J市文化会館で開催されている県吹奏楽コンクールB部門は午前の部を終え、昼休みに入った。


烈貴達は、控え室となっている四階大会議で皆と共に昼食をとった。

弁当をパクつきながら歓談する部員達の表情は明るかった。


「しかし俺は幸せだ。

みんなのおかげで、◯✕高吹奏楽部に革命が起きた年に部長で卒業出来る………

改めて、礼を言いたいよ」


部長の前田が、その体格に似合った特大の握り飯を頬張りながら頭を下げる。


「いやいや、部長。

部長に上手く皆をまとめて貰ったおかげの今回の結果なんですから」


パーカッションの二年生男子、松尾貴大(まつお・たかひろ)がウィンナーをかじりながらヨイショする。


今期、◯✕高校吹奏楽部の活動でのハイライトに上がるのは………

やはり、あの事件………莉奈関連であった。

男子部員達は烈貴・前田を除き、いわゆる"女子同士の揉め事”に対し及び腰で、ただただ遠巻きに見ているしか無かった。


「いや、ホントに貴大の言う通りです。

部長が渡辺と話し合ったり、みんなのこと、いろいろ考えてくれたからこそ………だと思います。

ホントに、ありがとうございました」


烈貴も心底からの気持ちで礼を言う。

"あの事件”含め、前田のサポートは烈貴自身にも心強かった。

隣りで美葉も、小さく頭を下げる。


そう言われると、前田も涙腺が緩くなる。 


「そんなの………当たり前なこと、しただけだよ」


前田は、慌てて握り飯に食らい付いた。



顧問の渡辺は、演奏時に着ていたタキシードから紺のスーツに着替え。

文化会館の道向かいにある寿司屋で、注文したランチ定食を待っていた。


渡辺は考えていた。


自分は、責任を取っていることになっているのだろうか…………


部員生徒一人一人に気を配ることが、果たして出来ていただろうか…………


あの莉奈の一件が起きたのも、自分自身が部員の声というものを余りに聞き損ねていた結果ではないか…………

そう思うと、この県コンクールまで皆と一緒に莉奈を連れて来てやれなかったことが不憫であり。

面目無い気持ちの重さを、渡辺は胸に受け止めていた。




午後は、残りの出場校の演奏を大ホールで聴く予定であったが、参加校の保護者含め入場者多数な為。

◯✕高校吹奏楽部は、夕方の結果発表まで各自自由行動とした。


烈貴と美葉は、館内一階の市民サロンへ行ってみた。

烈貴は窓際の小テーブルで美葉を待たせ、自販機で冷たいコーヒーを二つ買い。
美葉に微糖のを渡し、自分はブラックのを手に取って座った。

大きなガラス越しの屋外の風景は、陽射しが強めに見えた。

「今日も外、暑そうだね」

「うん、ガチ暑いだろね〜。
ここ、涼しいからいいけど」

美葉は自分で暑がりだと公言していた。
ヒート・テックならぬ"ミート・テック”だなどと、ポッチャリ気味の肉付きを自虐することもあった。

その為か、暑い夏は苦手に感じる季節だった。

だが………

烈貴とイイ仲となり、その肉付きの良い?身体を絶賛され。

当初は信じられない気持ちの美葉だったが、そんな自分も男子に"欲しがって”貰えることを知り。

初めて自信が付いたのだった。


美葉を可愛がる時。

烈貴は必ず


「好きだよ」


「可愛いよ」


「たまらないよ」


と何度も囁きながら口づけし。

愛撫してくれる……………


そんな夢心地の時間を思い出す度、周りも憚らずウットリしてしまう自分を。

恥ずかしくもあり、この上なく幸せに思える美葉であった。


ウィンドウの外を眺めていた烈貴が、おもむろに呟く。


「………美葉ちゃんにとっては、まだ夢の途中なんだよね?」


「………え?」


「………あくまで目標は"全国”だもんな。

だから、俺も。

夕方の結果が出るまでは、終わりじゃないと思ってる」


烈貴は。

手にした缶コーヒーを一口飲んで、隣に座る美葉へ向き直った。


「美葉ちゃんの夢は………俺の夢でもあるんだ」


「……………先輩!」


美葉は、烈貴の愛を強く感じ。

思わず口づけしたい衝動にさえ、かられた。

まっすぐに烈貴の顔を見つめ、愛しさのエネルギーを注ぎ続けた。


「私………………私!

今日の結果がどうであれ、幸せよ!」


気が付けば、瞳に涙を湛えていた。


美葉の手は烈貴の手を求め、辿り着き。

指を絡める。

烈貴の指が、それに応える。


そうして見つめ合う二人を、見知らぬ他校の女子生徒達が


「リア充だね」


と微笑み、見守っていた。



続く


〈幸せのページ・完〉


🎁GEKKO様贈呈

烈貴&美葉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません

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Gemini

Special Thanks;GEKKO様