「………え?

ダブルデート!?」


愛華からの"お誘い”の件を美葉から聞かされた烈貴は、ヒョットコのような顔をする。



(断っても良かった)


決して気乗りはしない誘いに、教室での美葉は怪訝そうに愛華の顔を見たが。

かと言って、とくだん断る理由も見当たらない。

むしろ、こうした自分勝手な"輩”は無下に追い払うと逆上し、更に……あること無いこと撒き散らし、烈貴にも迷惑が及ぶ可能性も無きにしもあらず。


美葉は。

陰キャと呼ばれ、教室の隅から現場環境を観察していた過去の経験から、愛華のような一軍………と呼ばれる者達の特性・振る舞いの傾向とも既に見切っていた。


受けて立つか?

敢えて。


「………本人(烈貴)に、相談してみる」


表情一つ変えず、一言だけ返し。

あたかも裁判官の様相な?美葉の態度に。

愛華は内心


(チッ、ノリわるっ

これだから陰キャは!)


と苦虫を噛み潰した顔を一瞬した後、すぐに作り笑顔へリカバリーする。

ここで美葉とぶつかったら、これまでの思惑も通らないばかりかクラスの一軍リーダーとしての"格式”も損ねる。


「ウンウン!

イイ返事、待ってるからね♫」


と、周りにわかるような陽キャで去って行った。



 

音楽室。


「………で、RG乗って来いって?

何でだろ?

お互いニケツでどっか行くんなら、まだわかるけど。

コッチは、原チャだし?

役に立たんはずだよね」


美葉からダブルデートでの"イベント”詳細を聞かされた烈貴は首を傾げる。



「うんうん別に、断ってもいいんだよ。

一応聞いてみるって言っただけだから」


烈貴が疑問を覚えるのも当然に思う美葉。

だが、烈貴自身は………

別のことに興味が湧いて来た。


「その……………愛華さん?のカレシって、どんなバイク乗ってるかって訊いた?」


「あ…………訊いてなかった、ゴメン」


「いや、いいんだ、特に大事なことじゃないから」


烈貴は数秒考えてから、再び口を開く。


「いいよ、美葉ちゃん。

ダブルデート、りょ!

ってことで」


「大丈夫なの?」


不吉な罠を感じ、不安そうな美葉をよそに。

烈貴はトロンボーンのスライド部にグリスを塗りながら、ニヤリと笑った。


「面白そうじゃん」




その夜、帰宅し。

ガレージで400ガンマのプラグを外して見ている布ツナギ姿の父・正和と一緒に、しゃがみ込んで話している烈貴。


「………………どう思う?」


正和は。

眉間にシワを寄せ少し視線を遠ざけながら、手に持ったプラグの電極の色を見ている。


「………そうだな、とりあえず。

お前も見ろ、プラグの電極」


「へ?」


「………RGの、だ。

色によっちゃあ、プラグ交換。

それでぶん回して見て、ダメならメインジェットだ」


烈貴は、昼間聞いたダブルデートでの"相手の思惑”はなんだろうか?と父親に相談していたのだが。

それが何でプラグと?


「いいから、ホレ」


烈貴にトルクレンチを渡す正和。


50ccバイクの点火プラグは一本しかなく、エンジン周りのスペースも余裕が有るので容易に点火プラグも外せる。


「…………どうだ?」


「…………………ん〜〜、何色ってんだろ、コレ?

茶色………ぽい気もする」


「じゃ合格」


再び正和は400ガンマに向き合い、後始末を始める。


「ミッションオイル替えとけ。

あと、スロットル・ワイヤーにグリス。

やり方教えたよな?

あとパッドは………こないだ替えたからいい」


工具箱を片手に立ち上がり、烈貴を見下ろす正和。


「………違ぇねェ。

ソイツらはハメる気だ」


烈貴に緊張が走る。


「ハメる………って?」


「安心しろ。

お前の女に危害は及ばんだろう。

奴らは………勝負を吹っかける気だ」


「勝負!?」


「そうさ。

お前と………お前の女に恥をかかせるつもりの、な」


工具箱を壁際の棚に仕舞いながら、正和は背中で語った。


「………お前が中免(現;普通自動二輪免許)取るのにゃ、間に合わなかったな。

そうすりゃガンマ貸してやったんだが」


烈貴は………正和の言葉で、ようやく状況が掴めて来た。


「コッチが原チャで向こうが中型以上………の可能性ってこと?

そんなの、勝負になんかなんないじゃんよ」


「そこがバカどもの考えること。

要は、相手ブチ負かして恥かかす為だったら手段選ばないってことさ」


正和は再びしゃがみ込み、烈貴と向かい合う。


「………この黒幕は、間違いねェ。

向こうのオンナだな」




9月の第二土曜日。


市内中央にある某ショッピングモール駐車場に午後1:30現地集合のダブルデートとなった。

烈貴は先にRG50Eで早目に現場へ着き、美葉を待った。

ほどなくして………

花柄のワンピースにレースのカーディガンまとい、小さめの麦わら帽を被った姿の美葉が。

烈貴を見つけるとチョコチョコと小走りに駆けよって来る。


「待った?」


「いや、全然」


真夏の白いワンピース姿も可愛いかったが、今日の花柄も似合う………烈貴は美葉の姿に目を細める。

この、比較的小柄な上に少女らしさに包まれた可愛らしさと………同時に健康的な色気の豊満な身体も併せ持つ、美葉の魅力に。

烈貴はメロメロとなっていた。


二人はショッピングモールの外で愛華達を待っていたが。

予定時刻を20分以上過ぎても姿を現さない。


「待ち合わせ場所、ここでいいよね?」


「ウンウン、間違いないはず」


9月は、まだ残暑の陽射しが厳しかった。


暫く、中で待ってよう………そうして二人がショッピングモールの入口に入ろうとした、その時。


ドゥルルルルル


背後で独特の排気音が響いて来る。

振り返ると、黒いビッグスクーターに乗った、半キャップヘルメットを被った男女が駐車場へ入って来ていた。


「愛華?」


そこには………美葉が学校で制服姿しか見たことの無い愛華の、ラフな出で立ちがあった。

透け感のあるシースルーブルゾン。

肌の見えるのも厭わない丈の短めなキャミソールとメッシュトップスの重ね着。

ボトムはハイウエスト・カーゴパンツ、首元にはシルバーの太ネックレスを光らせている。

花柄ワンピースの美葉とは………余りに対称的な雰囲気のファッションである。


そんな愛華を後部座席に跨らせた、白上下の……所謂ヤンキージャージで薄い金色のツーブロック・ロングヘアーに額サングラス、太金ネックレスの陀威也が。

マジェスティを停めて薄笑いを浮かべながら烈貴達を見る。


マジェスティを降り立った愛華が、ヘルメットを被ったまま、これまた薄笑いで美葉に声をかける。


「ごめ〜ん、待ったぁ?」


待ったに決まってるだろ!?

既に、時計は午後2:00を回っていた。


何の罪悪感も無さそうな愛華に、美葉は容赦なく冷たい視線を浴びせる。

それに全く意も介さない愛華が、勝手に仕切り出す。


「暑いんでぇ〜、すぐにでもおっ始めようと思うんだけどぉ、その前に自己紹介、かな?」


愛華は美葉の隣りに立つ、上下黒ジャージの男の子に目が行った。


烈貴が強張った表情で名乗る。


「烈貴………高橋烈貴」


烈貴のビジュアルは愛華の想像を覆した。


(ヤバいっ!

ウチのタイプかも!?

乗り換えよっかな〜)


まだ見ぬ烈貴を、想像上で陰キャだのチー牛だのと陀威也と一緒に蔑んでいたが愛華は"現物”を目の当たりにし、思わず目を見張っていた。


(コイツなら、莉奈先輩フッたってのもわかる!!)


同時に………こんなカワイイ男子を射止めた美葉に対し、激しい嫉妬が生まれ始めた。


(陰キャブスのクセに、ナマイキな!!)


「あ、あんたがカレシさん?

ウチ、愛華!

ヨロピク〜♡♡♡

………で、コレが陀威也」


思いっきり烈貴に愛想を振りまいての自己紹介に対し、"自カレ”の陀威也の紹介は険しい目で一瞥のみの愛華。

それに不服そうな陀威也。


「な………なんだヨォ、もちっとチャンと紹介しろヨォ!!」


「うっせーな!!

ウゼェんだよオマエ!」


烈貴と美葉は、その様子を見るだけで。

この二人、ホントに付き合ってるのかな?と疑問すら覚えたのであった。



続く


〈ダブルデート開始・完〉



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