日曜日。
予想最高気温は、36℃まで上がる見通しだった。
天候は、降水確率ゼロ%の晴天であった。

先日、父親とツーリングに出かけた海岸とは違う、比較的空いている"穴場”海水浴場の浜辺を目指し。
烈貴と美葉は電車で向かっている。

初めて見る、私服の美葉は。
白い薄手のワンピースと、小さめの麦わら帽子が良く似合っていた。
足元は虹色のビーチサンダルを履いている。
烈貴は………黒の膝までショーツに白Tシャツという何の変哲も無い上下にスポーツサンダルという出で立ち。
頭を遮る被りものは無い。

美葉の、そんな姿が烈貴には。
そのまま美葉の清楚さと可愛らしさを象徴しているかのように見え、いつもと違う雰囲気にドキドキさせた。

朝、9:00時台の海岸方面行きの電車はシーズンともあり、幾分平時より乗客も多く感じた。
途中から乗ってくる家族連れを見ると、既に空気の張ってあるカラフルな浮き輪を抱えていたりする。

その電車車両の室内は、向かい合うボックス席が何セットかと、ドア付近その他は横向きのロングシートになっていた。

二人は、そのロングシートの空いているスペースに適当に並んで座り。
乗っている間、明るく大きな車窓の向こうに流れる風景について語り合った。
それは、普段は部活以外接点の無かった仲であっても会話を楽しくさせた。
とりもなおさず、烈貴と美葉が一緒に過ごす初めての"非日常”であり………全てが別世界であったのだ。
ふと、横を見れば。
瞳をキラキラさせながら車窓に見入っている、美葉が居る。

40分もの乗車時間は想っていたよりも早く、あっという間に過ぎ。
目的駅に到着。
海岸へは、駅から歩いて5分程であった。


「わぁっ!」

眼前に横たわる砂浜の向こうに、水平線まで広がる海。
その青さを目の当たりにし、美葉は感嘆の声を上げる。

吹き付ける潮風の匂いが、懐かしささえ想い起こさせる。

点々と広げてある海水浴客のシートを縫うようにして、二人は熱い砂浜に波打ち際まで足を進めた。

ザザァ

ザザァ

青く見えていた海水が、透き通り。
さざ波を煌めかせている。
目を凝らすと、海藻が揺らめいているのも見える。

「ああ、先輩!
見て、魚、泳いでる」

ワンピースのスカートの裾を捲り、水へ足を進めていた美葉が指差す。

「マジ?どこ?」

近付いた烈貴が、美葉の指差す先を見ると。
手のひらに乗るような小さなフグの仲間が、ヒレをパタパタさせて海中を漂っていた。

「ホントだ!
こんな砂浜近くまで来るんだ」

「カワイイっ」

そこは海水の透明度が高い為、水中メガネが無くとも砂底まで見えた。

「あ、ホラ、ここにも!」

「ウワッ、いっぱい泳いでる!」

フグの仲間の他にも、体の細い小魚の群れ、フナに似た小魚等。
普段目にすることの無い、海の生き物達の泳ぐ姿を見つける度に二人は歓声を上げる。
美葉に合わせて、水着は用意しなかった烈貴も膝まで水に浸かり。
存分に潮の匂いを嗅ぎながら海を堪能していた。

砂浜から張り出している、防潮堤まで行くと。
テトラポッドの重なる間から、フナムシ達が走り回っている。

「………コイツら、ゴキブリとゲジゲジの間の子みたいだけど。
何か憎めない感じだよな」

人影が近づくと、素早く逃げ回るフナムシを見ながら烈貴が言うと。

「フフ、そうだね、何かバツの悪そうな仕草に見える」

そのコミカルな動きを眺めながら、美葉も笑う。

テトラポッドでは他にも、20センチ近い大きさのワタリガニが歩き回る姿や、コチの仲間の魚を見つけることが出来た。

そうしたうちに午前中も、あっという間に過ぎ、正午も越えていた。

「お昼にしよっか」

「ハイ!」

二人は海の家に入り、海を見渡せる吹きさらしの食卓テーブルに着いた。
午後に入った為か、幸いにも客は減り始めていた。
ラーメンを二つ注文する。

「こうゆうとこで食べるラーメンて、何でか?美味いんだよね」

「そうなんですよね!」

海の家のゴザは、少しだけ砂でジャリジャリしている。
それすらも二人の中の、小さい頃家族で来た海水浴の記憶を呼び覚まし。
共有出来たのであった。


続く

〈海へ・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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