高橋家では。
烈貴のみでなく、妹の茉莉の方も中学吹奏楽部で地区コンクール金賞を受賞し。
更に兄妹揃って県コンクールへ進むという、"史上初の快挙”となっている。
茉莉の中学吹奏楽部も、やはりB部門。
しかしながら県コンクールの日程と場所は互いに違っており。
中学の部は高校より一週間早く、場所も烈貴達の地区コンクールが行なわれたN市立劇場。
高校の部の開催場所は、自宅から約70km離れたJ市の文化会館となる。
我が子達の活躍に、母親の明美は珍しく機嫌がいいが。
当の妹の茉莉の方はというと………
遊び呆けているはずの兄までも、県コンクールへ進んだことが面白くない。
これまでは、そんな"ダメ兄”に対しアドバンテージを持つことで優越感を得ていた。
だが………
(今まで"万年銀”だった学校が、いきなり金で地区代表?
………………なんか、怪しい!)
いや、怪しいと思われても(笑)。
烈貴一人で吹奏楽部が成り立っているわけではないのだが。
とにかく、茉莉は。
兄が吹奏楽をやるのも、どうせ"女漁り”の目的ぐらいだろう!
"真面目に”吹奏楽をやっている、自分のような者から見ると腹立たしい!!
………………といった考えの元にあった。
女漁り………とは人聞きが悪いが。
烈貴が部内恋愛をしていることは確かだ。
妹に快く思われていないと感付いている烈貴は極力、美葉のことを家中の者に知られまいと神経を使った。
だが………
今回のコンクールに臨み、自身のパフォーマンスを上げることが出来たのも。
まごうこと無く、美葉の存在あってのことなのは事実であった。
カシャ
ヴィーン
ヴィーーーン
ベンベンベンベンベンベン
真夏の陽射しが強く照りつける前に、朝早く部活の始まることは。
バイク通学の烈貴には都合の良いことだ。
県コンクール前日を迎えた茉莉も、同時に家を出る。
ヘルメットを被ろうとする烈貴を、茉莉が一瞥。
「最近、女の匂いがしないんだけど。
もしかしてフラれた?」
ビクッとする烈貴。
「あ、あのなぁ!?
根も葉もないこと、言うんじゃねぇよ!!」
さも意地悪そうな笑みで、横目で見る茉莉。
「フン。
まあ………どうせフラれても、また懲りずに他へ手を出すんだろうけど?
せいぜい、お母さんに叱られないようにね」
言い捨てて茉莉は、歩いて学校へ向かって行った。
烈貴はヘルメットのベルトをはめながら、苦虫を噛み潰した顔をする。
(オメェに何がわかる?
このク◯ガキ!
悔しかったら、男と付き合ってみろ!!)
クラッチを繋ぎ、RG50Eを発進させる。
ヴィーーーーン!
ヴィーーーーーーーン…………
市内、某ライブハウス。
「リーちゃん!
上達早っ!!」
「やっぱ、楽器やってた人だわ!」
真昼だというのに、窓一つ無いホールの七色の灯りに照らされた三人の男性と………一人の女性。
「マッキーさん、まだ全然よ、あたし(笑)」
女性にマッキーと呼ばれた、口髭の中年男が微笑む。
彼の腕にはエレクトリック・ベースが抱えられていた。
「いやいや、やっぱ音感だよ!
確かにクラリネットとキーボードじゃ、全くの別モンだけどね。
普通は、こんな短期間でマスターなんて絶対ないから!!」
女性は、額に汗を光らせながら笑顔を見せる。
襟足までのショートな黒髪。
着崩したブルーのカーディガンに、大文字のアルファベットの書かれた黒Tシャツ。
ダメージジーンズ。
そして、堀の深く整った顔立ちに、長身。
リーちゃんと呼ばれる、この女性こそ………
相川莉奈であった!
莉奈の前に置かれた鍵盤楽器、キーボード。
男性メンバーはベースのマッキーこと真木の他、ギターのアインこと相田、ドラムスのミタこと三田村の三人。
「今日はキーボードの練習だけで終わりにしよう。
ボーカルは、ほぼほぼイケてるから」
「アインさん、一曲くらい唄わせて!
どうしても気になるトコあってさ」
ミタがマジ顔で制する。
「ダメだよムリしちゃ!
昨日も三時間ぶっ通しじゃん。
ボーカルは喉が楽器なんだからさ」
このバンド。
以前………
莉奈の受けた暴行事件がきっかけで解散した「HEART MEDICINE」の元メンバーが集まり、再結成した「H.M.S」(HEART MEDICINE SECONDARY)である。
ボーカルで莉奈の恋人だった雄馬は。
莉奈と別れ、HEART MEDICINEが解散してから消息を絶っている。
メンバー達は雄馬が戻って来た場合を考慮し、莉奈にボーカルとキーボード両方出来るように練習させているのだ。
いや………誰もが信じている。
雄馬が再び、ここへ帰って来ることを!
「………だからこそ。
リーちゃんをメンバーに迎えた………だろ?」
莉奈と雄馬も………嫌いになって別れたわけではない。
自分の成長した姿を、雄馬に見てもらいたい………!
莉奈も、そう願っていた。
莉奈とメンバー達は、現在コピーしている
ジャーニーの
「セパレイト・ウェイズ」
を奏で始めた!

続く
〈セパレイト・ウェイズ 完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません