米国、カリフォルニア州シリコンバレー。


ここはAIとロボットの融合が進む最先端の拠点であり、研究・開発・スタートアップの中心地である。


シリコンバレーには 関連大学とロボティクス企業、ベンチャーキャピタルが集結しており、個人や小規模チームでロボット開発・研究所を立ち上げる科学者やエンジニアも多数存在し。

ヒューマノイドロボット、AIロボットの研究開発が非常に活発となっている。

かつて日向の所属していた研究所も、この地の一角にあった。


日向の同僚として共にヒューマノイドの研究を重ねていたフェリックス・カーター研究員が声をかける。

「Hyuga.
I found out about it for the first time on the news.
That must have been tough」

(ヒュウガ。

ニュースで初めて知ったよ。

大変だったな)


何しろ5年前、日向は中米へ戦闘ヒューマノイドの研究に行くと言って出かけたきり全く連絡もつかず。

フェリックス始めシリコンバレーの同僚は、その消息を案じていた。

イスロに関わることになった人物は、事業の機密性を盾に外部との連絡を禁じられていた。

個人のスマートフォン・タブレット等通信機器は全て"一時預かり”という名目で事実上、イスロに没収されていたのだった。


麻衣は既に。

素体と共に、この研究所の処置室へ入っている。

麻衣の意識=ベヴスタイン移植を実施する作業には。

ロボティクス分野から日向、フェリックスを含めた10名、医療分野から10名、合計20名のスタッフが共同参加する。

いずれも全米で最先端技術に携わる科学者達だ。


同じ西海岸沿いのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)などの研究機関では、開発・検証段階の協働としてロボットが医療現場で実際に役立つものかどうかを評価するため、ロボットの開発研究に医師や医療チームが開発プロセスに参画する試みも盛んに行なわれているが。

この度の麻衣のケースのように、人間の肉体と無機物であるロボットの間で"意識”のやり取りを行う作業というものは別次元にして技術的に最先端であり、最高レベルと言って良い。


「Hyuga.

Regarding your daughter's Bebstein transplant surgery...

I have to say the success rate is only about 50%.

Similar to previous cases, data transfer from the biological brain to the digital brain is smooth, but...

In comparison, data transfer from the digital brain to the biological brain carries a higher risk.

Imagine a sound recorder.

It's possible to record and play back human voices, but it's virtually impossible to transfer machine-generated sounds to a human and have them speak」

(ヒュウガ。

今回の娘さんのベヴスタイン移植だが……

成功率は50%程と言わざるを得ない。

前回のような生体脳から電子頭脳へのデータ移行よりも、逆に電子頭脳から生体脳へのデータ移行の方はリスクが高いのだ。

音声レコーダーを想像してみるといい。

人間の声を機械に録音し再生することは可能だが、機械の発する音を人間に移して発声させることは不可能に近い)


フェリックスの言葉に、日向も頷くしかなかった。

それについては日向も承知のつもりであった。

しかも今回の件は音声レコーダーの場合よりもリスキーであった。

もし、仮に今回の処置が失敗した場合。

麻衣の"意識”は行場を失い、人間の肉体へも戻れず、またヒューマノイドの機体へも戻れず、2体の麻衣は永久に植物状態となってしまうという。


しかし。

そうした二つに一つのリスクを伴うとも。

日向には娘が戦闘ヒューマノイドのまま一生を終わらせるのは、到底忍びなかった。


日向は、娘達を戦闘ヒューマノイドにしたことに懺悔の日々を送って来た。

華裏那に於いては、自分は戦闘ヒューマノイドのまま人間には戻らなくて良いとまで言い自ら志願し、人間の肉体を放棄したのだった。

しかし……………そんな華裏那の素体である肉体さえも日向は秘密裏にフィリピンのマニラへ送り、保存させていた。


如何に尊厳なる意志と目的があってのことであろうとも。

世界平和の為であろうとも。

日向も、人間の父親であることに変わりは無かった。


しかし、ベヴスタイン移植作業を直前にし。

ベッドの上の麻衣は、父である日向を呼んで言った。


「お父さん。

一つだけ、ワガママを聞いて」


傍らに寄り添う日向。


「…………何だね」


麻衣は暫し天井を見つめた後。

日向に向かい、呟いた。


「…………この手術が終わって、わたしが人間へ戻っても。
このヒューマノイドの身体は、残しておいて。
…………もし。
もし、もう一度、悪い奴らが現れたら。
わたしにしか出来ないことがあるかもしれない。
だから、いつでも戻れるようにしておいて欲しいの。
この身体に」

日向は困惑した。

「麻衣。
もう、闘う必要は無い。
私のせいとは言え、君は充分に使命を果たしてくれた。
人間に戻れば、前みたいに普通に生きていいんだよ」


しかし、麻衣の決意は固いようであった。

「お願いよ、お父さん」

その一言を残し。
麻衣はベヴスタイン移植作業へと移って行ったのであった。


この前日。

麻衣は日本を発ってから、初めて栄太へLINE電話をかけていた。

どうしても、声が聞きたかったのだ。


「麻衣!

無事で良かった!!

ずっとLINEも来なかったから、メチャ心配だったよ」


栄太の声は、少し涙ぐんでいるように聞こえた。

しんみりとした雰囲気になりたくなくて、麻衣は得意気に言ってみた。


「テレビのニュース見た?

◯✕国のカマキリロボット事件!

あれ、わたしが一人でやっつけたんだよ!!」


「見た見た!

ニュースじゃ誰がやっつけたかとか言ってなかったけど、マジ!?

あんなのを!?

スゴ過ぎだよ!!」


「なあんだ、わたしのことは言ってなかったんだ、マスコミひど!!」


二人は、いつもの陽気な会話に戻っていた。

栄太が嬉しそうに伝える。


「そうそう、クラス替えだけど、やらないって!

今年も一緒だよ!!」


麻衣は、ふと我に返った。

暦は4月に入っている。

帰国したら、もう3年生だ。

日本を発ってからずっと、イスロを倒す為、パウエル少佐も言っていたように自らを「闘うマシーン」として集中し他の一切を絶って来た。

だが………そんな日々も、もうすぐ終わりを告げる。


麻衣は急に、栄太への思いがつのって来た。


「栄太…………早く会いたいよ」


以前より素直になった麻衣の気持ちを、栄太も受け止める。


「俺も会いたいよ!

………毎日、麻衣のことを思ってる。

待ってるよ!!」


麻衣は、自分でも思いもしなかった言葉を口にした。


「………帰ったら、わたし、人間の身体に戻ってるよ。

………いっぱい…可愛がってね」


これまでになく少し艶がかった麻衣の声。

電話の向こうが、ほんの少しの間、黙り込んだ。

見えない状況だが、顔を真っ赤にした栄太は思わず叫んでいた。


「麻衣………麻衣!

どうしようもなく好きだ!!

早く帰って来てくれ!!」


麻衣も負けずに応えていた。


「わたしもだよ。

早く帰りたい!

栄太……愛してる!!」





日向も、美枝に電話していた。


「………明日、ベヴスタイン移植する」


時差を考慮し、日向は美枝の帰宅時間に合わせてカリフォルニア朝6時に電話をかけていた。

麻衣達の留守中、日中はエリック=ティーチャーもラグビー部顧問で在宅しない為、美枝も都内の研究室へは愛猫・ニャーミーを連れて通勤していた。

ニャーミーは賢いネコである。

研究室でも所定の場所で大人しくし、職員達に愛想を振りまいている。


電話の向こうで美枝は、絞り出すように言葉を口にする。


「………そう。

うまく行くことを心底願ってるわ。

もう……イスロと闘うことでも身が裂ける思いだったのに、まだ残ってるのね」


恨みごとのように呟く美枝の気持ちも、日向は汲まなくてはならない。

これほどの心配事を抱えた母親など、世間にもそう居ないだろう。

ましてや、自分自身が撒いた種なのだ。

美枝をなだめるように日向は伝える。


「美枝。

必ず成功させる!

経過は随時連絡する」


父親として、エンジニアとして。

責任の重さとともに、自身最後の闘いに望む覚悟の日向であった。




剣持刑事37歳は。

イスロ本部合同捜査の件が一定の解決を見た後も帰国せず、日向一行と共にカリフォルニアに滞在していた。

真行寺麻衣のベヴスタイン移植が無事完了するのを見届けたかったのだ。

やはり、自ら最初から携わって来た件………その顛末を見るのは、感慨深いものとなっていた。


………だが!

それにかまけ、重要なことを彼は忘れていた!!


「グワァァァァァァァ

ダァジィ〜〜〜ン!!!

無事だったのねッ!?

ホント生きてるのねッ!?

ダァジィ〜〜〜ン!!!

グワァァァァァァァ」


こちらも日本を発ち、ようやく初めて由美香へかけた剣持のLINE電話。

それは由美香の号泣で始まった!


「ハハ(汗)……由美香ちゃんも元気でいたかな?」


「グワァァァァァァァ

グシュッグシュッ

グワァァァァァァァ


電話の向こうの号泣は、なかなか収まらない。

鼻を啜る音もだ。

まるで昔見た、特撮映画の怪獣の雄叫びのようなボリュームで剣持のスマートフォンを震えさせている。


「ゆ………由美香ちゃん?

由美香ちゃん!?

大丈夫?」


「グワァァァァァァァ

なんで!?

グワァァァァァァァ

LINEくれるグワァ

つったじゃんグワァァァァァァァ

なんでグワァ

くんないの!?

グワァァァァァァァ」


またしても剣持は慌てる。


「ああ、ゴメンゴメン(汗)

現場が緊迫してたし、アメリカのメンバーとも一緒だったし………」


「グワァァァァァァァ

LINEグワァァァァァァァ」


剣持は。

麻衣から貰っていたアドバイスも、すっかり忘れてしまっていた自分を後悔した。

慌てて取り繕おうとする。


「ゴメンゴメン、ホントにゴメン!

あ、そうそう!!

お土産何が欲しい!?

ん〜〜と………ここはカリフォルニアだから………ディズニーグッズなんかどうかな!?」


「グワァァァァァァァ!

ウチは千葉だっての!

ディズニーなんか、飽きてるっつのグワァァァァァァァ!!」


油に火を注いでしまう剣持。

途方にくれていたが………

ひとしきり泣いたら、落ち着いて来た由美香。

ウソだったように普段へと戻る。


「お土産?

ん~~とね………トレジョのエコバッグがいい!」


「ト………………トレジョ?」


聞いたことの無い銘柄………エコバッグなんかでいいの???

またもやカルチャーショックな剣持であった!!


因みに、由美香の言う"トレジョ”とは米国の人気スーパー「Trader Joe's(トレーダー・ジョーズ)」のことであり。

そこから販売されるエコバッグ、トートバッグは、そのデザイン・実用性・価格で米国本国でも新作が発売されるたびに数十分で完売するなど、社会現象になるほどの人気が続くアイテムである。


また、日本国内には代理店が無く。

通販で購入も可能だが、モデルによっては米国本土でしか入手出来ない希少性も相まって、今や米国旅行の土産品として定番となっている。

特に由美香のようなティーンエイジャー女子の間での人気も高く

"タダの買い物袋”

の域を超えた商品である!

ネットで調べてみた剣持であったが、やはり不安な為、FBIのジムに相談。

「That's a good choice!」
(良い選択だね!)

ジムは快く。
日本人観光客にもウケが良く、なおかつ米国内のヤングエイジの間で人気の高いデザインのものを数点チョイスし。
剣持の宿泊先のホテルまで、わざわざ持って来てくれた!

剣持は、とても恐縮したが。

「This is a bonus for you.
Take good care of your girlfriend, Hiro!」
(これは君へのボーナスだ。
ガールフレンドを大事にしろよ、ヒロ!)

ジムは笑顔だった。
そして、彼自身も。
はるばる日本から来た剣持と共に事件を解決し、無事に帰すことの出来るのを喜んでいた。

「Thank you so much!
Jim!!
I will never forget your support and cooperation, even after I return to Japan!」
(本当に、ありがとう!
ジム!!
貴方からの御支援、御協力を日本へ帰ってからも決して忘れません!)

剣持が右手を差し出すと、ジムは両手でしっかりと握りしめた。

「We're friends now.
Please contact me if you ever come to America again.
Good luck!」
(我々は、もう友人だ。
また、アメリカへ来ることがあったら連絡をくれ。
幸運を!)

剣持の目に、涙が光っていた。

「Please do come to Japan!
I'll treat you to a full course meal at a high-end Sushi restaurant in Tokyo!」
(日本へも是非お出でください!
東京で、高級寿司店のフルコースを御馳走いたします!)



ベヴスタイン移植作業が開始され、3時間が経過していた。

付き添いの華裏那、ナタリアの二人は当初、研究所内のラウンジで作業の終わるのを待っていたが。
当面時間がかかると見て、外の空気を吸いに出た。
研究所の外には、おあつらえ向きのテラスがあり。
二人はテーブルの椅子に腰掛けた。

雨季を終えたばかりのシリコンバレーの午後は陽当たりが良く、真っ青な空が広がっていた。
4月でも22℃まで上がるという気温だが。
時折頬を撫でる、程良く涼しい風が心地良かった。
この風は、そこから程近い海。
太平洋に繋がるサンフランシスコ湾から吹いて来る特有のオンショア・ブリーズと言われるものだと、華裏那は知っていた。

Wind is blowing from the Aegean
女は海………

オンショア・ブリーズの吹いてくる方へ顔を向け、華裏那は唄を口ずさむ。

「Is that a Japanese song?」
(それ、日本の唄?)

不思議そうな笑顔でナタリアが尋ねる。

「Yes, that's right.」
(ええ、そうよ)

その歌詞にもある通り、オンショア・ブリーズはアジアと繋がる太平洋から吹いていた。

「It's a beautiful song」
(綺麗な唄ね)

褒めるナタリア。

この唄は。
華裏那がホステス時代に常連客にせがまれ、よくカラオケで唄っていた 
ジュデイ・オングの
「魅せられて」
だった。
英語は勿論、日本語を含め5カ国語を話せるという才女のジュデイ・オングであったが。
この「魅せられて」のサビの部分でも、流暢な英語を披露している。
フィリピンパブに勤める前、日本人ホステスのみの店で働いていた華裏那は、公用語として英語を使用するフィリピンで生まれ育ったのを強みとし。
他のホステス達が苦手とする英語歌詞の唄でも、美しい発音と唄い回しで差を付けた。
そして、その唄声にシビレる客が大勢いたのであった。

今思えば。
ドメニコも、そのジュデイ・オングのように多国語を操っていた。

しかし。
そのドメニコも既に、この世に居ない………………


「Hey... I'm sorry to ask this, but is Katrina really Japanese?」
(ねえ………こんなこと訊いてごめんなさい、カトリーナは本当に日本人なの?)

ふいにナタリアが尋ねてきた。
笑う華裏那。

「I wonder if it's strange after all?」
(やっぱり、変?)

「No, that's not it.
It's just that you were different from my image of Japanese people.
Your name is Katrina, right?
But... you're Mai's older sister, aren't you?」
(ううん、そうじゃないの。
アタシの日本人のイメージと違ってたから。
あなたの名前もカトリーナでしょ?
でも………麻衣のお姉さんよね?)

華裏那は含み笑いの表情で告げた。

「Mai and I are sisters, but we have different mothers.
My mom is Filipino」
(麻衣とは確かに姉妹だけど、母親が違うの。
あたしのママは、フィリピン人なの)

「I knew it!
That makes sense.
So, Mai is the daughter of his second wife, then」
(やっぱり!
それで納得したわ。
じゃあ、麻衣は後妻の娘さんなのね)

その答えを、どう伝えようか………
華裏那は少し躊躇した。
オンショア・ブリーズが、少しだけ強めに吹いて来た。

「That's not true」
(そうではないの)

「What?」
(え?)

怪訝そうな表情へと変わるナタリアに、華裏那は、これまでの経緯を話し始めた。

「………………We talk normally now, but...From the time I was put in the orphanage until I reunited with Hinata, all I felt was hatred.
Especially since I thought I could never accept Mai's family, who were living comfortably after taking away my only family member.
Even when Domenico gave me the order to destroy Mai...
I even seriously considered doing it」
(………………今でこそ、普通に話してるけど。
孤児院に入れられてから日向と再会するまでは、憎しみしかなかったわ。
ましてや、あたしから、たった一人の家族を奪ってのうのうと暮らしてる麻衣一家なんか絶対認めるもんかと思ってた。
ドメニコから、麻衣を破壊しろってコマンドを受けた時も。
本気でやっちまおうとさえ思ってたの)

ナタリアは神妙な表情で聞いている。
華裏那は続けた。

「……………But.
When I met Mai for the first time.
And beat her to a pulp.
I felt like I understood her feelings.
"This girl, too, was suffering in her own way," I thought.
"Her mother, who knew the truth, must have suffered even more."」
(……………けど。
麻衣と初めて会って。
コテンパンに叩きのめしてみて。
あの子の思いが伝わってきた気がしたの。
"この子も、この子なりに苦しんでたんだな”………って。
"事実を知ってた、この子の母親はもっと辛かっただろうな”って)

ナタリアが口を開く。

「………I can't believe that kind Mr. Hyuga was that kind of person.
I'm shocked, but…
But I think I understand how Katrina feels」
(………あの優しいMr.ヒュウガが、そんな人だったなんて。
ショックな気持ちもあるけど………
でも、カトリーナの気持ち。
アタシにはわかる気がするわ)

ナタリアも、自らの生い立ちを語り始めた。
物心付いた時からストリートに立たされ、自分を売ることを強要させられて過ごしたこと。
それ以来、自分は男の道具でしかないんだ………と考えながら育って来たことを。

「That's a terrible story...」
(ひどい話………)

聞かされた華裏那は、目を覆いたくなった。

だが、ナタリアは続けた。

「But you know...
The person who opened my eyes was your dad... Mr. Hyuga.
He was the first man to protect me as a "human being"...
I was truly saved.
He taught me how to find my true worth.
So... Katrina.
Please, I beg you, forgive Mr. Hyuga... your dad.
I'm begging you」
(でもね。
そんなアタシの目を覚ましてくれた人が、あなたのパパ………Mr.ヒュウガなの。
彼は、初めてアタシを"人間”として守ってくれた男性………
アタシは本当の意味で救われたの。
本当の自分の価値を見つけることを教えてくれた人なの。
だから………カトリーナ。
どうか、Mr.ヒュウガを……あなたのパパを許してあげて欲しい。
お願いよ)

ナタリアは、潤んだ瞳で華裏那を見つめた。

華裏那は俯いていた。

陽が傾き、オンショア・ブリーズも冷たく感じられる時間となっていた。

「...Honestly.
Men are truly a hopeless breed」
(………まったく。
男共って、ホントどうしようもない生き物ね)

華裏那は苦笑いしながら顔を上げ、風上に向けた。
冷たいオンショア・ブリーズが、焼け残っていた燻ぶりを消しさってくれる感じを覚えた。

華裏那はナタリアに向かい、こう告げた。

「But you know...
As it says in the lyrics I was singing earlier,
"Women are like the sea."
Some people call them the mother sea, but it's different from that.
Women embrace and purify everything, both beautiful and ugly... They are vast and deep.
They're not like men, who are so small and pathetic!
Just like you and me」
(けどね。
さっき唄ってた詞にもあるんだけど
"女は海”なのよ。
母なる海、なんて言う奴いるけど、それとも違う。
美しいものも、醜いものも、全て包み込んで浄化する………広大で深いのが女なのよ。
男なんていう、小さくて情けないのとは違うの!
あなたと、あたしみたいにね)

「But... Katrina...
You got a small but reliable man, didn't she?
A man named Bayar」
(けど………カトリーナは。
小さくても頼もしい男をゲットしたでしょう?
バヤルという)

華裏那とナタリアは、顔を見合わせて笑った。


シリコンバレーは夕暮れを迎えようとしていた。
冷たい風に追い立てられるように、二人は再び研究所へ入って行った。





麻衣が、米国シリコンバレーの研究所に入ってから一週間が経った。


ロスアンゼルス空港を飛び立った、一機の旅客機が。
日本の成田空港へ着陸した。


空港の到着ロビーには。
麻衣の母親・美枝と、その腕に抱かれたニャーミー。
そして……栄太の姿があった。

ゲートの人の列の向こうから黒髪の少女が、スーツの男性と金髪の女性に付き添われながら進んで来る。

その少女は少し、足元がおぼつかない様子に見えた。
しかし。
確実に、しっかりとフロアを踏みしめながら近付いて来た。

栄太は。
その姿が誰なのか判ると、手を振りながら大声で叫んだ。

「麻衣〜!!」

栄太に気付くと、少女はゆっくりと顔を向け。
ニコリと笑ってみせた。


ベヴスタイン移植作業を無事終え、人間へと戻った麻衣は。
生命維持カプセル内で一定の体力は保持されていたものの、しばらくはリハビリが必要となっていた。

38歳となった剣持刑事とナタリアに、時折支えられながら。
懸命に麻衣は歩き、美枝、ニャーミー………

栄太の元へと、辿り着いた。


そこで皆へ見せた、最高の土産………

それは。
二年振りに流した、麻衣の涙だった。




その日、もう一機………
茨城空港経由で、マニラへ向かうプライベート・ジェット機があった。


それには。
キッド三人衆………


華裏那。
そして……日向武雅が乗っていた。


戦闘ヒューマノイドに人の心を持たせるのは危険だとドメニコは結論付けた。
だが………
日向は違っていた。

「強き存在こそ、人の心を持つべきだ」


心に曇りなき時は心静かなり

心に物なき時は心広く体泰(ゆたか)なり

心に欲なき時は義理を行う

心に怒りなき時は言葉和らかなり

上杉謙信


学校は、新年度を迎えていた。


    Kikaider Student
    完


〈Ending Theme〉


キャラクター・画像アプリ;
YouCamPerfect
Picrew.me 
ChatGTP
Gemini