海の家を出て、しばらく砂浜を歩くことにした二人。

ここの海岸は遠浅で。
沖に長い防潮堤がある為、夏場は比較的、波も穏やかとなる。

砂浜では。
小さな子供がプラスチックのシャベルとセットのバケツを、おぼつかない両手で持ちながら何やら楽しそうに砂をほじくり返している。
それを傍らで、水着姿の若い母親が微笑みながらしゃがんで見守っている。

ビーチボールでキャッチボールをしながら、はしゃいでいる若い父親と男の子。

海岸から少し離れた沖合いで、サップを楽しむ男性。

水平線に見えるのは、貨物船だろうか?船影をゆっくり動かしている。


烈貴は。
父・正和が若い頃、首都圏に住んでいた時によく行っていた神奈川県・江の島の海の話を聞いたことがある。
そこの海水浴場は、水の色さえ分からない程、人で埋まっていたという。
海水浴客も、家族連れよりも若い男女の割合の方が多かったと聞いた。

だが今、歩いている浜辺には。
いわゆる若い男女の姿は、烈貴と美葉の他には見当たらなかった。

つい先程から美葉は、下を向き続けている。
気になった烈貴。

「………どうしたの?」

美葉は下を向きながら

「貝殻………綺麗な貝殻あるかな?って」

改めて砂浜を眺めると、貝殻らしき物が点々と散らばっている。
烈貴自身も、面白そうに思えた。

「じゃ、俺も探そ!」

二人は一緒になって、下を向きながら砂浜を歩き回ることになる。

すると………
あるある!
巻貝、二枚貝、大きさも様々。
ピンクの小さな桜貝のようなものまで。

午前中の"海の生物”と同じように。
烈貴も美葉も、宝探しする子供みたく夢中になり。
二人とも、手から溢れ出る程の貝殻を集めた。

「これ………あげる」

烈貴が差し出したのは。
ホラ貝の手のひら版と言っていいほどの、大きな巻貝の綺麗な貝殻だった。
「………スッゴい!
立派な貝殻!!
よく、こんなの見つかりましたね!」

美葉も、興奮気味で受け取る。

「ありがとう………先輩」

少しだけ、美葉の眼が潤んだ。



「ふぅ~、さすがに疲れたね」

浜のすぐ横を通る国道脇の自販機で二人はコーラを買い、海を見渡せるベンチに座った。
Tシャツ一枚で夏の陽を浴び続けた烈貴の首筋は、ヒリヒリし始めていた。

「あ………美葉ちゃん。
日焼け、大丈夫?」

時折吹いてくる潮風が、美葉のワンピースを揺らす。
傾きかけた午後の陽射しが眩しくて、美葉は帽子の鍔を少しだけ深くした。

「あ………日焼け止め、付けてるから。
けど、帰ってお風呂入ったらヒリヒリするかな」

そう言って、美葉は笑って見せた。

半日、一緒に過ごしただけなのに。
二人は、互いの距離というものが思いもよらぬ速さで縮まっている感じを覚えていた。

それまで烈貴は。
美葉の存在を半分、妹のような目で見ていた気がした。
しかし、そうでありながら実の妹の茉莉……とは全く違った。

部活の後輩。
それは形の上での事実だが………
後輩として見ても、烈貴にはリスペクトの気持ちが強過ぎる。

自分が生きて来た中で、こんな存在の女の子は居ただろうか。
友達………そうかも?
でも、それでも説明がつかない気もした。

(………この子は。
俺にとって………何なんだ?)

コーラの缶を傾けながら瞳を閉じる美葉の白い横顔を、烈貴は見つめた。

いつか………偶然だったが、学校の駐輪場で美葉を背中から抱き締めたことがある。
何故か?
あの時の感覚を烈貴は思い出し………胸が熱くなり始めていた。

しかし。

(………ダメだ!)

そうした思いが起こる時、烈貴の胸の内には莉奈との逢瀬の記憶が遮り、付きまとった。
自分に対し、燃え上がる激情を剥き出しに迫る先輩・莉奈の術中に陥っていった………その事実は、消そうとして消せるものではない。

美葉に対する自分の思いを確かめようとすればするほど、それは烈貴自身を苦しめた。

烈貴は頭を抱えた。

「………どうしたんですか?
具合、悪いんですか?」

美葉が様子を心配し、うずくまる烈貴の背中に手をやる。
柔らかく、優しい美葉の手。

涙が、溢れそうになる。
烈貴は下を向きながら、それを堪えていた。


続く

〈リグレット・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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