◯✕高校の"一軍”と言われる一、二年生の女子生徒の間に、情報が広まっていた。

「ねぇねぇ、知ってる?
あの莉奈先輩をフッた男がいるんだって!」

「あんな無敵スペック持つ莉奈先輩をフるなんて!!
どんな男よ!?」

「ブラバンの二年生だって」

「それがさあ。
ソイツ、莉奈先輩捨てて、同じ部の一年のコを取ったらしいんよ」

「どんなコ?
カワイイの?」

「いやべつに。
大してカワイくもない、陰キャデブだっていうよ」

「マジで!?
そんなコに莉奈先輩が"負けた”の!?
ありえな〜い!!」

莉奈は。
そのスタイル・美貌・醸し出す"大人の女性”な雰囲気で、校内下級生女子の間でも憧れとなっており。
特に一軍やギャル系に慕われていた。
それが、どこから情報が流れたのか………
烈貴と美葉との三つ巴のエピソードが、彼女らの"お茶の間”を賑わすスクープとなっている。

また、同じ"一軍”の三年生女子………莉奈の同期の間にも、話は広まっていた。
ただし。
こちらはやや、冷ややかな反応であった。

「さすがの莉奈も、旬を過ぎたのかねぇ」

「やっぱ、"若さ”には勝てないか………」

「いや、あのコ意外とイチズなんだよ。
見た目に反して」

いずれにしても皆、莉奈・烈貴・美葉本人達とは話さない………
三人は校内で遠巻きに、話の種となっていた。


7月半ば。
夏休みを間近に控えた教室で。

美葉のクラスの一軍女子のリーダー格……とも言える存在、彩木愛香(あやき・あいか)は。
机に向かい自習中の美葉を、見つめていた。

(あの莉奈先輩が、こんな地味なコに負けるなんて………
一体、カレはどんな奴なんだろ?
確かめてみたい!!)

愛香は。
校則ギリギリのネイルの指先を、美葉へと向けた。

「美葉。
ちょっといい?」

その日も、全科目授業を終え。
美葉が荷物をまとめて席を立とうとすると、呼び止められた。

見ると。
取り巻きの一軍数名を引き連れた愛香が、笑みを浮かべて立っている。
以前、美葉に相談を持ち掛けて来た三人は、そこには居なかった。

(今度は何………?)

美葉は少々、ウンザリしながら顔を向ける。

「忙しそうなとこ、ゴメンね。
…………美葉、カレシ出来たっていうんで。
ウチ、お祝い兼ねてダブル・デートしたいと思うんだけど。
どうかな?」

胸まで伸びた髪には淡いウェーブがかかり、目には涙袋を強調した韓国風メイク。
首元には鈍い光を放つ華奢ネックレス。
"典型的な一軍女子”の出で立ちの愛香を、美葉自身も違う世界の人に感じていた。

「………ダブル……デート?」

「そ!
ウチのカレシも一緒だけど、テーマパークでもお店屋さんでも、楽しいとこならどこでも」

愛香は、親しげな表情を崩さない。
だが………
美葉は直感的に、何か?ウラを感じていた。
一先ず、ここは無難にかわしておくべきだろう。

「……せっかくだけど、ゴメン。
もうすぐコンクールがあるから。
それ、一段落したら考えるってことでいいかな?」

「コンクールって、いつ?」

「今月末」

「いいよ。
じゃ、来月………夏休みか?
連絡取れる?」

美葉は気が引けた。
こうゆう人物と連絡など取るようになったら、後々面倒だ。

「……今月のコンクール勝ち進んだら、県大会まで行くことになるの。
そうしたら、休み中もずっと部活になるし。
………相手も同じ部の人だから」

「じゃ、今月のコンクールで"負けたら”連絡ちょうだい」

愛香は、自分のバッグからピンクの皮カバーの鍵付きノートを取り出し。
一ページを切って、自インスタグラムのIDを素早く書き込んで美葉の机に置いた。

「待ってるから」

愛香は美葉に有無も言わせず、取り巻きとともに教室を出て行った。

美葉は、苛立ちを隠せなかった。

(負けたら………だって?
人をバカにして!)

こうなったら。
意地でも地区大会で"金”を取って、県大会まで進んでやる!
いつも冷静なはずの、美葉の中に。
「闘志」が生まれた瞬間であった。

美葉は。
愛香の置いたメモ用紙を握り締めながら、地区大会突破を胸に誓っていた。


続く

〈一軍女子の宣戦布告・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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