと身を投じるオートバイという機械。
その時、烈貴は。
美葉との関わり………即ち、RG50Eとの関わりへと重なっていた。
男の本能の目覚め………それこそが父・正和の説いた"17の夏”であったのだ。
難なく市街地を抜けた烈貴は、ようやく展望台へと向かう峠道へと差し掛かる。
平地ロードでのクルーズが終わりを告げ、ギア・ダウンで仕切り直しつつRG50Eをフルスロットルせしめる。
緩めのRの昇りコーナーが、やがてキツめなRのS字コーナー連続となっていく。
ここでは苦手な右コーナリングも然程苦ではなく、思い切った左右バンク(傾き)角で切り抜けて行く。
非力とされるにしても、2ストローク・マシンの末弟。
9,000回転のパワーバンドに叩き込み続ければ、並みの腕前のクルーザーもブルースモークの彼方だ。
(………アイツは今頃、何処ら辺に居るんだろう?)
烈貴はバックミラーの中に、幻影すら見えない黒き影を探した。
この峠道の"落とし穴”は、生い茂る木陰の日がな一日、影を落としているコーナーである。
真夏でもアスファルト温度の低いばかりか、一度雨など降ると路面の乾くのに時間がかかり。
よりによって落ち葉や路上のゴミ、小石などが吹き溜まりやすい。
そして……そのようなコーナーに限ってRがキツいか、またはRの大きな場合でも所謂"しつこい” "なかなか出口の来ない”複合コーナー………烈貴の言葉を借りれば、底意地の悪いコーナーであった。
ここをホームとする烈貴は既に、そのような難所を全て把握しているのだが。
相手の陀威也は知らぬ存ぜぬ…………
そこが敵ながら心配になっていたのであった。
RG50Eの四角いブルーのガソリンタンクに映る木漏れ日が流れていくに連れ、頂上の展望台が近づいて来る。
続く
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