8月に入った音楽室。
地区コンクールで金賞を獲得し、県コンクールへ出場の決まる前と後とで。
部員達の演奏の精度というのは、まるきり変わった!
突如、技術が爆上がりしたわけでは決してない。
ただ全員が、自らの演奏に対する自信を確かなものとし。
常に余裕を持ち、何時でも客観的にオペレートしながら続けることを知ったからである。
まさに"金賞常連校”"強豪校”の吹奏楽部員の心理状態というのは、これだ!と解る。
そうした意味でも、烈貴達◯✕高校吹奏楽部員達が今回のコンクールから得た収穫は大きかった。
今となっては。
カノジョとなった美葉との二人だけのトロンボーン・パートは、ともすれば"甘い時間”になり得そうな烈貴ではあったが。
それは美葉も同じであった。
「部活の時は………集中しようね!」
二人で作った、"約束”。
むしろ、"そうした関係”にならない方が良かったのではないか?などと外野からは言われそうだが。
この烈貴と美葉に関しては例外となりそうだ。
フィギュア・スケートの「りくりゅうペア」の活躍は記憶に新しいが、彼らは恋人関係にまでは無いと公言する。
だが、その「りくりゅう」にも負けず劣らず?に互いを深く理解し合いながらのトロンボーン・ペアは。
今や◯✕高校吹奏楽部全体の演奏を牽引するエネルギーを持つ………と言っても過言では無かった。
そのことは部全体を見渡す役割の部長・前田に留まらず、顧問の渡辺にも"お見通し”であり。
理解し、見守っていた。
部全体が、烈貴と美葉カップルを公認し、応援していたのであった!
烈貴は………妹・茉莉の、自分への冷ややかな態度に対抗意識を燃やす。
(見ていろ………
リア充のパワーってやつを!!)
烈貴の住む街から、約90km離れた県庁所在地の都市の真ん中で。
30歳近い……世間でいうアラサーの男が、OA機器販売会社のロゴを背負った営業車でバイパスを走っていた。
スピードメーターの左脇………エアコン風の吹き出し口の真上に、マジックテープで小さな写真立てが固定されている。
その写真立てに収まっている………長い黒髪の少女の姿。
会社の同僚からは「カノジョか?」とからかわれていた。
男は答えた。
「いや………カノジョ以上だ」
男の名は、草田雄馬(くさだ・ゆうま)。
彼の営業車内のCDプレイヤーから流れる音楽………
それは、1980年代に流行ったアメリカのハード・ロックだった。
Someday love will find you
いつか 愛が君を見つけて
Break those chains that bind you
君を縛っている鎖を壊してくれるさ
One night will remind you
ある夜 君は思い出すだろう
How we touched and went our separate ways
僕たちが どうやって出会って別れていったのか
If he ever hurts you
もし彼が君を傷つけても
True love won't desert you
本当の愛は君を見捨てやしないよ
You know I still love you
分かってるだろ
僕がまだ君を愛してるって
Though we touched and went our separate ways
僕らは 出会って別れてしまったけど・・・
彼は呟く。
「………………莉奈。
俺のことなんて、もう忘れてしまったかな…………………
ふ、未練たらしいよな(笑)
でも………もし。
もし、まだ君が俺を必要としてくれるのなら。
もし、まだ君が俺を受け入れてくれるというのなら………………待っていてくれ。
必ず、君の元へ帰る!!」
雄馬の車のコクピットで。
ジャーニーの
「セパレイト・ウェイズ」
が、エンドレスで流れ続けていた…………
続く
〈愛の強さ・完〉


