「ゴメン………ちょっと、目まいしただけ。
ハリキリ過ぎたな(笑)」
気遣う美葉に、烈貴は顔を上げ。
笑顔を見せる。
少しだけホッとする美葉だが。
「もう少し、水分摂った方が………
スポドリ、買ってきますね。
先輩は、ここで休んでて」
烈貴の顔から目を離さずに、そう言ってベンチから立ち上がろうとする。
「………あ!
もう大丈夫だから。
………ホントに………心配かけてゴメン」
再び笑顔を見せながら、美葉を制す烈貴。
美葉はベンチに座り直す。
ただし、その視線は烈貴から離さない。
「………もっと、私を頼ってください。
我慢しないで。
いつも、そうだから………」
「………え?」
思わず烈貴も、美葉と視線を合わせる。
海岸近くにある公園の時計の針は、午後三時半を示していた。
「先輩………優し過ぎるから」
これから日暮れを迎える陽射しが、美葉の顔を照らし出し。
その瞳を、明るいブラウンに変えて見せていた。
それが一層、憂いを帯びさせ。
大人にさえ見せていた。
「………美葉…ちゃん」
「………もう少し、ここで休んできましょう。
今はまだ、動かない方がいいから」
烈貴を労るように、身体を寄せ。
手を握り………烈貴の膝の上で重ねる。
二人の腿と腿が密着する。
潮風の匂いに混じり、軽いミントのようなシャンプーの香りが流れてくる。
美葉の髪からだ。
ふと、烈貴の額に手を添える美葉。
「………まだ、少し痕、残ってるけど。
だいぶ良くなりましたね。
痛み………ありますか?」
額の傷跡を、愛おし気に触れてくる美葉の顔が近づく。
瞳が大きく見える。
烈貴は呟いた。
「………優し過ぎるのは………美葉ちゃんの方だよ………どうして?
………こんな情けない……俺なんかに
………どうして?」
声が、震えていた。
美葉には。
見つめ合う、烈貴の瞳に。
涙が滲んでいるのが見えた。
フッ……と。
烈貴の視界から、美葉の顔が消える。
同時に………午後の潮風で冷やされていた胸が、温かいもので包まれ。
烈貴の鼻腔を、シャンプーの香りが爽やかに満たした。
「先輩は……情けなくなんか、ない。
私を、いつも守ってくれてた」
美葉は。
烈貴を抱き締めながら、耳元で囁いていた。
烈貴も………美葉を受けとめ。
日に焼けた両腕を回す。
烈貴の震えが伝わる………
嗚咽を堪えているのが、美葉には解り。
もっと強く抱き締める。
「だから………私の前では、我慢しないでね」
震える烈貴の髪を何度も撫でながら、美葉は囁き続けた。
烈貴の頬を、止めどなく涙が流れていた。
(自分の気持ち、大事にしろよ………)
あの時。
父から教わった言葉が、胸に染みていた。
二人は、そのベンチで。
時の経つのも忘れ、抱き締め合った………
空が赤く染まり出した頃。
「せっかくだから………夕陽見てから、帰りましょ?
…………歩ける?」
抱き合ったまま、美葉は烈貴の顔を見つめ直し、微笑む。
烈貴も、もう落ち着いて。
笑顔を見せた。
「………ああ、行こう」
二人は夕陽を浴びながら、手を繋いで浜を歩き出した。
海水浴客の姿も既に無く、海の家も閉まった時刻となっていた。
「わぁ………」
一面を赤く染める、海の夕陽の美しさに言葉を失う。
「………ここへ、おいで」
ついさっきまで貝殻を拾っていた砂浜へ、先に腰を下ろした烈貴が。
自分へと美葉を誘う。
「砂で服、汚れちゃうから」
「ええ?
先輩も汚れちゃうでしょ(笑)」
「俺のはいいよ、手で砂払って終わりだから(笑)」
美葉は笑みを浮かべ………それでいて遠慮気味に。
烈貴に"抱っこ”されながら、腰を下ろす。
美葉は背中を、烈貴の胸に預ける。
烈貴は美葉のお腹の前に手を回す。
クスッと笑う美葉。
「恥ずかしいなぁ」
見えないけれど、すぐ肩越しにある烈貴の顔に話しかける。
「何で?」
「………私、太ってるでしょ」
「そんなこと無いよ」
眼の前の、美葉の髪を嗅ぎながら瞼を閉じる烈貴。
美葉は麦わら帽子を取る。
「………汗臭い?」
「ううん、とっても………いい匂いだよ」
首筋に烈貴の息遣いを感じ。
思わず、ウン………と声が出て。
瞼を閉じる。
昼間、あれ程暑く感じた浜辺で、心地良い涼風となった潮風が二人を洗う。
夕陽は水平線に近付くごとに輝きを増して来た。
「綺麗………」
美葉と同じ思いを感じながら。
烈貴は呟く。
「こんな綺麗な夕陽を。
一緒に見れて、嬉しいよ………好きな人と」
「………え?」
肩越しに美葉は振り向く。
烈貴は微笑みを投げかける。
「………俺……自分のホントの気持ち、ずっとわからなくて、とまどってた。
………けど。
今日やっと、わかったんだ」
「………先輩」
烈貴は背中から抱き締めたまま、美葉と頬を合わせた。
「好きだよ………美葉ちゃん………大事にするよ………」
美葉の瞳が、そのまま虚ろになる。
力が抜けて………烈貴に身を委ねる。
「………嬉しい…………先輩………好き」
夕陽を浴びながら………二人は唇を重ねた。
優しい、口づけ。
美葉の唇は。
羽根のように、柔らかかった。
夕陽が水平線に沈むまで、二人は浜辺で優しく求め合っていた。
続く
〈渚の誓い・完〉
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Gemini
