ライブハウスでの、衝撃の"初体験”を済ませた莉奈。
それから
ロックバンド「HEART MEDICINE」
のライブ通いが始まった。
会場は最初に行ったライブハウスがメインだったが、たまに他のバンドとセッションの場合があり。
そういう時は別のライブハウスが舞台となった。
莉奈は最初のように、ライブ後に控え室を訪れることは遠慮していた。
彼女にとっての目的は純粋に音楽を聴くことであり、疲れているであろう演奏後のメンバー面々に更なる対応を強いるのには気が引いたからである。
そうした意味では、莉奈は容姿だけでなく心理的にも大人な面を持っていた。
ステージで演奏中の雄馬からも、観客の中に莉奈の姿は確認出来ていた。
ド派手に騒いでいる真樹の隣りで対照的に立ち尽くすだけの莉奈は見つけやすく。
自分に向ける莉奈の視線もテレパシーのように伝わり。
(ああ、今日も来てくれてるな)
と励みにしながら、演奏にも熱が入った。
真樹も引き続き同行してはいたが、莉奈を控え室へは誘わずに
「ちょっと行って来るから待ってて」
と、単独で突入するようになった。
単なる独占欲によるものであった。
莉奈を誘った初回、莉奈に向けた雄馬の好意というものが"女の勘”として働き。
(渡すまじ!!)
と防御せしめたのである。
しかしながら莉奈にとっては
「ハイハイ、どうぞ行ってらっしゃい」
と、気にも留めぬことであった。
だが、それが実は雄馬本人にとっては不本意なことだったのである。
唯一、その日の音源について話を聞けそうなのは莉奈という少女のみであり。
それを雄馬は期待するようになっていた。
だが控え室へ殺到するのは所謂グルーピー達のみであり、雄馬は正直ウンザリしていたのであった。
そうした自身の思いなど、お構い無しに抱きついてくる真樹に対し。
雄馬は尋ねる。
「ねえ、あのコは?」
それに対し、怪訝そうな顔をする真樹。
「あのコって?」
「ホラ、こないだ一緒だった、背の高くて長い髪の………」
真樹は口をへの字に曲げかかるが、瞬でトボケた顔を横に向かせる。
「………あ!
ああ、今日は来てないけど?」
当然ながら真樹のウソも雄馬には、お見通しであった。
(あのコと、"音”の話がしたい)
雄馬は21歳になっていたが、いつも真剣な眼差しを向けながら演奏に聴き入っている少女のことを。
次第に気になって仕方無くなっていた。
それから何回目かのライブの日。
真樹が、たまたま日付を忘れたのか?
「今日は合コン♫」
とか言って、意気揚々と出かけたことがあった。
莉奈は誘われなかったが、どうせイケメンは真樹が独占しようとするのだろうし、何よりライブの方が大事だったので放っておいた。
そもそも、もう真樹とライブハウスへ同行する理由も無いと莉奈は考えていた。
いつものライブハウスも、莉奈にとっては第二の家とも感じられるようになっていた。
聞き慣れた曲であっても、ビートの中に身を投じることは莉奈にとってリラクゼーションであり、インスパイアされるものでもあり、アドレナリンを沸き起こすものでもあった。
そして……雄馬のギター・ソロは自身に与えられる最大の御褒美となっていた。
その日。
全曲が演奏を終え、莉奈が出入り口のドアへ向かっていると。
「………やあ。
今日もありがとう」
振り向くと、演奏を終えたばかりの雄馬が立っていた。
笑顔が汗で光っている。
莉奈は一瞬、驚きの表情を見せたが。
直ぐに溢れんばかりの笑顔となった。
「あ………あたしこそ、ありがとうを言いたいです!
今日の演奏も、マジ素敵でした」
見つめ合う二人。
雄馬が、莉奈の瞳を見ながら切り出す。
「あの………これから時間ある?
直ぐ帰る?」
意外な言葉に、莉奈は。
「………いや?」
何かの期待が、少しだけ生まれた。
雄馬が続ける。
「いつも聴きに来てくれるんで、お礼がしたくて。
すぐそこに粋な喫茶店があるから、そこで良いなら、何か甘いものでも。
ギターの感想も訊きたいし………あ!
無理は言わないけど」
雄馬は、屈託の無い笑顔を見せる。
いつもの莉奈なら
"新手のナンパか”
とか、呆れた目で見るのだが。
その時は素直に嬉しく感じていた。
「お礼だなんて、そこまで………
あたしなら、時間、特に大丈夫です。
けど、ライブ終わって疲れてるでしょ?」
「いや、全然!」
雄馬はハッキリ伝えた。
「前から君と、お話してみたいと思ってたんだ。
もし迷惑じゃなかったら………」
莉奈は雄馬の堀の深い顔立ちを見上げ。
それまで嗅いだことの無い、汗とシトラスの香りの近さに。
胸の高鳴りを覚えて来るのであった。
その日を境に。
雄馬は莉奈と対峙する際に限っては、明らかに他のファン達とは区別するようになった。
莉奈が反感を買うのを案じ、ライブ終了後に例の喫茶店で待ち合わせるようにもした。
メンバー達との打ち上げもそこそこになり、事情を知る彼らから
「最近、付き合い悪いぞ(笑)」
と、からかわれた。
それもいずれ、連絡先を交換すると。
直接自らのマンションへ莉奈を招待するようになった。
いつしか、互いに
「莉奈」「雄馬」と呼び合う仲へと変わって行った。
それは。
いつもの通りに、莉奈が雄馬のマンションへ訪れていた日の出来事だった。
リビングの大きめのソファに二人並び、スクリーンで古いアメリカの青春映画を観ながらくつろいでいた。
ふと、莉奈の肩に回していた雄馬の手が、莉奈の長い髪を撫で始める。
「………こんな恋、してみたい?」
雄馬が耳元で囁く。
「………素敵だけど………わかんない……」
恥ずかしげに俯きながら、照れ笑いをする莉奈。
頬が赤くなっている。
「……俺………してみたい………莉奈と」
二人の身体は、いつの間に密着している。
雄馬は、そのまま莉奈の身体を両腕で引き寄せ。
首筋に唇を這わせて来た。
「………好きだよ………莉奈」
筋肉質な腕に抱かれ、手で背中から腰を撫でられても。
莉奈は抵抗せず、身を任せる。
自然と雄馬と向き合い。
間近で見つめ合い………ゆっくりと唇を重ねた。
陶酔の時間。
ベッドのように大きく、柔らかな感触のソファへ横になりながら二人は重なる。
長い口づけで放心する莉奈の、首筋から胸元へと唇を移していく雄馬。
ブラウスのボタンが一つ、一つ、外されていく………
莉奈は、一糸まとわぬ姿となり。
雄馬を受け入れた。
続く
〈芽生え・完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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