「先輩!
大丈夫ですか!?」
烈貴の顔を見るなり、気遣う美葉。
日曜日、休日部活の朝。
美葉はピンクのジャージ姿で登校する。
金曜日の放課後、音楽室へ入ると。
そこに烈貴の姿は無かった…………
聞けば、体調を崩したという。
それは美葉にとって、入部後初めてのことだった。
いつも隣りに居てくれた、先輩が居ない。
ただ、それだけのことが。
その日だけかも知れないことが。
どんなに寂しいことなのか…………
美葉の胸を切なく、締めつけていた。
空白の土曜日は、烈貴への想いで満たされた。
今ごろ、どうしてるんだろう………
まだ身体は、シンドいのかな………
夜、布団に入っても。
それが頭から抜けることは無かった。
一人の男の子のことを想って、切なくなる………そんな経験は美葉にとって初めてのことだった。
それまで、まわりに居た男子達を美葉は
「女子と比べるとガキだなぁ」
と、まともに取り合わなかった。
漫画やネットで恋愛物の話を観ても、美葉には「向こう側の他人事」に感じ。
入り切ることも出来なかった。
その感覚は、美葉が中学を卒業し、今の高校へ入るまで決して変わることは無かった。
だが。
入学式もそこそこに向かった音楽室で、美葉は自分にとっての"王子様”と出逢うことになる。
それが烈貴だった。
"王子様”は、特にアイドルのようなカッコいいイケメンでもなければ、誰もが尊敬の眼差しを向ける秀才でも無かった。
むしろパッと見、頼りなさそうで。
演奏スキルも、自分の居た中学の生徒の方が遥かに上に感じた。
だが………
優しかった。
それは、烈貴が自分へ向ける言葉の端々。
表情………特に、笑顔。
楽器を取り扱う手付き。
皆への態度…………
全てに滲み出ていた。
初めて音楽室を訪れた時を思い出す。
この高校の吹奏楽部のレベルの低さを、美葉は正直ディスっていた。
強豪校の呼び名を欲しいままにする、自分の出身中学の名を出せば、皆ひれ伏すと思い上がっていた。
だが………当然と言えば当然、在校生部員の反発を食らった。
あの………長身で冷たい美人顔の三年生・莉奈が、怒りを露わにしながら迫った時は正直
(しまった!)
と背筋の凍る思いがした。
莉奈の態度が、そのまま部員達の総意にさえ感じ、身動きも出来ずにいた。
そこへ。
「こんな頼もしい新人が入って来てくれて、嬉しい」
と間に立ってくれたのが烈貴だった。
それだけではなかった。
自分の原因で暴行を受けるはずだったのを、危険を省みず、文字通り盾になってくれた………
リアルで、こんな素敵な王子様と出逢えるなんて。
美葉は思っても見なかったのであった。
烈貴が救急車で運ばれた、その晩。
美葉は夜明けまで泣き明かした…………
「金曜日?
ああ、もう大丈夫。
大したこと無かったんだけど、心配かけてゴメンね」
前日、父親とともに海へツーリングに出かけ。
気持ちの吹っ切れた烈貴は、爽やかな顔をしていた。
笑顔に戻った美葉の瞳に、薄っすらと涙が浮かんでいたのを。
烈貴は気付かなかった。
(…………好き。
私は、高橋先輩が好き!)
美葉は、自分の気持ちをシッカリと確かめた。
続く
〈美葉の気持ち・完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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