夏休みも終わり、9月最初の登校日。
全校集会で、吹奏楽部の県コンクール金賞受賞が報告された。
一旦、予め預けられていた表彰状が壇上の校長に読み上げられ、その手から部長・前田に授与される。
全校より拍手を受ける。
◯✕高校始まって以来の快挙と、校長より伝えられる。
それで終了した。
運動部の活動と比べると。
文化部の活動は昔よりは全然マシだが、強豪校を除いて未だ地味な扱いが目立つ。
口の悪い運動部員から
"いいなぁ、文化部は楽で”
などと心無いことを言われることもあり。
それならテメェ、吹いてみろ!!と烈貴も激昂したりする。
今現在でこそ我が国の中・高校の文化部は。
eスポーツ、プログラミング、ロボット製作、映像クリエイトといった所謂"次世代スキル系”部が幅をきかせているが。
烈貴達の住む地方では現在"伝統文化系”というカテゴリーに属す、昔からの美術部や吹奏楽部が未だに主であった。
中学生となった烈貴が吹奏楽部に入る、と知ると。
父・正和は
「吹奏楽部だとォ?
あんなのは女がするもんだ!
運動部にしろッ、運動部に」
などとカチコチな偏見で切り捨てた為、烈貴人生初の壮絶な父子喧嘩?を繰り広げたものであった。
正和自身の児童・生徒の頃は音楽など、大抵の男子がそうであったと言うが、からっきしダメ。
リコーダーもピッ!と一音発して終わりといった感じで授業でもフザけてばかりいたそうだ。
烈貴と茉莉の音楽の才能?は母・明美から引き継いだようであり、正和と対称的に明美も吹奏楽入部を奨励していた。
しかし………そうした外部の評価など、烈貴はク◯喰らえと思っていた。
トロンボーンを吹き、バンドに貢献することそのものがアイデンティティであった。
一年A組。
美葉のクラス、全校集会後。
ホームルームを待つ教室で、美葉の机に愛華がやって来る。
既に顔が上から目線だ。
「美葉。
ウチのインスタ、覗いた?」
は?
美葉はキョトンとする。
「………なんで?」
「なんで???
7月の大会終わったら連絡しなって言ったよね」
「え?
だって、そっちが、7月の地区大会で"負けたら”連絡しろって言ってたから、しなかったんだよ」
美葉は愛華の顔を見上げ、毅然と言った。
「私達………"負け”なかったよ」
愛華は自らの提示していた内容を、ようやく思い出していたが。
悪びれることも無く話題を変える。
「ま………そんなの、どうだっていいんだけど?
ところでさ、改めてだけど。
ウチらとダブルデートする件、どうかな?
カレもタノシミにしててさ」
表情を、作り笑顔に切り替えた愛華。
「………ガチで楽しめるイベント考えてるんだけど」
美葉は察知した。
この子、何か企んでる………………
「………イベントって?」
「ウン、メッチャ簡単な"ゲーム”なんだけど?
ただ、その日、美葉のカレシにバイク乗って来てほしいの。
ウチのカレも乗って来るから」
愛華は美葉の顔を覗き込む。
不適な笑みを浮かべながら。
「大丈夫だから。
フツーにツーリングみたいなノリで………てね」
その頃………………
同じ市内の△高校も、始業式を迎えていた。
ドゥルルルルル
その校門から、一台の黒いビッグスクーターが飛び出して来る。
その高校の三年生男子………陀威也(だいや)の乗るヤマハ・マジェスティ250=SG20J=スクーターだ。
銀色に輝くウイルズウィンの2本出しマフラーから太い排気音を奏でながら、学校から逃げるように抜け出す。
学ランの前ボタンも全開に、白い半キャップヘルメットを後頭部に引っ掛け。
顔に受ける風の為か?
はたまた"別の事情”か?
陀威也は引きつった表情で走り抜ける。
「ガ………ガッコどこじゃねーッつの!!
ガチで詰みそうだっつの!
………今回、もし?
負けたら………愛華とヤれねェどころか、"捨てられる”可能性大だろッ!?
あ……有り得ねェ、ぜってー負けらんねーッ!!」
陀威也のこめかみから一筋の冷や汗が流れ落ちる。
そもそも………"勝敗・順位を重んじない”傾向の現代教育に浸る生徒の一人でもある陀威也が、所謂"ガチ”で勝負するのは人生初なのであった。
自分に言い聞かせる陀威也。
「………で、でーじょぶだッて、コッチはニーゴーだろ?
しかも、必殺技、アシストモードがあるし!?」
陀威也の駆るヤマハ・マジェスティ250は。
電子制御システムにより右側の手元のスイッチひとつで、3つの変速モードを切り替えることの出来る仕組みとなっている。
一つはDRIVE(ドライブ)モードといい、通常のオートマ走行で街乗り向けのモード。
そして……あとの二つ。
ASSIST I(アシストワン)モードといい、DRIVEモードより高めのエンジン回転数を維持しキビキビと走りたい時や、アップダウンのある峠道などで力強いトルクを発揮するモード。
そしてもう一つ、ASSIST II(アシストツー)モードといい、アクセルを大きく開けるとマニュアル車のように有段風にカチカチと自動シフトアップしていくモード。
実は………陀威也は、これまで。
このせっかくのモード切り替えを、ほとんど使ったことが無く(面倒くさい為)、このうちのDRIVEモード以外で走った記憶も無かったのだ。
ところが、この度初めて"走り”の勝負を強いられ。
陀威也は慌てているのであった!
「………レンシュウだ、レンシュウ!
ダブルデートまでに………ぜってー間に合わす!!」
そう言った矢先に、間違って左側の I-シフトダウンボタンを押してしまい。
マンホールの上で車輪がロックし、コケそうになる陀威也であった。
続く
〈嵐の予感の始業式・完〉
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