夏休みに入ると………すぐさま地区コンクール前日がやって来た。


振り返れば、あっという間だった。


4月。

つい、この間まで二年生だった部員達が最高学年となり。

経験者、非経験者問わず新入部員がやって来て。


5月。

すったもんだの末、コンクール自由曲(B部門は課題曲無し)がギリギリで決定し。


6月に、ようやく部全体が軌道に乗り。


7月。

烈貴と美葉にとっては。

お互いの気持ちを確かめ合い、部活外での付き合いが始まることとなった。


そして……この間。

烈貴自身には、莉奈との思いの交差も色濃く残ることとなった。


まさに、嵐のように過ぎ去った4ヶ月の日々であった。



7月最後の金曜日。

ジャージ姿の吹奏楽部員達は、通し練習を1〜2回に抑え、不安な箇所やテンポの変化など細かい部分の確認だけにとどめ。

あとは、少し前に下見に行って来た地区コンクール会場での配置や入場、退場の挨拶や経路などを確認し、部活を終了した。


顧問の渡辺は、部員達を見渡しながら告げる。


「………色々あったが。

よおく付いて来てくれた。

明日は、大勢のお客さんを楽しませる気持ちで演ってくれ。

そうすれば、お前らも楽しく演れる。

今のお前らは実力がある!

自信持って行こう!!」


「お疲れ様でした〜!!」


いつもより丁寧に楽器を整備し、予備のマウスピースやリードの確認など余念の無い部員達。

渡辺は送迎バスの手配の確認。

部活が終了した後も翌日の準備に追われ、全員退校したのは夕暮れ近い時刻であった。


夏の夕陽を浴びながら駐輪場まで並んで歩く、烈貴と美葉。 


「…………いよいよだね」


「うん」


「………緊張する?」


「………先輩は?」


「………ちょっと、かな(笑)」


「………私は………」


美葉は歩みを止めた。


「………ちょっと、怖い………かな」


いつになく不安そうに俯く美葉を、烈貴は意外に思った。


例年のように県大会まで金賞を獲得し、関東大会の常連である中学校吹奏楽部から来た美葉が。

コンクールのスタートを怖がっている…………


考えてみれば、美葉一人が優秀だからといってコンクールを勝ち上がれるわけではない。

直ちに全体的な技術の底上げが出来るわけでもないのだ。


烈貴は美葉の手を取る。


「………明日は、思い切り楽しんで吹こう。

例え、賞の色が何でも、後悔しないように。

俺………コンクールを美葉ちゃんと吹けるだけで、幸せだよ」


「………先輩」


烈貴は美葉を引き寄せ、抱き締める。

胸に顔を埋める美葉。


「………大丈夫だよ」


烈貴は美葉の髪を優しく撫で続ける。


「………先輩」


「ん?」


「………コンクール終わったら………デートして」


「うん、わかった!

………美葉ちゃんの好きな、スィーツ食べに行こう」


「ホント………楽しみにしてるから」


「うんうん!」


重なる二人の影が長く伸び。

青いRG50Eのタンクはオレンジ色に染まっていた。


…………N市、市立劇場。

県央地区吹奏楽コンクール会場の、白亜のコンクリートも。

夕陽に照らされながら出場校達を待っていた。



続く


〈コンクール前日・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません

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