吹奏楽部の練習は佳境に入っている。
より、精度良く音を出す為に。
より、譜面に正確に楽器を操作する為に。
部員各自の表情に、それが出ている。
「ハイ、そこで止める!!」
「ハイ、そこで伸ばす!!」
全体練習での、渡辺の指導にも更に熱が入る。
少人数クラスの演奏では。
クラリネットが一名減ることだけでも音の奥行きや厚みが違って来るものだ。
当然ながら、一名でもタイミングの遅れがあると非常に目立つ。
その度に指揮者である渡辺の指摘が飛ぶ。
それでも部員達は修正を試みながら、必死に付いて行く。
「………ハイ!
今日は、終了!!」
「お疲れ様でしたー!!」
額に汗を滲ませた渡辺が指揮台で宣言し、その日の部活は終了する。
各自が楽器の手入れをし、ケースに収める等、後片付けを始める。
烈貴も美葉も緊張感から解き放たれ、互いに笑顔を見せ合う。
美葉の額にも汗が光っている。
その日も、美葉は烈貴を駐輪場まで送った。
季節は夏至を迎え、長くなっている陽射しが19:00でも二人の姿を照らしていた。
「………いつも、ありがとう」
「え?」
不思議そうな顔で見つめてくる、美葉に。
烈貴は照れ隠しに頭を掻いて見せる。
「あ、いや、こうして俺を送ってくれて」
なんだ、そんなこと………
そう思いながら美葉も俯きながら、照れ笑いする。
頬が少しだけ赤くなる。
駐輪場に着き。
RG50Eのホルダーにぶら下がるヘルメットを外しながら烈貴は呟く。
「………ホントはさ。
たまには帰りにどっか、寄ってこうかって思ったりするんだけど」
小首を傾げて、見つめる美葉に向き直り。
烈貴は伝える。
「………美葉ちゃん、帰り遅くなっちゃうし」
美葉の顔が、パァッと明るくなる。
「………いいですよ!
軽くお茶するくらいなら。
あ、でも先輩、バイク引いてかなきゃ………」
学校から市街地までは、徒歩で15分くらいであった。
「俺、別にいいけど。
バイクなら、一旦ここに置いてけばいいし。
それに………」
視線を落として、はにかむような笑顔を見せる烈貴。
「たまには。
部活外でコミュニケーションするのも、大事かな……って」
美葉が、満面の笑顔を赤くし。
頬を両手で押さえる。
「………ハイ!」
烈貴に対し、そう答えるのが精一杯な美葉であった。
その後、街の通りにあるバーガーショップの窓際で。
笑顔で向かい合う二人の姿があった。
時の経つのは、とうに忘れていた。
夕暮れの展望台の駐車スペースに、黄色いスクーター・ヤマハTRYが停まっている。
傍に、膝を抱えて座る莉奈がいた。
見下ろす街明かりが、様々な光を放つ宝石に見え始めていた。
莉奈の目には、その輝きが滲んで見えてきた。
「………烈貴」
強気に見える出で立ちの、18の娘の頬を。
悔恨と愛慕の涙がつたった。
続く
〈恋慕・完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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Gemini
