「あ〜〜〜メチャ涼しい!

生き返る!!」


モーテルの一室へ入ると、莉奈は叫声を上げる。

確かに外気温37℃から一気に冷蔵庫へ入ったような感じで、さすがに烈貴も

"涼みに来るだけでもベスト”

と思わざるを得なかった。


莉奈が備え付けの冷蔵庫からアイソトニック・ドリンクを二つ出し、一本を烈貴に渡す。

ボトルの冷え切った感触が嬉しく感じた。

ベッドに二人並んで座りながら、一気に半分まで飲み干す。


「県大会、金賞まで行ったんだってな………マジスゲェ!」


莉奈が讃えるが。

烈貴は何となく、申し訳無い思いがした。

本来なら、目の前の莉奈も一緒に県コンクールまで行っているはずだった…………

それが"あの事件”で、全て変わった。


烈貴は素直な気持ちで言った。


「………先輩も、一緒に来てたはずです」


莉奈はドリンクのボトルを両手で持ちながら暫く黙った後、呟いた。


「………あたしはイイんだよ。

てか………あたしが居なくなったから、そんなスゲェ成績取れたんだろうから」


烈貴は強く否定した。


「そんなことないです!

先輩が辞めた後、クラのパートはポジション替えで吉田先輩が先輩の代わりをして。

だいぶ大変みたいでした。

…………もし、先輩が居てくれたら。

県代表で関東大会まで行ったと思います」


「………吉田?」


莉奈は、同期の吉田翡翠を思い出した。

自分とは対極のキャラで、同じ部内でありながら普段から滅多に口もきいたことも無かった。


「あの、陰キャの吉田が………

結構がんばったんだな」


莉奈は烈貴に向き直った。

真面目な顔だった。


「烈貴。

あのな、前も言ったけど、吹部ってチームワークなんだよ。

いっくら個人のパフォーマンスが良くても不協和音………この場合、人間関係のな、発生しちまうと直すのかなりメンドー。

吹部だけじゃない。

ロックバンドなんかでもそう。

直すのに一番イイのが不協和音の"病原体”を無くすこと………

つまり、ソイツが辞めることなんだよ」


烈貴は戦慄を覚えた。


莉奈が退部したのは、以前本人の言っていたような美葉の顔を見たくない………等という次元の理由では無かった。

自分が辞めることが、吹奏楽部の為になる………………

それが、最後の学年であるにも関わらずの莉奈の覚悟であり、思いであったのだ。


それに引きかえ、そんな莉奈の思いを汲むこともせず自分は恋愛にうつつをぬかし、結果イイとこ取りばかりした。


情けない………やっぱり自分は情けない男だッ!


烈貴の両眼から、涙が溢れてきた。


「うう………」


言葉が出て来なかった。

莉奈という先輩に対する、謝罪……そして感謝……いろんな思いが溢れて来ては、涙に変わって流れていた。


「………烈貴。

お前が泣くことなんてない」


莉奈の優しい手が、嗚咽する烈貴の背中を撫でていた。


莉奈は続けた。


「あたしさ。

今、メッチャ幸せなんだ。

あたしに音楽の良さ教えてくれて、憧れてたバンドのメンバーにもなれたし。

カレも戻って来てくれた。

吹部やお前にはメッチャ迷惑かけちまったけど………一緒に楽しく過ごした日々は、イイ思い出として大事にとっとくよ」


烈貴は涙に濡れた頬のままで、莉奈に向き直った。


「………先輩………先輩の、その胸で泣かせてください」


それは決して"下心”ではなかった。


莉奈は頷いた。

いつか見た、聖母のような優しさを湛えた微笑みだった。


「………来な」


両手を広げて待つ、莉奈の胸の谷間に。

烈貴は深く顔を埋め込み………号泣した。


抱き締めた烈貴の頭を撫でながら、莉奈は囁いた。


「あのコ、大事にするんだぞ………」


烈貴も胸に埋まった顔のまま、嗚咽を堪えながら応えた。


「………先輩も!

カレシさんと………幸せに……なってください!!」


 

いつか、このモーテルの部屋で観た季節外れのラベンダーは。

ようやく本当の季節を迎えようとしていた。



続く


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制服の莉奈


〈先輩の思い・完〉


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