烈貴は、意外な要望を美葉から聞いた。
「夏休み中、も一回デートしたい」
水着を買ったN市は、烈貴達の街から電車で30分。
帰りの電車の中で手を繋ぎ座りながら、美葉は訴えるような眼差しで烈貴を見つめた。
烈貴も………出来れば、そうしたいとも思った。
先程の、試着室で見た美葉の水着姿は未だにクッキリと脳裏に映ったまま。
ホントに、こんなカワイイ子が自分のカノジョなのか!?
たまたまネットで見た記憶のある、スピリチュアル・カウンセラーの一言が蘇る。
「全てに感謝しなさい」
烈貴は文字通り"全てに感謝”した。
現在"非リア”の友達と同じく、つい最近までの烈貴も、二次元女子にばかり目が行っていた。
「最近の野郎どもは、オタクやネクラばかりだそうだな」
例によって、烈貴の父・正和は`80年代死語を用いながら令和の現状をボヤく。
更には武勇伝。
「………オレの頃なんてのは
"ナンパしてナンボ”
だった。
モテる、モテねぇなんざ関係ねぇ!
夜になったら街に出て、片っ端から声かけんだよ。
仲間とツルンで、女なら手当たり次第に
"遊ばな〜い?”
ってな。
まあ……大抵は断られるが、良くて1割くらいの確率でヒットして
"面白そう〜♫”
って付いてくる。
したら、しめたもんだ。
メシおごって終わりの時も多いが、それ以上の関係になることもある」
そうしたウソかホントか分からない"武勇伝”を正和が語る時は、決まって母・明美の居ない時だ。
それってタダの変質者じゃん?
恥ずかしくないの?
何が面白いの?
烈貴は冷めた顔で聞いている。
そんな様子もお構いナシに、ドヤ顔で語り続ける正和。
「こうゆうのを、お前らの間じゃ
"肉食”ってんだろ?
あのな、肉食もへったくれもねェんだよ!
男の本性ってやつさ。
女だってそうだ!
表ヅラは真面目ぶってても、内心はムラムラしてるもんだ」
いつも勝手に語り始め、勝手に自己完結して終わる父の演説をやり過ごす烈貴であったが。
美葉と付き合い"リア”と呼ばれるようになった自分自身………いや、それ以前に莉奈の誘惑に負けて欲望の迸った自分自身を思い返すと。
父の言わんとしていることも、あながち無視は出来ない………そうも思えて来ていた。
本当は誰でも、異性を思う気持ちはある。
けど、それを誤魔化してる………………
何で?
傷付くのが、コワいから?
面倒くさいから?
二次元や異世界ファンタジーに没頭する同年代の多さの影に
"一歩踏み出すこと”を考え付かない?
勇気が無い?
このままじゃ、人類滅亡?
そんな………闇のようなものすら見えて来た烈貴であった。
水着を買って帰宅した美葉は、帰りの電車で烈貴と次のデートの約束が出来たことを喜び、機嫌が良かった。
居間で中学一年生の弟・敬太(けいた)がソファに寝転びスマートフォンを凝視している。
ついつい………画面を覗いてしまうと。
いつもオンラインゲームにハマっていると思っていた敬太が………ゲームというよりは?特定の二次元女子の姿ばかりを追っていた。
所謂、女性Vチューバー。
中でも人気あると言われる………敬太の"推し”と見られるコが、スマートフォンの画面で笑っている。
「………何だよ?」
「いや………カワイイね、このコ」
「だろ?
………てか、何?」
美葉は思いきって尋ねてみる。
「アンタ、今………カノジョって居る?」
「………ハ?」
敬太は画面から目を外さずに、怪訝そうな顔をする。
「何、急に」
「いや………ふと思っただけ」
敬太はウザそうに、ようやく姉に振り返る。
「三次元リアル………てか学校の女子なんて、"夢”を壊すだけの存在。
居なくていい」
そう呟くと、敬太は再びスマートフォンの画面に顔を向け直した。
美葉は、まるで自分まで"居なくていい”と弟に言われているような気がして………何となく寂しく思えたのだった。
続く

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