夏休み、二度目のデートの終わった丁度翌日から烈貴達の吹奏楽部の自主練が再開した。


ここの部では、コンクール終了で三年生は引退………ではなく。

その年の文化祭と兼ねて行なわれる、秋の定期演奏会までの在部となる。

この年、コンクールで予想以上の成果を上げた部員達。

秋の定演までの部活も楽しいものとなるはずだ。



「行ってきま〜す」


ヴベンベンベンベンベンベンベンベン


いつものようにRG50Eの排気音を響かせ、烈貴は部活へと向かう。


見送る父・正和は。

二度目の海デートから帰宅した息子の様子を思い出していた。

たった一日で真っ黒に日焼けし、白い歯を見せて笑う烈貴の表情の中に正和は"17の夏”を越えた男の顔を見届けた。


父親というのは。

いちいち言葉には出さないが、息子の変化にはシッカリ気付いている。

しかし敢えて、それは話題にはしない。

黙って見守る………それが母親と違うところでもある。

息子が既に童貞を卒業していることまでもだ。

場合によっては

(あ、あの子だな)

と、相手すらもわかる。



正和は、ポップアップテントを返す烈貴に一言だけ問う。


「………"17の夏”は、どうだった?」


「………うん、まあ」


これだけのやり取りで充分。


(コイツ、イイ恋愛してるな)


正和は微笑んだ。



だが…………


「ロクに勉強もしないで、女遊びばかりして!

本当に、先が思いやられるわッ!

茉莉を見習うべきよッ」


いつの間にか隣りで仁王立ちの妻・明美が吐き捨てる。


触らぬ神に………であり、正和は黙っていたが。


(おまえが腹を立てるのは、息子が遊び呆けてるからじゃない。

相手が女だからだろう?)


正和は…………我が妻の中に、将来の鬼姑の資質を見ていた。





既に楽器の音色の響く、音楽室の扉を開ける烈貴。


まず、驚いたのは………

部長の前田の髪型であった。


「あれぇ!?

部長!!

イメチェンですか!?」


コンクールまでは、スポーツ刈りに近い角刈りの伸びた感じだった前田の髪が………何と。

アイドル張りのスパイラルに変わっている。


照れ臭そうに笑い、頭を掻く前田。


「………い、いやぁ、なんか。

こうゆうのもイイかな?って、前から思っててさ」


この髪型にしただけで、前田の印象はガラリと変わっている。

もともと長身な為、映え度も加算された感じだ。


「メッチャカッケーすよ、部長!

ぜってーモテますって!!」


烈貴に褒めちぎられ、照れ笑いの止まらない前田だが。


「…………実はな。

俺、カノジョが出来たんだが」


「………………へ!?」


鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔の烈貴をよそに、前田は意味深げな笑みを見せる。


「誰だと思う?」


「…………………?」


ふと、前田の隣りに座っているクラリネットの吉田翡翠(ひすい)が。

赤面して俯く。


烈貴は、ようやく声を出す。


「よ………吉田先輩?」


満足気に頷く前田。



前田と吉田、この三年生の男女は。

コンクールに至るまでの部内での困難を、互いに支え合うことによって乗り越えて来た。

そうした中で、双方共にリスペクトの思いと同時に、次第に愛情も育まれて行ったのだった。


烈貴は、この事実に打ち震えた。


「部長………吉田先輩………!

お………おめでとうございますッ!!」


何故か、涙が溢れて止まない烈貴。



「………ありがとう、高橋」


「高橋君。

あなたと近藤さんにアテられ続けて、私達も勇気を貰えたの!」


普段、物静かなイメージの吉田も、珍しくイタズラっぽい満面の笑みを見せる。


嗚咽の止まらない烈貴の背中、音楽室の扉が開き。

美葉が入って来る。

烈貴の様子を見て、慌てる。


「先輩!?」


美葉からは、烈貴が三年生二人に何か叱られて泣いているように映ったのだ。


泣き笑いでグシャグシャになった顔で振り返る烈貴。


「………お、おはよう!

あのね………………」




この世には、男と女しかいない。

神が存在するとしたら、何故、このような世界にしたのか?

大袈裟かも知れないが、その理由こそが。

このありふれた高校の音楽室という場所にも、息付いていたかに見えた。



続く



〈男と女・完〉


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