二人で海へ出かけた、翌日の月曜日。

烈貴と美葉は、いつものように放課後の音楽室でトロンボーンを抱え、並んで座っている。
全体練習前のパート練習も、これまでと全く変わらず和気あいあいとしながらも、コンクールを目前とした緊張感を保っていた。

二人とも若いながら、互いに繋がるべくして繋がったのだと感じていた。



前日、海からの帰り。
電車の席に並んで座りながら、二人は手を繋ぎ、身体を寄せ合っていた。

40分という乗車時間を短く感じた。
心地良い疲れが瞼を重くしていたが、下手をすると乗り過ごしてしまう為。
烈貴自身は眠るまいと頑張っていた。
眠気を覚ますことが出来たのは、烈貴の肩に寄りかかる美葉の寝顔の可愛らしさのおかげであった。

地元駅に着き、改札を抜けた駐輪場で二人は向き合う。

「………明日、また……会えますよね」

見つめる美葉の瞳が潤んでいる。
こんな美葉の顔を見たのも、初めてだった。

「ああ。
明日の今頃も、一緒に居るだろね」

そう言って烈貴は笑ってみせたが、美葉は抱きついてきた。

「………明日までなんて……待てない!
ずっと……一緒に居たい」

美葉は、泣いていた。
これまで秘めていた烈貴への思いを、一気に解放するのを許されたかのように。

抱き締め合う美葉の背中を撫でながら、烈貴は囁く。

「………必ず会えるよ。
これからも、毎日」

涙に濡れた顔を上げた美葉に、烈貴は口づけする。
美葉は、ゆっくり瞼を閉じたのだった………


自宅玄関にて。
帰宅した烈貴を、妹の茉莉が仁王立ちで出迎えた。
形相が険しい。
時計は夜7:00を越えたところであった。

「ただいま……」

怪訝そうに擦れ違おうとする兄に、お帰り………の挨拶もせず。
茉莉は横目で睨みつけながら、無言で鼻をヒクヒクさせる。
烈貴は背筋の凍る思いがした。
………が、しかし。
その時、烈貴から漂ってきたのは、焼けた潮の香りだけであった。

「烈貴!
夕ご飯くらい食べなさい!!」

階段を登ろうとする烈貴を、母親の明美が呼び止める。

「………後で食べるよ、今は要らない」

そう呟いて、自室へ消えようとする烈貴。
今、ダイニング・キッチンの席に着けば例の"説教責め”に遭い、食事どころではない。

しかし、この母親は許さない。

「ホントに!
その歳で"女遊び”ばかりして!!
まったく………誰に似たのかしらね?」

居間でテレビを観ていた、父親・正和が声を荒げる。

「いい加減にしろ!!
息子は母親の"持ち物”じゃねェんだぞ!?
烈貴だっていい加減デケェんだら、黙って見守るくらいの余裕持てよ!!」

「黙って見守るって………もし間違いでも起こしたら、どうするのッ!?」

「その為に親が居るんだろうがッ!!
第一、アイツはそこまでバカじゃねぇ!
自分の子を信じねェで、どうする!?」



………美葉は。
自宅の湯船に浸かりながら1日を振り返り、物思いに耽っていた。
日焼け止めは塗っていたものの、やはり首筋や腕のアチコチがヒリつく。
しかし………そんなことは、どうでもよくなっていた。

時折、どうしても顔がニヤけてしまう。

(………ああ!
先輩と、両思いになれるなんて………!
しかも?
あんな素敵なシチュエーションでカミングアウトで初キスなんて………有り得ないよ。
ホント夢みたい!!
夢なら覚めないでほしい!)

これから烈貴との、どんな幸せな日々が待ってるのか?
考えだすとキリが無くなり、危うくのぼせそうになる美葉。

バスルームから出て、脱衣場の全身鏡の前に立つ。
タオルも纏わず、白い肌に水滴のまとわりついた自分を見つめる。

(………やっぱり、気になるよな〜。
そんなこと無いって先輩、言ってくれたけど。
ここらへんが………)

自分の下腹や腰、太腿の辺りを注視し、ため息をつく。
私、太ってるから………と自嘲したことにふれ

「全然、そんなふうに見えない。
女の子らしいスタイルだよ」

と烈貴は言ってくれたのだが………

(………先輩、優しいから)

の一言で済ませてしまう。

「………ヨシ!
ダイエットするぞ!!」

生まれて初めて出来た彼氏の為に、美葉は拳を掲げて決心するのであった。


続く

〈新たな決意・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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Gemini