8月初旬という一年で最も暑い時期を迎え、雲一つ無い真っ青な空の下………………

県コンクール会場、J市文化会館へ到着した◯✕高校吹奏楽部一行。

その入口には大きく

"XX県吹奏楽コンクール高等学校大会

県代表選考会”

という白看板が立つ。


とうとう来た。

県大会に!


皆が、一ヶ月前までは夢にも思わなかった舞台であり。

この入口に来た瞬間も実感が沸かないでいた。


「マジだよね」


「ウン、マジ」


楽器を携え、建物に入った瞬間………

烈貴は早くも張り詰めた空気を感じた。


見慣れない制服。

譜面と向き合う真剣な顔の生徒達。

まだ控え室に行く手前で待機中の学校も皆、それぞれ寡黙に神経を集中している。

それは地区コンクール時には見れなかった、"選ばれし者”の世界そのものだった!


テナー・サックスの南雲が、ポツリと呟いた。


「なんかウチら、場違いっぽくね?」


南雲の一言で、一時的にだが緊張を解かれた部員達は。

苦笑いとも自虐とも言える笑みを浮かべ、吹き出す。


烈貴自身も、そう思えていた。

今まで経験して来た地区コンクールのような半分お祭り気分は、ここには無かった。

明らかに"勝負”をしに来てる!

これまでに無い緊張感に、飲み込まれそうになっていた。


"県コンクール新参者”の◯✕高校吹奏楽部員は、烈貴以下同じ気持ちでいた。

……………美葉以外は。


このJ市文化会館では、地区コンクールの会場となったN市立劇場と違い、ロビーを待機所としては使わない。

替わりに四階にある大・中・小の会議室や、一階に幾つかある"楽屋”が各校の待機所であり控え室となる。


烈貴達◯✕高校吹奏楽部は、この内の四階大会議室にて他校と相席の上、チューニングタイムを待つことになった。


「ねぇね、あそこの人達、M高じゃね?」


「あ、そうかも」


「頭良さそうだよね、ガチ進学校だし」


普段見慣れない、関わることの無い遠方の学校とも居合わせるのが県コンクールの特徴でもある。

特に烈貴達の居住県は、全国でも五番目に面積が広い。

県の端から端までの最長距離も、東京から宮城県仙台市までの距離に値する程長いのだ。


普段、地元のTVやネットニュースで有名でも名前しか知らない、野球で言えば甲子園の常連校で吹奏楽も強い高校の名前を見たりアナウンスで聴く度に。

◯✕高校吹奏楽部員達は


「わぁ」


「本物だ!」


だの、まるで"追っかけ”のような声を上げる。


ただ、中学時代に県代表を何度も経験している美葉だけは冷静なままだった。

彼女一人だけは、それら強豪校達と同じく既に"戦闘モード”に入っている。

浮き足立った感じでソワソワする烈貴を諭すように


「大丈夫!

気後れしなくていいんだよ。

こないだの地区大会みたいにやれば」


と寄り添う。


そうした控え室での相席校の中から、一人の女子生徒が美葉を見つけて近付いて来た。


「近藤!

来てたんだね!

久しぶり〜!!」


「………え?

牧村じゃん!

お久〜!!」


美葉とハグし合う、女子生徒。

美葉と同じ中学の吹奏楽部同期で、コルネットのパートだった牧村朋乃(まきむら・ともの)は。

群青のネクタイと深い茶色のスカート、県庁所在地の都市にある吹奏楽の名門・私立M高校の一年生となっていた。


「あれ?

M高って、B部門だった?」


抱き合った後、我に返った美葉。

朋乃は少し、はにかんで見せながら告げる。


「………うん。

去年の先輩達が卒業したら、かなり人数減ったらしくてね。

新入生も例年より少なくてさ、ギリでA部門になれなかったんよ。

正直ちょっとガッカリしてるんだけど」


朋乃は今時珍しい三つ編みのおさげ髪に、黒い円縁メガネの真面目そうな顔立ちだ。

それが、かえって周りから映えて見せている。


「そっか………さすがの名門も少子化には勝てないか」


小首を傾げて見せる美葉に朋乃は。


「いや、なんか"本業(学業)を重視する”?とかで、吹奏楽の推薦枠減らしたらしいんよ。

………て、急に何だよ?って感じ。

これだから私立は」


私立M高校は県内でも最も偏差値の高いと有名な進学校でもある。

朋乃は中学でも成績優秀であった為、敢えて学区外でも進学可能な私立を選んだのだった。


「今は何?

寮かアパートに住んでるの?」


さすがに自宅から90kmも離れた県庁所在地の高校に"通い”は無理だろうと、美葉。

朋乃は顔をしかめながら言う。


「寮、寮!

これがまた厳しくてさぁ、門限21時だよ?

学校のすぐそばだから部活には困らないけど、カレシが作れないとかボヤいてる子いっぱい居る。

まあ……私には無関係だけどね」


そんなサバサバとした態度の朋乃を見ていると………美葉は、つい数ヶ月前を思い出す。


無関係………自分も、そうだった。

中学時代は朋乃らと共に吹奏楽に全てを傾け、異性との浮いた話など遠い世界のリア充の話にしか思えなかった。


しかし、今はどうだ?


烈貴と出逢ってからというもの、その頃とは180度生まれ変わったかのような自分が居る。

"恋” ……"好きな異性との触れ合い” の甘美さは、一度味わったら抜け出せそうにない。

自分は"女”なのだ………

そう自覚するようになれたのも、◯✕高校へ進学したおかげかも知れない。

もし朋乃のように強豪校へ進学していたとしたら、変わらず吹奏楽の夢は広がっただろう。

ただ………

愛する烈貴とは、永遠に出逢うことは無かったかも知れない。


美葉が考え込んでいると、遠くで朋乃を呼ぶ声がした。


「あ、ウチのチューニングの順番来たみたい。

………じゃ、近藤。

お互い頑張ろうね!」


「あ………うん!

頑張ろう!!」


二人は固く手を握り合ってから別れた。


部員達は、目を見張って美葉を見ていた。


「さすが近藤さん!

あのM高に知り合い居るなんて」


美葉は気恥ずかしげに顔を向ける。


「いや………普通の子ですよ。

中学の同期で」


遠くで眺めていた烈貴が、美葉の隣りに来て呟く。


「………美葉ちゃんも。

ここじゃなくて強豪校へ行ってたら、楽勝で全国狙えたろうに」


遠い目をする烈貴に、微笑みかける美葉。


「私…………ここへ来て、本当に良かったと思ってる。

先輩と出逢えたんだから!」


烈貴の手を握る美葉。

緊張で汗ばんでいる烈貴の手の平を、美葉は可愛く思えた。


「今日も、楽しみましょ♫」


美葉は。

地区コンクールで烈貴に言われた言葉を、そのまま返した。


結果は、後から付いてくればいい。


二人の歴史は、まだ始まったばかりなんだから………

そんな美葉の大らかさが、県コンクール本番前の烈貴をリラックスさせ。

勇気付けていた。



続く


〈リア充・完〉


🎁GEKKO様贈呈   
J市文化会館ロビーに立つ美葉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません

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Gemini

Special Thanks;GEKKO様