ヒロシにはハッキリと言ってなかったようだが、ヨシコは東京の大学を志望しているらしかった。
卒業の日が近づいてきた。
ケイや仲間達も、地元や近県の工場に内定していた。
ヒロシは相変わらずだったが、前と比べてずいぶん無気力になってしまっていた。
仕事も定時制もサボって、車をころがしてばかりの日々が続いていた。
ケイでさえも彼の居どころがつかめず、会えない日々が続いた。
ケイは、ヒロシをさがすふうでもなく。
独りでタバコをふかしながら待ち続けていた。
三月の冷たい夜。
国道沿いにある、小汚いゲームセンターで二人は再会した。
ヒロシはたいして変わってなかったが、パーマの髪は以前の黒からキツネ色に変わっていた。
ヒロシはケイに、ヨシコと別れたことを告げた。
ケイとヒロシは、そこでしばらくカーレースのゲームをしたあと。
午前一時に店を出た。
帰り道。
走りながらケイは、ふいに大声を上げて泣きだした。
後ろを走っているヒロシは、それには気付かなかった。
ケイの叫びは、その下で吐き出されるモーターサイクルの排気音にまぎれて飛んでいった。
自分が失恋したわけでもないのに、たまらなく悔しかった。
三年前、ケイのモーターサイクルをペイントしながらヒロシは
「女ができたんだ」
と得意気に、そして本当に嬉しそうに自慢していた。
いい顔をしていた。
だけど、あの時のような顔を、ヒロシは二度と見せることはないかもしれない。
現に後ろを走っているヒロシの顔は、まるで夜光虫のようだった。
「俺達は一体どこに行こうとしているんだろう。
ヒロシやヨシコだけじゃない。
カズやカツ、パラ、俺、そしてキヨミ。
何をするために生きて来たんだろう!
どこに行けば幸せになれるというんだ!?
今が幸せなのか?
わからない!
この街で生まれて、さんざん遊び回って働いて、家族を持って………
俺はそれでいい、だけど、みんなは!?
見えない何かにバラバラにされて、コナゴナにされて、一体どこへ連れてかれちまうんだろう!!」
ケイは真夜中の国道に涙をふりまきながら流れていった。
卒業式も終わった三月。
ヨシコが東京へ旅立つ日が来た。
ヒロシは国道を流していた。
昼近くなるというのに片田舎の日曜日の国道は、その時、彼一人だった。
国道は場所によって鉄道と並走している。
ヒロシの黒いムスタングは、その横を南下していたので、並走する列車は「上り」となる。
午前十時、快晴。
ムスタングの横には特急列車がいた。
列車は、時速100キロ弱でムスタングを置いていこうとしていた。
ヒロシはアクセルを踏みこんだ。
V8エンジンが咆哮し、シートに押しつけられながらの加速が始まると、今度は軽々と列車が置いていかれる番だった。
八両編成の先頭を抜き去った時、ヒロシの胸には何故か、不思議な思いが生まれた。
それは仲間といつもやっていた、競り合いのようなレースに勝った時よりもスカッとしたものだった。
国道は、そのまま直線から山の曲がりくねった道となりアスファルトも荒れてきた。
しかしヒロシは、そんな荒れた道の上で思いきり飛び回ってみたくなっていた。
やがてトンネルが現れた。
その中に消えてゆくまで。
黒いムスタングを目で追っていた少女が、追い抜いた列車の最前列の窓べにいたことをヒロシは知らなかった。

旅立ち・完
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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