ショッピングモールをスタートし、ストリートロードを疾走開始した烈貴のRG50Eと陀威也のマジェスティ250!
ところが土曜日の午後でもあり、ショッピングモールを出たすぐの県道は平均時速20〜30km/h程度のノロノロした流れ。
一先ず出だしは陀威也のマジェスティが先行し、すぐ後ろを烈貴のRG50Eがピタリと付けている。
時折信号で止められ、その度にかったるそうに首を回す陀威也。
後ろの烈貴はというと………
連なる車の列の脇が空く瞬間を、虎視眈々と狙っていた。
ショッピングモールを出てから、四つ目の信号で止まった時だった。
交差点の手前の先頭を白い軽トラックが停まり、それから同じく軽のワンボックス、それと10年落ち程のスズキ・アルトら軽三台の後ろにマジェスティとなったのを見計らい。
烈貴は………スタンバイする。
信号が青へと変わった。
烈貴は、伏せた姿勢でRG50Eの右手スロットルを開けながら前方左路面の空いたスペースへ突っ込む!
ギアは一気に3速まで上げる。
すぐ左横を走り去り、自分を抜き去っていく烈貴のRG50Eを陀威也は目を丸くし見送るばかり。
「やられたッ!!」
しかし、遅かった。
慌てて陀威也は後を追おうとするが、RG50Eと比べ車幅の大きいマジェスティでは同じスペースを走り抜けることが難しい。
瞬く間に軽自動車三台を抜き去り交差点を渡り終えた烈貴は、オールクリアとなった前方へ加速開始する!
パァァァァァァァーン!!
久しぶりの、胸のすく加速。
美葉が気付いた異変の通り………
RG50Eのエグゾースト(排気系)には、三ヵ月ぶりのスガヤ・チャンバーが奢られていた。
正和の言葉が蘇る。
(…………メインジェットもまた、戻しといた。
暫く中低速のいいノーマルで走ってたワケで、初めは勝手が違うと思うが焦るな。
思い出せ。
とにかく、なるたけ9,000付近=回転=キープしろ。
どっちにしても低速トルクで負けるのはわかってんだから、スロットルワークな。
いつもの調子でやれ。
そうすりゃ………無敵だ)
激しいシフトチェンジとスロットルワークの見込まれたが為に、正和はスロットルワイヤーのグリス・アップとミッションオイル交換を命じたのであった。
バックミラーには既に、マジェスティの姿は無かった。
遅れをとっている陀威也だが。
渋滞を抜け、ようやくマジェスティのアシスト1モードを活用し始める。
DRIVEモードとは打って変わり、小気味良くスムーズに吹け上がるエンジンの高回転に、陀威也は有頂天となる。
本来の市街地走行では、この1と2のアシストモードを持つマジェスティの走りは無敵とも言ってよい。
何しろ、手動のそれよりもスムーズで楽なスロットル(アクセル)一つでのシフト・チェンジと相まって、流れるようにストリートを駆け巡れるのだ。
「どけどけどけ〜ッ!!
追い上げだァァァッ!!」
広い通りだけだが…………遅い車を次々と抜いていく。
たまにギリギリで信号無視をし、クラクションを鳴らされる。
「見てろ、あの原チャ野郎!
マジェを舐めんなッ、見ろッ!?
このパワーをッ!!
ウイルズウィンのマフラーは、ダテじゃねェェェェェェッ!!!」
後頭部に引っ掛けられた半キャップヘルメットを"なびかせ”ながら、風圧に引きつった笑顔で叫びつつ。
陀威也は烈貴を追い、走り抜ける…………
ショッピングモールの入口で待つ、美葉と愛華の二人。
"当然”ながら?
気まずい雰囲気で黙ったまま、互いにソッポを向いている。
本来このような展開であれば同じクラスの女子同士だと、よほど仲の悪くない限り涼しいショッピングモール内で一緒に過ごしながら待つのであるが。
これまでの経過を見れば、ムリと言わざるを得ない。
しかし………さすがに暑い。
その暑さが尚の事、二人をイラ立たせていた。
「…………トイレ行ってくる」
仏頂面の美葉が、愛華へ一瞥もくれずに中へ入ろうとする。
「待って。
ウチも行く」
似たような表情の愛華が、その後を付いて行く。
二人は順番に女子トイレに入り、顔を合わせずに順番に出て来た。
ホール中央の、待ち合い用ベンチに美葉が腰掛けると。
愛華も一つ二つ離れた場所に座る。
「………バカバカしい」
美葉が呟く。
なんで?こんなことに付き合わされなきゃならないんだろう。
何がゲームだ!
何がダブルデートだ!
楽しくも何ともない!!
膨れる美葉と対称的な愛華。
すぐさまスマートフォンを取り出し、いじり始める。
しかし………それも飽きたのか、再び仕舞って周囲のテナントを見渡す。
「………ねェ、ちょっと服屋さん見て来たいんだけど………来ない?」
美葉が呆れ顔で見上げる。
この状況で?
よく、そんなの思いつくよな!?
自分のカレが居ながら人のカレシ横恋慕しようなんて奴と、そんな気分になれるか!!
「ご勝手に」
美葉は視線を向こうに戻すと、ぶ然として言った。
愛華は、そんな美葉の心境や立場など慮れるそぶりも無い。
いつも通りに自分の友達や"取り巻き”を引き連れる感覚だったのだ。
不条理に顔を曇らす愛華。
「あのさー、前から思ってたんだけど?
アンタ、ノリ悪すぎだよ。
そんなんだからクラスでも浮いちゃうんだし?」
なに………?
思わず美葉は今度こそ、一言言ってやろうという気になった。
「………あなたね。
勝手にクラスを仕切ってる気になってるみたいだけど?
そんなの、自分で思ってるだけだからね。
何さ、チャラチャラチャラチャラして。
そういうのね、"裸の王様”って言うの!」
愛華の顔色が変わった。
これまで下に見てきた相手に、まさかの"御意見”を言われるとは!
「………な、何言ってんの!?
アンタみたいな、陰キャデブブス!
誰も相手にしないじゃん!!
身の程知りなッ!!」
「別に?
私はね、本当に気の合う仲間が少しさえいればいいの。
別にクラスに居なくたってね。
媚を売って見栄を張ってまで、人に囲まれてないと不安でしょうがないような、あなたとは違うの!
わかった?
裸の王様!!」
「ウ、うるせェッ!!
黙れッ!!
陰キャデブブスッ!!!」
「化粧アクセサリーオバケ!!」
ショッピングモール内の真ん中で始まった"女の闘い”に、周囲の人々も注目し始めた。
ひたすら感情そのものをぶつける愛華に対し、美葉は努めて冷静であった。
「………とにかく。
私の先輩に、二度と近づくな。
触れるな!
喋るな!
絶対許さない!!」
愛華も負けてはいない。
「へぇえ?
自分に自信が無いもんだから、盗られるのがコワいんだろ?
ハッキリ言って、ウチのほうがスタイルいいしイケてるし、れっきさんに相応しいって誰が見ても思うよ。
悔しかったら痩せてみな、陰キャデブ!!」
しかし美葉は、ほくそ笑む。
烈貴の嗜好を心身ともに知り尽くし、愛し合っている揺るぎない自信が、そうさせていた。
「いや?
私は、ただ、ハエが嫌いなだけ。
自分の食べてる料理の周りをブンブン飛び回るハエが、普通に目障りなだけ………」
愛華は。
これだけ言っても微動だにしないばかりか、不敵な笑みを浮かべ始めた美葉のダークな物言いに………
背筋が凍り、震え上がった。
続く
〈男の戦い、女の闘い・完〉
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