7月の最終日曜日。


家族で海へ出かけた美葉は、父親と弟とは別行動で、海に面して立っている水族館へ行っていた。

この水族館の規模そのものは小ぢんまりとしたものだが、歴史は古く昭和六年にまでさかのぼり。

それから二度の建て替えと一度の移転を経て現在に至る。

主な展示は地元で採れる水生生物から世界各地に生息する海水、淡水魚、ウミガメやペンギンまで様々な水生生物。

また海に面する立地条件を活かし、展望室や屋上広場からは四季折々の雄大な海の景色、そして海に沈む美しい夕陽が一望できる。

美葉も自身の小学生の頃に一度訪れたことはある為、懐かしさを感じつつ。

各水槽に映し出される水生生物の数々に、改めて感動の声を上げた。


屋上にはペンギン達の泳ぐ大水槽があり。

周囲を囲む青い海をバックに、美葉は母親から写真を撮って貰ったりした。


だが。

美葉が、ここを小学生時に訪れた記憶の中で、忘れられない展示物が有り。

この時も、それが未だに有るのか?確かめずには居られなかった。


その展示物とは………

シロナガスクジラの雄の、生殖器であった。


水族館の一階、二階は大小の水槽を始めとしたアクアリウムとなっているが、三階は"その他水生生物関連”の展示となっている。


まだ小学一年の幼い美葉が。

人間の大人の身長程も有る長さの、無骨な形の物がガラス・ショーケースに展示されているのを


「これって、なあに?」


と、側に居た父親に尋ねたところ。

父親から臆面もなく


「クジラのオ◯ン◯ン!」


と教えられ、爆笑していたのを思い出す。


今は既に思春期を迎えた美葉であったが、何故か


(もう一度観てみたい!)


という好奇心を隠せなかった。


母親と一緒に館内を観覧していた為。

表立って、その"展示”を

「確かめたい」

と言うのは憚りが有ったので。

美葉は各所を通り過ぎるフリをしながら、"それ”を探した。


すると………有った!


見つけた。

"それ”は、あの時と同じようにショーケースの中で佇んでいた。


(………おっきい………)


雄の生殖器を観ている……というよりは。

美葉には、古い顔馴染みと再会できたような懐かしさが大きかった。


が…………しかし!


その、幼き頃の純粋な思い出を掻き消すかのように。

何故か?美葉の頭には………あの忌まわしき莉奈の態度が蘇ると同時に、その時の金切り声が響き渡った!


(烈貴のって、おっきくてね、こんなになるの!

こんなよ!?)


途端に目の前の、シロナガスクジラの"それ”に釘付けになる美葉。

そして……思いもよらぬ言葉が、口を突く。


「………せ……先輩」


口走ってから、我に返り。

美葉は………たちどころに真っ赤になっていた!


「美葉!?

何してるの?

屋上行くわよ!」


遠くから呼びかける母親の声に、慌てて場を立ち去る美葉。


気が付けば、息も乱れていて。

屋上への階段を昇るのもそこそこに、外の潮風で深呼吸して自身を鎮めた。


すぐ傍の空中を、つがいのウミネコが飛ぶ。


「………みんな、同じなんだ」


美葉は烈貴との出会いに、生物としての運命をも感じつつ。

果てしなく青い、空と海の姿に洗われるのであった。



続く


〈水族館での出来事・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません

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Gemini