曲目の決定してからの、吹奏楽部員達の集中力は変わった。

烈貴は美葉とともにトロンボーンの音力のメリハリ改善を目指し、パート練習でもディスカッションを絶やさない。
フルートとピッコロはパート練習のみでなく、クラリネットやテナー・アルト両サックス達に協力を仰ぎ連携練習も加え、木管パート全体での課題克服を狙い始めた。
トランペットも、ここぞという時の音割れ・音抜けを防ぐクセを付ける為、ロングトーンとタンギング練習の時間を倍に増やした。
ホルン・ユーフォ・チューバも音力を安定させる為に、それに続く。
パーカスだけは不動の天才肌が揃っていたが、ドリブル練習の時間を増やし、手首と肩を柔らかくしている。

当たり前なことをやってなかったのを、自分達自らが自覚したのである。

渡辺は敢えて
「自分達で曲目を選んでみろ」
と投げかけたのだが、実際は無理なことは承知の上だったのである。
彼の目論見とは、迷走する部員達に
"考える時間”
と同時に、必要であれば自分達で本音をぶつけ合う機会を与えたのであった。

ただ………
想定外の傷害事件の発生と。
それに伴う烈貴の負傷は、渡辺の胸を痛くした。
その日の部活動を自主練習とした、自身の行動に渡辺は深く自責の念を覚え。
職員会議にて、吹奏楽部顧問を辞すると同時に自らの教諭としての処分を願い出ていたのであった。

校長並びに教頭は渡辺に告げた。

「渡辺先生の責任とは、こうした事態を乗り越えて尚、吹奏楽部を継続することです。
それこそが、貴方の教師としての手腕が問われるのではないでしょうか」

辞めるのは簡単だ。
むしろ辞めずに踏み止まり、立て直すことの方が厳しいのだとの学校側の判断であった。



烈貴は、展望台へ行くのを控えることにした。

行けば、莉奈と逢う確率が高いからだ。

莉奈と肌を重ねてはいたが、自分の本心から莉奈を好きなのではない………
今さらながらに烈貴は、それに気付いた。

(これ以上、ただれた関係は止めよう)

そう決心をしてはいたが、いざ莉奈本人と逢った場合、その決心も揺らぎかねない………………
烈貴は、それを警戒したのである。

吹奏楽部の活動そのものに関しては、既に吹っ切れた感の烈貴であったが。
莉奈の行為は、烈貴に新たな"トラウマ”を与えることにもなった。
まだ若い烈貴が、ともすれば"女性不信”に陥りかねない心理的影響である。

元来、思春期を迎えた少年というものは、概ね生涯初の強い性欲を覚えるのが自然である。
莉奈本人に自覚は無かったが、そうした少年期の健康状態に"付け込んだ”形で自分へと振り向かせようとした結果となった。

部内のパート練習等で。
時折、美葉が自分へ見せる微笑みにさえ、烈貴は怯えるほどになっていた。

(この子も、同じなのか?)

と。

今まで生きた中で、友達のように感じていた、齢の近い女子達が。
あたかも"魔物”に変貌したかのような、絶望に似た恐怖を感じる烈貴であった。


続く

〈女は、魔物か?・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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